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サクラちゃん
[もう一度、呼びかける。声はかえらない。鏡に書かれた文字は、赤黒く、自分を呼ぶ声に似ている気がする
泣きじゃくる自分の手を引いてくれた少女の名。あの日もここへ来て、四畳半の部屋で]
落ちてきたのか、この布団…
そうか、この上の部屋は。
[―――出会ったのは]
[雪のように埃をまわせた布団のそばにしゃがみ、そっと手を置く。ざらりとした埃の感触がした]
あの日、この部屋で
[遠慮も屈託もない少女。この家に慣れてなかった自分を布団と同じように引っ張り出してくれた少女。――サクラちゃん]
サクラちゃんの手を離さなかったら、
『忘れ物』なんて、なかったのかな
[ひっぱってくれた手を、離したあの日。少女が自分ではなく、別の手に引っ張っていかれたあの日]
[フォークで庭を掘る。掘っていくと、コツンとぶつかるものがあった]
…
[それは小さな箱。二人で埋めたタイムカプセル]
…みーつけた。
[その言葉を、小さくもう一度呟いた]
[でもあの日。出会った知らない大人の人に、サクラちゃんが連れて行かれた先は病院で]
この箱に入れてるなんて、
サクラちゃんは…
… やっぱり、自分で、知ってたんだ
[遊びになんて行けない事を]
[そしてもう一度]
[改めて、呟いた]
ただいま、サクラちゃん
[そして]
……
[*呟かれた別れの言葉は、サクラの木へと、静かに消えた*]
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