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[>>2:52老人の浮かべる穏やかな笑みは、懐かしい温もりを湛えていて。
同じように何時かの光景を思い返していたのだろう、>>52独り言ちていたウミが問いかけてきたのは少しの間を挟んだ後。
それに答えることは一先ず置いて、こちらから違う問いを投げて]
…そっか。
おじーちゃんは、あのウサギの言っていたの、探してるんだ。
[>>2:53探そうとしている人が居る事は、ゼンジからのコエで知っていたけれど。
実際にその人を目の前にすれば、複雑な感情が胸に沸いてくる。
誰かが狭間に落ちたと兎も言っていた、早く探してやらないと─と。
そう考えるのも自然だとは、理解しているのだけれど]
…アタシ?
…良く、わかんない。
[持っていないか、という問いかけに返すのは何かを耐えた笑み。
痛いのか、苦しいのか、泣きたいのか。そのどれとも違うかもしれない。
押し込めてきた記憶の中から、あの子のコエが、顔が、胸をいっぱいに埋め尽くしていって]
──アタシがわかるのはさ。
もうちょっとだけ、探すのを待って欲しい、
気持ちだけなんだ。
[微笑む頬に透明な一筋を伝わせながら、ナニかと重なるコエを紡いだ。**]
年を取ると、待つと言う行為は然して苦にならん。
伊万里ちゃんが思うようにしなさい。
[探す力は飼い猫が得ているけれど、それを示すことが出来るのは己であり、己が口にしなければ暴かれることもない。
時間を作ることは可能なはずだ]
…伊万里ちゃんや。
わしは伊万里ちゃんの抱えているものを取り払ってはやれんが、共有して一緒に泣いたり笑ったりしてやることは出来る。
抱えきれなくなった時は、いつでも会いにおいで。
待っておるよ。
[ここにいる間に限らず、現実世界でも訪ねてくればいい、と。
イマリの頭を撫でながら、彼女の力になってやりたくて、そう言葉を紡ぐ]
[刹那、ウミの身体が薄れ、イマリの頭を撫でる感触が消えて行った*]
─ 回想 ─
[北陸の古都にあった初音の実家は、ある日、なくなった。
家屋が、ではない。
家族が、初音を残して全員死亡したのだ。
一家毒殺事件として、一時期ずいぶん話題になった。
曾祖母の米寿の祝いと、祖父の還暦祝いは、悲惨な呪いの場所と化してしまった。
3か月後、自殺遺体で見つかった男が犯人とされて捜査は決着したけれども、
初音は今も疑っている。
母が示唆して男に実行させたのではないかと。]
[当時8歳だった初音に、事件の記憶はほとんどない。
ショックが大きすぎて、それ以前の記憶も消えていた。
ただ、何かのはずみで、断片的に、
思い出すことがあった。
母の歌や、母の声や、母の持ち物や、母の衣服の特徴を。
そして、幼い初音を何度も怯えさせた、
母の丸々とした指を、分厚い手のひらを、力強い腕を。]
─ 診療所 ─
[青い世界から波の上に出たような感覚だった。
白い。
明るい。
初音はのろのろと目を開ける。
天井扇が回っていた。
漆喰だろうか、診療所の天井も壁も確かに白い。
入り口の近くで意識を失い、倒れていたようだ。
起き上がろうとするだけで大変な力が必要だった。
どうにか立ち上がる。
ヴァイオリンケースを抱えたまま、よろろろと歩く。]
[歩くたびに頭が痛んだ。
倒れた際にどこかで後頭部をぶつけたのかもしれない。
初音は半開きになった診察室へのドアに近づく。
すのこが置かれ、下駄箱が並んでいるのは、ここで靴を脱げという意味なのだろう。
が……、
迷ったが、初音はそのまま上がった。
無人の町で靴を脱ぐのは怖い気がして。]
[声や気配のする方へと進路を取った飼い猫は、茂みを通り抜けて別の道路へと出てくる。
そこにいたのは数名の男女。
診療所の方にも気配はあるよう。
飼い猫はその中の黒髪の女性へと近付いた]
「にゃあん」
[気紛れに使った力はこの女性へと向かったらしい。
一言鳴いて、ウミへと伝えようとしたが、奇妙な感覚が返って来て耳をピンと立てる。
きょろきょろと辺りを見回し、男女の一団から離れ行き、何かを探すように彷徨い始めた*]
[短い廊下の先はカーテンで区切られていた。
手前から少し覗いてみたが、予想通り診察室がふたつ、処置室がひとつ。
奥のドアの向こうにはソファとローテーブルが並べられていた。
患者が途切れると、ここで医師や看護師たちが待機したのだろうか。
初音は冷蔵庫に近づいた。
天井扇が回っていたので、電気は通じているはずだ。]
あれ...?
[なんとなく動きたくねーなって、ぼーっと海を眺めてたら、また一瞬歌が途切れた]
また、か?
[兎のまくしたてた台詞が蘇る、狭間に落ちちゃった、誰か......
がさり、と胸元で手紙が音を立てた]
『見つけないで』
(探しに来て)
[歌声の途切れた隙間に、入り込む、こえと、コエ]
......やっぱ、人探すか。
[鍵と螺子を探す気は起きない。けど、巻き込まれた人間が知らないうちにどーにかなっちゃうとか、ちょっと笑えねえ。
笑えねえんだよ、ほんと]
[流木から立ち上がって、街の方へと引き返す。多分、あっちに人がいるって気がする。
勘だけど.........なんかこう、匂いみたいなのがすんだよ。
人に会ってどうするかなんて、まだ決めてねえけどな*]
[パオリンと紅葉、二人に向けた問いへの答えはどうだったか。
自分の耳──というか、意識には、相変わらず歌が届いている。
懐かしさを帯びて響くそれは、今どこでどうしているかも知れぬ者──『一族会議』とやらの決定で別れさせられた者のそれと重なって。
それが、捜したくない、捜させたくない、という思いとするりと結び付いていた]
…………。
[ふる、と首を横に振る。
話の途中、一瞬意識が浮いたのは暑さのせいか。
いずれにしろ、浮いた意識は歌声に浚われて]
…………。
[何となく、呼ばれたような気がしたのは、やっぱり暑さのせいだろうか。
ともあれ、からん、と下駄を鳴らし。
朝顔が呼ぶよに揺れる方へ向けてある気だした。*]
[同じくらいの年かな、なんとなく、最初に会ったのが女性じゃなくて良かった、て気がするあたり情けねえ。]
兎に無茶振りされてるって意味なら、御同輩ですかね。
[なんとなく営業用スマイルで、近付こう、として、足が止まる]
『見つけないで』
(見つけたよ)
.........あんた、
[近付きたいような、逃げたしたいような、微妙な気分。
なんだこれ?]
[がさりと、また胸元で手紙が音を立てた。俺は息を整えるように吸い込んで、足を踏み出す]
俺は、我邑夏生...
ここで会ったのは、あんたが初めてなんだけど......
[とりあえず、自己紹介だろ、ここは、ああ、けど...]
.........あんた、鍵か螺子、持ってないか?
[いや、ストレートすぎるぞ、俺!*]
……てぇ……はい?
[鍵と螺子、それは兎の捜し物で]
いや……持ってるくらいなら、探す必要は……。
[ないでしょー、と軽い口調で言いかけて。
ふと、生じた疑問。
持ってるなら探さない。
探そうという気になれなかったのは、持っているから、だとしたら]
あー……。
[ふる、と首を横に振る。
なんだか頭の中がごちゃっ、としてきた]
ていうか、そこでそういう直球投げてくるそちらさんこそ、どーなんですかと。
[少し思考をまとめる時間が欲しくて、返したのはこんな問い返し。*]
いや、その...
[そりゃそうだ、持ってるなら探す必要ねえよな...あれ?]
兎が、誰かが持ってるかもって言ってたんで、つい......
[ここは謝っとくとこだろ、なんか疑ってるみたいに聞こえたに決まってるし、て、思ったんだ、思ったんだけどよ]
.........俺は、良く判らないんだ。
[問い返されたら、ほんとに判らなくなった。あの歌と、こえと、コエ...
近過ぎて、遠すぎる...]
いや、すみません、わけわかんないですね。
[なんとか浮かべた笑みはぎこちなく見えただろうと、自分でも思う**]
……なあ。
探されたくない、見つけないでほしいって。
そう、思うのには、なんか理由があると思わん?
[口にしたのは、多分、聞く方にはかなり唐突な言葉]
その理由が、はっきりせんと。
……無理に見つけだしても、また、ループするだけのような気がするんだよね、俺は。
[言いながら、懐に手を入れる。
鎖を通した、未だに処分できずに持ち歩く名残を軽く、撫でて]
兎が言ってた、時計の主……だっけ。
『それ』は、『何で』沈んでるのか。
それがわかれば、なあ……とか。
そんな事思ってたりするんたけど、これ、おかしいかね?
[相変わらずの苦笑いのまま、こんな問いを投げかけた。**]
─ 診療所 ─
[夢を見ていた。
海岸に立って波打ち際を見つめていると、
どこからか白い霧が立ち込めてきて、なぜか自分はこの海の上を歩けると確信する。
そして、波の上に足を乗せる……。
海の上から振り仰ぐと、崖と灯台と青空が眩しかった。
でも、自分はもうあの場所へは行けないのだと思った。
舞台やTVドラマのスモークの演出よろしく、初音は霧に包まれる。
白すぎて何も見えない。
そう思った瞬間、落下する感覚に全身が総毛立った。]
[海に落ちたのだ。
青、青、青。
叫ぼうとして、初音は気づいた。
自分が処置室のベッドで上半身を起こしていることに。
眠っていたのは数分か、数十分か、あるいはそれ以上だろうか。
動悸のおさまらない胸でヴァイオリンケースをぎゅっと抱え、背中を丸めた。**]
[この世界に来てからどれくらいの時間が経過したのだろう?
それとも、時間が停まっている世界なのだろうか?
初音はのろのろと動いてベッドから離れた。
頭痛は少し残っていたが、寝る前よりはずっとましだ。
天井扇からの風のおかげか、悪夢を見たにしても、気分はそう悪くない。]
落ちついて……大丈夫……
[深呼吸をしながら、自分に言い聞かせる。]
[濡らしたハンカチを額に当てて、初音は顔を上に――天井扇のゆるやかな風に向ける。
兎の口ぶりでは時間がなさそうだったけれども、
出会ったウミ、パオリン、ゼンジの3人はちっとも急いでいるふうではなかった。]
誰かがこの空間を消したがっている……?
でも、この空間が何のため存在するのか…わからない…
[兎の言葉を全部信じるわけにもいかないと思う。
そもそもの元凶は兎かもしれない。
呼びこまれた人間が右往左往するのを、どこからか眺めて面白がっているのかも。]
[結局、確かなことは何一つわからないのだ。
キーワードは、『鍵』、『螺子』、『時計』、そして]
……海?
[そういえば、青い波の幻覚を何度も見た。]
海に……何かある……?
『鍵』か『螺子』が…………?
[思いつきだったが、手がかりもない現状、
場所を絞って探すしかないようにも思える。
初音ひとりが海岸へ行ってそうなるわけでもない気はする。
するが、このまま診療所にいるのも落ちつかない。]
[初音は待合室のベンチでヴァイオリンを取り出した。
あの暑い日射しの下を再び歩くと思うだけでうんざりする。
自分を励ますために、1曲、好きな曲を弾いておこう。
アストル・ピアソラの『リベルタンゴ』を弾き始めた。**]
......理由、知りたいなら、海に行くといいかも。
あそこに沈んでます、きっと...
[あの歌は、あの海の底から聞こえているから*]
[譜をそのまま弾くのは難しくないが、
タンゴらしい哀調や色気を音色に乗せるのは大変難しい。
自分の音色に納得がいかず、3回も弾き直したが、
音楽にこだわっている場合ではないのだと思い、
初音は弓をおろした。
大きく息を吐く。
名残惜しく思う気持ちを吐き出す。
ヴァイオリンと弓を丁寧にケースにおさめると、
学生鞄とともに片手で提げ、
初音は立ち上がった。
飴色の木製のドアを押し開いて通りへ出る。]
─ 診療所前の通り ─
[通りには誰もいない。
どこからか風鈴が鳴るばかりだ。
夏の日射しは遠慮なしに照りつけていて、
影の位置は最初の遊歩道のころから変わっていないように思えた。]
タイムリミットがあるなら、
残り時間がわかるよう教えてくれればいいのに……
[目の前にいない兎へ愚痴をこぼしながら、
初音は歩き出した。
海へ。]
[夏神という男と一緒に、海岸の方へと戻る道を歩き出す。
俺はもう、確信し始めていた。
「鍵」と「螺子」それが、人の中にあるのなら、それはきっと...]
[やがて、目の前に広がるのは鮮やかなあお。
砂浜のしろとのコントラストに目を細めつつ。
懐に手を入れ、そこに隠したもの──鎖に通した二つの指輪を軽く、握り締めた。*]
[懐に手を入れた夏神の仕草に、自分の懐にある手紙を思って、俺は、なんとなく笑ってしまった。
ああ、多分そうなんだろう。
懐に隠したものは、捨てたくて捨てられなくて、忘れようとして、決して忘れられないもの]
俺はね、海と朝顔に思い出があるんだ。
[言葉は、隣の男に聞かせるためか、海の底に隠れる何かに向かって落とすのか、俺自身にも判らない]
好きな女に、初めて出会ったのが夏の海で......彼女の好きな花が朝顔だった。
[朝顔は、夜に見た夢を朝に咲かせる花のようだと言った彼女は、眩しいくらいに真っすぐに、自分の夢を追いかけていて......俺は]
俺は、意気地が無くて、彼女を攫って来れなかった。
[都会で、同じ専門学校に通って、彼女はデザイナーを、俺はメイクアップアーティストを目指して......でも、俺は自分の限界を見てしまった。
1人で田舎に帰る、と告げた時、彼女の見せた悲しげな顔は、今も忘れられない]
そらのあお うみのあお
あしたさくはな あおいはな
[俺は歌を口ずさむ、波間に聞こえる声に重ねて]
[絵描きで詩人だった男は、肖像を頼まれた資産家の娘と恋に落ちて、駆け落ちした後病に倒れて.........娘とは別れさせられたんだという。
けれど、それでも]
『それでもきっと、ずっと好きだったのよ。
逢いたいって、思ってたの』
[彼女は確信している顔で、俺に、そう言った。それはきっと命の消えた後までも、と*]
……思い出?
[あおいろを見ながらぼんやりとしていたら唐突に始まった話。
途中口を挟まず、黙って聞いた後、ひとつ息を吐いて]
……夏の海なぁ。
あんまり、思い出ってないんだよなぁ、俺。
……ま、全然ないってわけじゃあないが。
[言いつつ、懐から引き出すのは鎖に通した二つの指輪。
これを渡したのも、返されたのも、どちらも夏の海だったなあ、と。
ぼんやり、思いかえすのはそんな事]
ある意味じゃあ、黒歴史、かね。
[独りごちる表情は、苦笑い]
[学生時代につき合っていた相手。
大学卒業と同時に家に戻る事は決まっていたから、一緒に来い、と言って、頷いてもらえて。
家的なあれこれがあったから式は挙げず籍だけ入れて、けれど。
その二年後、『一族会議で決まったから』という『家長命令』が下って別れさせられた。
……実際には、難病を発症した彼女が、自分から離れる、と父に申し出た事は知らない。
それは未だに隠されたままの理由]
……あー、そっか。
[ふと、思い至った事に小さく呟き、頭を掻く]
それで、探したくない、って思ったわけね、俺。
[ずっと聞こえる歌声は、別れた彼女の声で。
それが、最後に言われた言葉──『探さないで』と重なっていて。
『理由を知りたい』という意識の動きは、その言葉の理由が知りたい、という己が思いと重なっていたのだと。
そんな響き合いがあったから、不可思議な事象を引き起こしてきたのだと。
そんな理解は、すとん、と落ちた。*]
黒歴史?
[黒歴史てのは、正直意味不明だったけど、何かに納得したような顔と、だから探したくないと思った、という言葉は、なんとなく予想の範囲内だ]
もしかすると、ここに迷い込んだ人間は、みんな同じようなものなのかもって、思ったんだ。
[いつの間にか、言葉が外向けから、また素に戻っちまってるな......まあいいか]
で、あんた、今も同じかい?
[やっぱり、探したくないのか?と、聞いてみた。答えは無くてもかまやしないんだけどな。]
あー……海に思い入れがある、ってのは、あるかもなぁ。
[思い返すのは、展望台で出会った老人の事。
口調の変化などは気にする事なく、向けられた問いに一つ、息を吐く]
……ん。
沈んだ理由によって、って考えてたんだがな。
よくよく考えたら、理由聞くには、見つけないとならんのだよなぁ。
[返すのは、遠回しの否定。
ここでこのまま沈めてしまったら、何もかわらないままだなあ、と。
過ったのは、そんな事。*]
あはは、そりゃそーだ。
[知りたいなら、見なきゃダメだ。あったりまえの答えに俺は笑う]
しっかし、相手は海の底かあ、潜ってみるか?
[見つけようと、そう思った、けど、さて、どうするか、と波打ち際にしゃがみ込んだ。
綺麗な海だよな...水も澄んで、色とりどりの、朝顔が水底で揺れ......朝顔?]
さすがに非常識だなあ...
[ゆらゆらと海藻のように揺れる朝顔に、思わず呆れた声が出た*]
問題は、それだねぇ。
[相手は海の底、という言葉に肩を竦め。
波打ち際にしゃがみ込む様子を目で追い、その流れで海の中を見て]
…………。
まあ、兎が二足歩行するよーなとこだしな。
[あおの奥で揺れる朝顔に。
棒読みになったのは、許されろ、というべきか。*]
[優しい声に、気遣いに。自分は一人じゃないことを教えられた。
いや、最初からアタシは、独りじゃなかった。
コエを繋ぐ人がいてくれた。
同時、胸を過るのはあの子のコエ。
かちり、かちり。
何時の間にか、アタシの中で形を成してきたナニかが、動きだしそうで]
…あのね。
アタシ、おじーちゃんに───
っ、おじーちゃん!!
[伝えなくちゃ。
そう思った瞬間、ウミの身体が、存在が希薄になっていって。
咄嗟、伸ばした手は宙を掴むだけで、引き留めることは出来なかった]
おじー、ちゃん。
[消えてしまった。目の前で。
呆然と見開く瞳は、けれど涙はこれ以上零さなかった。
時計の針を進めたくなかった、時間を止めたままにしていたかった。
だから待って欲しかった。探してほしくなかった。
でも、流れを隔て続ければ、歪みが起きるのは当たり前だ。
だから、これは自分の─もしかしたら、同調していた彼と二人で─起こるべくして起きた事。
その結論を導き出せば、自ずと足の向かう先は決まる。
この場を離れかけたその足は一旦止まり、ウミが居たその場所へと向き直り]
ねえ、あなた。
誰かが歌っている声が聴こえていますか?
[喉の渇きに耐えかねて買ったジュース─今時珍しいガラス瓶─を手にして道に面した民家の軒下にしゃがみ込んでいる。
視線の先には、首を傾げた丸い瞳の猫。]
……、あなた返事してくれませんね。あのうさぎはしゃべっていたのに。
[いや、そもそもうさぎが喋る事の方がおかしいので。]
…ごめんね。
アタシ、もう、逃げないから。
───ありがとう。
[いつでも会いにおいで、と微笑んでくれたその人に謝罪と感謝を紡いだ後。
歪みを正す為に、コエが繋がれたその人の元へと駆けだしていった**]
そうだな、なーんかここが現実じゃねえって、改めて判った気いするわ。
[今まで、そこんとこあんまり疑問に思わなかったのが不思議だけど、それは多分...]
え?
[ふいに、ゆらと水の中の朝顔が一斉に揺れた]
なん...え??
[突然しゅるしゅると、水の中から伸びてきた朝顔の蔓に、俺は腕を絡めとられて]
お......わあっ!?
[気付けば、海の中に、引き込まれていた]
そらのあお うみのあお
[歌が聞こえる。
不思議に、溺れるような苦しさはない。
ただあおの中、朝顔が揺れて...]
(泣いてるのか?)
[ぽう、とあかるい光が顔を照らした。懐の中に隠した手紙が、金色に光っている**]
いや、現実じゃないのは最初からわかってたけど。
[距離を隔てても聞こえるコエの事があるから、そこの認識は最初からあって。
そう言えば、彼女はどうしているだろうか、と。
意識を逸らした瞬間、その異変は起きていた]
……て、ちょ、まっ……。
[しゅるりと伸びた朝顔の蔓が我邑を捕えて海へと引き込んでいく。
突然の事に呆気にとられたのは、数瞬]
えーと、近場に、誰かいませんかねっ!
[続けて張り上げるのは、普通の声。
引き上げるにしろ何にしろ、手が足りないのが現状だから、というのが主だけれど。
ここに呼ばれた者たちが集まった方がいい、と。
そんな気持ちも、少なからずあったから。*]
[揺れるあおと朝顔の向こうで、うずくまるように泣いている娘がいる。]
『探さないで』
(どこにいるの)
『見つけないで』
(もういちどあいたい)
『だって、見つけられたら』
(あえたらきっと)
『また離れなければいけないから』
(ずっと いっしょに...)
[うん、わかるよ、俺にも判る。
でもきっと、そこにうずくまっていたら、だめなんだ]
[懐に入れた手の中に、固い感触がころりと落ちた。俺はそれを引っ張り出して、やっぱりな、と笑う]
(金の、螺子かあ...)
[螺子の放つ光に気付いたのか、うずくまっていた娘の顔がすこし上がったように見えた]
そらのあお うみのあお
[ふたつのあおが混ざり合えば、いつか海も空もひとつに......なる?**]
[呼びかけの後、水底へと目を凝らす。
ゆら、ゆらりと揺らめくいろの奥。
目に入ったのは、座り込む誰かの姿。
それは自分の目には、見知った誰かに重なって見えて]
…………。
[いつか言われた、『ごめんね、捜さないで』という言葉。
それに違う言葉が重なり響く。
『許されるなら、捜しにきて』と]
………………。
[は、とひとつ、息を吐いて。
鎖で繋いだ小さな輪二つを握り締めた]
…………ばぁか。
[ぽつ、と零れ落ちたのは短い言葉。
それは、今はいない者と自分自身、両方にかかるもの]
ほんとに、あれだよな。
……いっつも、計算と先読みばっかで。
それに助けられてたのは、否定しねぇけど、さ。
[握り締めた手の中がひいやりする。
そこにあるものが、形を変えて行くような、そんな感触が伝わってくる]
……一人で抱えて、考えすぎなんだよ、って。
いっつも、言ってたろうが。
[それはいつの間にか、自分の気質になっていたのは笑い話……にはならないか。
そんな事を考えながら開いた手。
そこにあるのは、濃藍色の小さな鍵。*]
『やあやあ、どうやら無事に見つかったみたいだねー☆』
[近くで揺れる朝顔の茂みから、ぽぽーん、という感じで飛び出した兎は、しゅたっ! と着地しながらお気楽な口調でこう言った。
それと同時に海の水がざざっと円形に引いて、沈んでいたものたちが姿を見せる。
兎がひょい、と手を上に上げたなら、現れた『鍵』と『螺子』はふわっふわのその手の上へ。
それらが放つやわらかなあおい光に、兎はどこか満足げに目を細めた]
『……ああ。
見つかったんだね、『自分がどうしたいか』の、最適解』
[ぽつ、と小さく呟いた後、兎はくるりとその場で一回転して、それから。
手にした『鍵』を空中に向けてつき出し、くるり、と回した。
かちり、と小さな音が響く]
『さがしたいもの、さがせないもの』
『むきあいたいもの、むきあいたくないもの』
『わすれたいもの、おもいだしたいもの』
『……『刻』は、ほしいものといらないものがたくさん交差して、編まれてる』
『絶対の正解なんて、どこにもないんだよね』
[歌うような言葉と共に、突き出されるのは『螺子』。
それが回るに合わせて、きりきり、きりり、と音がする]
『でも、それなら、自分がほんとに望むものに』
『手を伸ばして、先へと進む』
『それが、『世界』を生かす力にかわるんだ』
[きり、きりり]
[兎の手の中回る『螺子』]
[やがて、鳴り響くのは時計の鐘の音12回]
[直後、かしゃん、と何かが砕ける音が響きわたった]
[それは、世界を隔てる壁が砕ける音]
『さぁて、これにてぼくのお仕事しゅーりょー!』
『いやあ、完全に沈む前に間に合ってよかったね!』
『あとは、望む時に望む場所に帰れるはずだよ!
……うん、多分、ね!』
[最後の最後に不安な事を言い残し。
兎は手にした『鍵』と『螺子』を空へと投げ上げる。
投げ上げられたそれは光を放ち、その粒子が沈んでいたものに、『鍵』と『螺子』を抱えていたものたちに降り注ぐ。
光の粒子がちらちらと舞い落ちる中、くるり、踵を返した兎はてんてん、てんてん、跳ねて、消えた。**]
[逸る心そのままに、波音に向かって駆けていく。
その先が正しいという確証は無かったけれど、でも]
── 呼んでる。
[こっち。こっちだよ。
幼いコエが、誘導するように聞こえてくる。
あの子のコエ。
大好きだった、大好きな、大好きなのに記憶に封じ込めていた、あの子のコエが]
[あの子と二人、あのおじいさんとおばあさんの前で歌を作ったのは小学校に上がる前の夏。
補助輪の取れたばかりの自転車で頑張って遊びに来た海で、一番最初にできた友達で、初恋の男の子で]
『イマリちゃん、お歌じょうずだね』
『ボクね、イマリちゃんの声、だいすきなんだ』
『おっきくなったら、ボクのおよめさんになって、ボクのピアノで歌ってくれる?』
うん、いいよ。
イマリ、歌うのも、 ──くんのピアノもだいすきだもん。
だからね、イマリ、──くんのおよめさんになるよ。
[そんな、先の未来を話して、笑いあって。
これからずっとこんな風に、一緒に居るんだって思っていた]
[でも、夏も終わるある日、あの子は約束の時間を過ぎてもなかなか、来なくて。
そろそろ家に帰らなきゃいけない時間になって、ようやく来てくれたその口から告げられたのは、思いもよらないことだった]
『ごめん。イマリちゃん』
『ボク、イマリちゃんをおよめさんに、できなくなったんだ』
『ごめん。 …ごめんね』
[そういって悲痛に沈む表情を俯かせるあの子は、どんな気持ちでいたのだろう。
幼いアタシは、あの子がどうしてこんな事を言い出したか、その理由を思い遣ることすら出来なかった。
ただ、約束を反故にされる悲しみと、憤りと、困惑が頭の中をいっぱいにして。
ひどい、どうして、うそつき。そんな言葉ばかりを投げつけたあと]
もう良い!
──くんなんか、だいっきらい!
[心にも無かった、けれど決定的な亀裂を刻み付ける言葉を吐いて、あの子の前から逃げ出した。
家に帰って、自分の言葉に後悔して。
次に会う時にはちゃんと謝ろう、嫌いなんて嘘だって伝えよう。
そう考えていたけれど。
あの子から、二度と連絡が来ることは無く。
次にあの子と会えた時には、声を交わすことは出来なくなっていた]
[あの時のことを思い返して、一番に浮かぶのは。
黒い服を着た人達がたくさん居て、その中心に眠るあの子の顔。
一緒に歌を歌って、ピアノを弾いて。
楽しいねって笑い合った時と同じ、優しい顔のまま、冷たい木の箱の中にいる、あの子の顔。
アタシは周りの人達と同じ黒い服で、両親に手を引かれて。
あの子のお母さんに呼ばれて、元々先天性の病気だったこと、療養の為にこの街に来ていたってこと。
表向きは元気だったからあの子には大したこと無いと言っていて、けれど誘発された合併症のせいで誤魔化しきれなくなって。
こうなったからには頑張って病気と戦おう、そう決めた矢先だったと聞かされた。
それから、息子と仲良くしてくれてありがとう、と泣いてる顔で微笑まれて。
それまで呆然としていたアタシの感情は、決壊した]
ちがう、ちがう、ちがう!
アタシ、ありがとうなんて、言われたらダメなの!
だってアタシ、ひどいこといった!
きらいだって、うそつきって、いっぱい言って、
なのに、ごめんねって、言ってない
──くんに、かなしい思い、させたままで
もう、会えない、なんて
おもって、なかった
[嗚咽混じりに叫んだ言葉を、あの子のお母さんは、どう思ったんだろう。
優しく頭を撫でるその手に隠れて、表情は見えなくて。
両親がアタシの代わりに謝罪してくれた後、そのままアタシは家に帰って。
記憶を封じ込めてしまったのは君と過ごしたすべてが苦しさに変わってしまったから]
[大好きなキミを、傷つけてしまったこと。
大好きなのに、キミの気持ちを考えることすらできなかったこと。
悲しいだけじゃない、罪悪感という名の自分の身勝手さも嫌だった。
そうして、アタシはずっと、君を閉じ込めたまま逃げてきた。
でも、本当は解ってたんだ。それじゃダメだってこと]
会いに、いくんだ。
遅くなってごめんって、傷つけてごめんって。
[見出された『鍵』と『螺子』。
見えぬ『時計』が開けられて、その螺子が巻かれていく。
綴られる言葉に突っ込みは入れなかった。
自身も思う所はあったから]
……って。
そこで、『多分』、かよっ。
[不安煽る言葉にだけは、突っ込みを入れて、舞い落ちる光に手のひらを向ける。
ふわり、と下りた光の粒が鎖で繋いだ二つの輪へとまた形を変えて。
それを懐に戻しつつ、円形に開けたままの海を振り返り]
おーい、無事かー?
[海へと引き込まれた者へ向けて、呼びかけた。*]
[海の藍に染まった鍵が空に浮かび、陽の光のような金色の光を放つ螺子が辺り照らして、やがて時は動き出す。]
会いに行こう。
[俺は、繋がった、そらとうみの底で、いつのまにか、立ち上がっていた娘に手を差し伸べた。
会いに行こう、君の会いたい人に、俺の、会いたい人に。]
きっと、それが、俺たちの最適解ってやつだろ?
[青い朝顔柄の浴衣を着た娘は、ふわり微笑んで光に溶けた。差し伸べた手には、深い青の朝顔の花一輪]
だいじょーぶ、生きてるぜー
[無事を問う夏神に、そう応えて、俺は朝顔を手に砂浜へと歩いて戻る。いつのまにか砂浜には人影が増えていた]
あんたらも、見つけたかい?最適解てやつ。
[答えはどうだったか、どちらにしても、俺の心は決まってた]
俺はそろそろ帰るよ。やんなきゃならないことが出来たしな。
ああ、もし、気が向いたら、ネットで「化粧師夏生」って検索してみてよ。そのうちブログに近況報告するからさ。
[じゃあな、と手にした朝顔を、挨拶代わりに振って…]
うっわあ、あっさりしてんなあ。
[気づけばもう、俺は美容室の前に居た。手の中には青い朝顔、うん、夢じゃない。]
よし!
[気合いを入れてまず最初にしたのは、懐の中の速達を引っ張り出して開くこと。そして]
ただいま、かーさん。俺、ちょっと明日店休んで出掛けてくるから。
[なんなの急に?と呆れ顔のお袋には構わず、朝顔をコップにいけて窓辺に飾る]
絵を見に行くんだ。
[速達で届けられたのは、ひとつの小さな新聞記事のコピー。長年行方知れずだった画家の絵が見つかったこと、それを記念する展示会が、明日から開かれること。
その場所は、絵が発見されたその建物。
若き日に、画家と駆け落ちしたという娘が、晩年を過ごしたという海辺の別荘だった]
あと、出来たら嫁さん連れて帰る。
きみをたづねて いつまでも**
[呼びかけに返る声。
歩いて戻って来た姿も、特におかしなところはなく]
ん、ああ。
……見つけた……って、言えるな。
[懐にしまった二つの指輪。
それをもう一度軽く握って、問いに返して]
……ブログ?
あー……だったら、そっちも。
気ぃむいたら、『夏神酒造』で検索してみてなー。
[別れ際の言葉に返すのは、縁の欠片、ひとつ]
……さて。
俺も、帰らんとなあ……あんまり遅くなるとダンちゃんぶっキレるし。
[色々丸投げしてきた従業員の事を思いつつ、おどけた口調でそう紡ぐ]
……夏祭りの準備。しねぇとなぁ。
[それが終わったら、もう一度。
途切れた縁を探してみよう。
見つけられるのか、見出せたとして再び繋げられるかはわからない、けれど。
知らぬままで沈めたら、ずっと悔いを引きずるだろうから。
そんな決意は、口にする事はなく]
……んーじゃ。
縁があったら、また、どっかでなぁ。
[そんな、軽い言葉ひとつ、残して。
揺れる朝顔、軽く見やってから。
帰るために、歩き出す。**]
[狭間へと落ちた後も、ウミはイマリを、彼女が合流した後の彼らを見守っていた。
待つと約束したことを体現するかの如く、ただ静かに。
それぞれがそれぞれの道を選び、『鍵』と『螺子』が現れると、ウミの目元が和らいだ]
…時に人は歩みを止め、流れから外れてしまうことがある。
だがその度に歩み出す切欠が現れるものじゃ。
今回はこれがその切欠だったのじゃろうの。
[あちらとこちらを隔てる壁が砕ける前、ぽつりと呟いたウミの表情は安堵の色を宿していた]
── 見つかって良かったのぅ。
[壁が砕けた後、皆と同じ空間に戻ったウミは青々とした海原を見詰めながら言葉を紡ぐ。
海には良い想い出も悪い想い出もあった。
その全てを含めて、己の人生だったと言い切れるのは、今は亡き妻のお陰**]
─ ニュース ─
[昨日午後6時ごろ、××市内で10代の女性が倒れているのを通行人が見つけ、119番通報しました。女性は搬送された病院で熱中症と診断され、意識不明の重体です。消防が当時の状況を調べています。
市内の観測所では午後3時に38度の気温を観測していました。今後、暑さが本格化することから、市では熱中症に十分注意するよう呼びかけています。**]
アタシも、帰らなきゃ。
合唱コンクール、ソロパート貰えるかもしれないし。
頑張って練習して、胸張って歌えるようにならないと。
[思えば、ずっと歌は好きで、頑張ってきた。
それはきっと、あの子が好きだってずっと言ってくれていたから。
記憶を封じ込めても、それだけはきっと、忘れることがなかったんだ。
そう思った矢先、聞き覚えのある鐘の音が鳴り響いて。
あ、帰るんだ、と過った脳裏、聞こえた声は間違いなく]
『イマリちゃん』
[驚きに目を瞠る。
姿は見えない、ずっと見えないけれど、ずっと聴こえていた歌声の]
『ボクね、
イマリちゃんが、だいすきだよ』
───、う、ん
[涙が零れる、止められなくて何筋も伝う、そのままに頷き、そして]
────アタシも、好きだよ。
ずっと、すきだよ。
いつか、ほかに好きな人ができても、一番最初にすきになったのは、キミだから。
キミに恥じない、負けないアタシになれるように、ずっと、がんばっていくから。
ひどいこといって、傷つけてごめん。
またいつか、会えるときまで。
──ばいばい、海くん。
[そう言って、微笑んだ先。あの、優しい笑顔が見えた気がして、手を伸ばす。
その指先に触れる直前、世界はかしゃん、音を立てて壁が崩れ。
目の前に広がる藍は、川の苔生す匂いを伴うそれに戻っていた**]
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