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―診療所付近―
[集会所からの脱出に成功し、村の中を歩いている。
と、誰かを探しているかのような人物と擦れ違った]
あれ、万代さん。どうかしたの?
[同僚ともいうべき娘に声を掛けた]
―少し前・自宅―
[集会所を離れた直後――真っ先に向かったのは自分の家だった]
…………
うッ……!
[口元を押さえて蹲る。
人食への拒否感。
それは、他の村人には決して見せられぬ姿だった]
[しかし、それだけではない。
青年の、もはや彼だけしか住まぬ家の中には――]
『……信じられない』
[娘の声が聞こえる。はっと振り向くが、既にその姿はなく。
ただ、閉め忘れた戸の隙間から、家の中を覗かれたのだろうと推測する]
…………。
[姿は見えずとも、聞こえた声の主を違える事はない]
……儀式。もうすぐ、だっけ。
[家の奥を虚ろに見詰めながら、ぽつり、と呟いた]
え? うん、そうだけど……
[少し驚いたように目を見開く。
それは、少し前の居場所を当てられたからというよりは]
匂いでわかるの?
[思わず自分も袖の匂いを嗅いだ]
そ、そうなんだ。
[万代の不敵な笑みに、気圧されたように頷く]
うん。集会所でおにぎりが配られたからね。
……まだ残ってるかどうかわからないけど。
[呟かれた内容まではわからなかったが、なんとなく非難されたような気がした]
うん。じゃあ、また明日。
いちじく楽しみにしているよ。
[万代に手を振った所で、ダンケが現れる]
あ、ダンケさんこんにちは。
畑仕事はもう終わり?
[桶に詰められた野菜に目をやった]
……どういう意味だよ。
[ダンケの言葉に、思わず唇を尖らせる]
ああ、若葉さんの所か。いいなあ。
僕はどうしよう。ポルテさんがお休みとなると……。
[思案している所に掛けられる声]
あ、ホズミさんこんにちは。
いや、ちょっと雑談してただけだよ。
[大した事ではない、と両手を振る]
あー、うん。
よく考えたら、こんな炎天下で話す事もないか。
[ホズミに指摘されて初めて気付いたかのような口振り]
ぽっくり、ね。
……儀式の前に死なれると大変だよね、色々と。
[通常の葬儀にだって、それなりの人手は割かれる事になる]
はー、若葉さんが過労にならなきゃいいけど。
[服の中に空気を送り込むようにばさばさとやりながら、彼もその場を*離れた*]
あっ……
[ばーちゃん、と呼び掛けられて気まずそうな顔をする]
ご、ごめん。
今日のご飯どうするのかな、なんて。
[夕飯をご馳走してほしいと正直に言える状況でもなく、そう尋ねてごまかす]
あ、うん。お邪魔します。
[万代に促されるまま家の中へ]
ああ、おばあさんはお出かけ?
うん、それは大丈夫。
[言いながら、彼女が跳びはねているのを目に留めて]
何ぴょんぴょんしてるの?
新しい遊び?
[思わず尋ねた]
ああ、うん。
[言われた通り、鍵は開けたままにして。
万代の後に大人しくついていく]
教える?
……ああ、子供たちにか。
万代さんも大変だよね、遊び盛りの相手じゃ。
[教室から出さなくても大変なのに、彼女は外で運動させる係なのだ。
自分以上に大変だろうと思えた]
たんすの悪魔……。
[万代の独創的な表現についていけず、からかわれっぱなしにからかわれる]
そうめんに、漬け物。
うん、充分だよ。ありがとう。
[この際、贅沢は言うまい。
それに、先程の握り飯のお陰で酷く空腹という訳でもない]
……ご馳走様でした。
助かったよ。
[食べ終われば、礼を言って素直に出て行った。
村の老人たちが見ていたら、きっと非難轟々だったことだろう**]
―翌朝・自宅―
……うーん。
[自宅の布団で目を覚ますと、一度伸びをしてから、しばし寝転がったまま天井を見詰める]
あのまま帰ったのはまずかったかな?
[夜に娘の家を訪問する、というのは、つまりそういう意味合いを持つのだろうと今更考える]
ま、いいよね。万代さん何も言わなかったし。
さて、仕事仕事。
[言い訳するかのように独り言ちると、今日の時間割りはどうだったかなと考えながら、寝床を抜け出した]
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