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ビャルネが、トゥーリッキを潔白だと。
……そうか。
[場を去る前に教えられた内容には、瞳に思案の色が過ぎった。歩いていく。雪を踏む音は静寂によく響く]
真は、何れか。
見極めん。偽りに呑まれないために。
[呟きは雪に吸い込まれるように消え]
[歩みを、ふと止めた。コートの前、ボタンとボタンとの間にある隙間に手を入れる。取り出したのは、ベルトに挟まれていた物。普段はコートに覆い隠されている――幾つかの武器の一つ。
刃渡りは二十センチ程だろうナイフ。革製の鞘を取り去ると、銀色に輝く鋭い刃が現れて]
……、
[その光を見つめる瞳は常よりも色濃く憂いを孕む。
時に危険を帯びる任のさなかで。
男は人を傷付けた事がある。そして――殺めた事も]
……飽和を。終末を。
そのようなものが、なくとも。否。ないとするならば。
私は。どうすれば、良いのだろうか。
[ナイフを持った腕を降ろし、呟きながら歩く。やがて見えてきた姿に、立ち止まった。ウルスラ。抜き身のナイフを手にした男の姿は、彼女の目にはどう映ったか]
……ウルスラ。
[呟くようにその名を呼び、一歩一歩、近付いていく。それに伴い、彼女は離れていこううとしただろう。その距離を詰めていく間は、悩む間のようでもあった]
[突然に一歩、駆け出すように踏み出して、空いている方の手でウルスラの腕を掴んだ。ウルスラは驚いたような表情をしたか。その顔に顔を寄せ、間近に見下ろす。ナイフがなければ、愛の告白をするかのような様]
……すまない。
[だが、囁く言葉は、愛ではなく謝罪で]
あるいは。謝るべきでは、ないのかもしれないが。
それでも……
[見た目は細身気味ながら、充分に力を具えている男は、女である相手を逃す事はない。ウルスラの表情に焦燥や恐怖が浮かんだなら、僅かに眉を下げて]
[ずぶり、と。その胸にナイフを突き立てた。切っ先から沈んでいく刃は、およそ正確に心臓を捉え]
……
[滲み出る血が刃を伝い、白い手袋を赤く染めていく。一度捻るようにしてから、ナイフを抜き取った。掴んだ腕を反対側に押すようにしながら。その反動でウルスラの体は背中から雪の上に倒れ]
……嗚呼。悲しきかな。
[倒れゆく体から勢い良く噴き出す血を、男は浴びた。多量の血によって、紅いコートはただ濡れたように。代わりに、薄い色の髪と顔に飛び散った血が目立ち]
[そして、眼鏡のレンズにもかかった血のせいで、視界のところどころが赤い点で隠されていた]
……刻み込まなければ。
どこまでも……幾つも、幾つも。幾つも……幾つも……
[どこか熱に浮かされたように呟く。その場に既にレイヨがいたか、訪れたならば、そこで気が付いたように其方を見やっただろう。向けるのは虚ろな瞳。血に濡れた姿で、一瞬、仄かに――口元へ、笑みを浮かべて。
普段けして浮かべないそれは、愉しそうでも嬉しそうでもない、形だけをなぞったような物だっただろう]
……レイヨ。
[軋む音。近くまで来た彼の名を呼び]
どうして。何故か。
為さねばならないからだ。血を以て、血を。
早く終結を迎えなければ……終焉が来たるからだ。
[問われる理由に、ぽつりぽつりと口にする。血を浴びた男の姿は、凶兆であるオーロラにより似ていたか]
死を。多く見たくないからこそ、殺した。
しかし。見たいからこそ、殺したのかもしれない。
[ウルスラに寄っていくレイヨを見据えながら返す答えは――疑っていたからだとは、言わないもので]
前に言った通りだ。血を以て、血を制する。
元凶を見付けん。事態を粛正せん。
狼遣いを処刑し切る事が、終結だ。
この村が滅びる事が、終焉だ。
[問い掛けには淡々と。
最後の問いに答える時だけは、少しく目を伏せて]
……悲しみを。寂しさを。苦しさを。
そして、恐れを。
[低くした声は若干震えを含んでいたかもしれない。丸薬を飲んで気を失うレイヨに、瞬き――やがて目覚めた彼の口からウルスラの無実を聞くと]
……そうか。……残念だな。
それで終わらなければ。
終焉から逃れられないというのならば。
その時は、諦めるしかない。
ただ。わからない事だ。
為さなければ……その後が、どうなるかなど。
[暗い空を、紅いオーロラを、仰ぎ見て。見つけても。そのレイヨの言葉には返事をせずに]
……レイヨは。
遠い過去を、覚えているか?
[代わりに、一言、問う]
私は覚えている。全てを。何一つ、忘れる事はない。
私はまじないなどできない。狼も操れない。
唯一、……記憶力だけは、必要以上に、甚だしい。
[オーロラを見ながら語る言葉は、告白のように]
それ故に。
この目に見たものならば、死も、けして忘れない。
[そこでふと、レイヨに向き]
……だからこそ。見たくない。
せめて。飽和させられればと思うからこそ。
見たいとも、思う。
[見たくないから。見たいから。先程そう返した「理由」を補足するように重ねる。暗い瞳に僅かに過ぎった色は、狂気に近かったかもしれない。――狼遣いのそれとも、揺らぐ者のそれとも、違う]
……矛盾。
愚かしいな。
[吐き捨てるよう、独りごちた後]
……。それでも。
村を救いたいと思っているのは。
そのためにこそウルスラを殺したのは。間違いない。
……特別に疑っていたわけでは、なかったが。
……、私はウルスラの件を伝えて来よう。
ウルスラは、誰か他の者に。
必要があれば、後で私が手伝っても良い。
[最後は使者としての表情と言葉に戻り、告げた。それから、血に染まった姿のまま、歩いていき**]
[血が付いてしまった眼鏡は、一旦外した。レイヨ程ではなくも、ぼやけがちになる視界。
伝達へ向かい、マティアスの小屋を訪れて見えた顔は、小屋の主であるマティアスと、もう一人、トゥーリッキ。殺したのか、と確認されれば、無言で頷いた]
……恨めば、良い。
[恨む、と言うトゥーリッキに、抑揚も薄く返し、去っていく姿を見送った。少しの間、マティアスの姿を見据えてから――言葉は落とさず、小屋を後にして**]
[使者の男は、ウルスラの死とその無実を伝えていった。ナイフをしまい、眼鏡と手袋は外しても――見た目は常より赤いまま。己が殺したと。明言しなかったとしても、相手には察せられただろう]
……必ずしも。
苦境を、惨事を、終わらせんと。
[長老に報せる時は、そう付け足して。雪を踏み締め、歩いていく。その足跡は既に赤くなくなっていた。はたと、立ち止まる。感覚を失いかけている両手を見つめ]
……
[ゆらりと、己の小屋へ向かった]
[己の小屋に帰り来ると、赤が散った髪と顔を濯いだ。赤く染まる雪解けの水。噴き出た血が雪に広がっていったように。眼鏡のレンズを磨き、かけ直して]
……、
[火を入れた暖炉の傍に椅子を置いて腰掛けた。
小さな小屋の中には、必要最低限といえる家財の他には、幾らかの書物しかない。
指先で首飾りを摘み、眺めるでもなく見る。やはりところどころに血が付いたそれの中心、錆び付いたタグの裏には、ごく小さく細い文字で男の名前が書かれている。――アルマウェル・“J”、と]
……終わらせなければ。
そうでなければ……
私も、死するか? ……
[炎へ視線を移し、呟いて。
瞼を下ろし――短い眠りへと*落ちる*]
[男は程無くして目覚め――辺りへ視線をやった。ぼんやりとしたのは一瞬だけ。すぐに覚醒し切り、立ち上がる。暖炉の火を消してしまうと、小屋を出て]
……嗚呼。
[零したのは白い溜息一つ。冷えた空気を縫うように、緩慢な歩みで、雪の上を歩いていく]
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