やだ、行かない…!
[寝言と共に顔を上げると、ポルテが投げたチョークが額にクリーンヒットした]
ア、アイムソーリィ……
[さすりながら横を見ると、空いたままのアン、そしてチカノの席が目に入る。
背中がぞくりとしたのは、寝汗のせいだけではない]
[雨にぬれる窓をぼんやりと眺めていたが、突然の声に我に返る。どうやらお得意のチョークが命中したらしい。
その直後]
…?
[ざわり。一瞬教室がざわめく。
その後女子の悲鳴が数か所で上がった。
硬直した教師と、動揺する級友。空いたアンの席]
[結局そのまま授業は自習となり、緊急会議。
のち自宅待機となった。
ひとりで帰らないこと、と厳しく付け加えられ]
…帰りましょう
[ゴロウの机を軽く蹴り]
マシロさん、コハルさんも同じ方でしたよね、家
[悲鳴が上がる。
空いたままのアンの席と。
唐突に、先週の焼き直しのように]
――チカノ?
[忽然と消える、同級生の姿]
取るのか、それ――
[軒下のてるてる坊主がひとつ、風に逆らって揺れる。
ちょっとした騒動の輪に入れぬまま。マルもてるてる坊主を見上げて尻尾を振った]
[あがった悲鳴に息を飲んだ。
普段は気にしないのに、いるのが当たり前なのに。
また一つ。席が空白になったのを、肌で感じ取る]
………嫌、だ
[ぐるりと見渡した視線が、一人の元で止まった]
[お祓いの時に買ったお守りを眺めていたら、ベックに机を蹴られた]
おうお? ああ、そう、だな。
……。
お前でも居たら心強い。
[ベックの顔を見つめた後に、精一杯の冗談を。
女子二人は、なにやら手を取り合っているようだ]
どうした? 具合悪いのか?
具合というか、薄気味悪いというか……
私、怪奇現象みたいなの信じてないんだけどなぁ。
[男子の方に顔を向けると、その後ろの窓の異変に気づいて指差した]
それ……誰が書いたの?
[曇りガラスに “返して” という文字が*浮かんでいる*]
なんですか、その微妙な間は
[生徒もまばらになり始めた教室の中で、ゴロウの冗談に息を吐き]
ひとりで帰るわけにもいかないでしょう
それとも
犯人でも捜しますか?
[犯人はだあれ、そう書かれていた窓の脇に体を預け、マシロに視線を移す]
私……
[かもしれない。そう、か細い声で呟いた。
窓に近づいて椅子を寄せると、まだいくつかぶら下がっているてるてる坊主に手を伸べて外そうとする]
アンは犯人を捜して欲しがってた。
思えば、なんで自分を探せじゃないのか、とは、思う。
[ベックの言葉に、小さく頷く]
見つけ出してやらないと、まずいのかもな。
「返して」か。
返して欲しいのは……
[硝子に浮かぶ文字を見て、呟く先の言葉は音にせず]
ああ、マシロ。俺が取るよ。
[か細い声はちょうど聞こえず。
時折聞こえる少女たちの声。
願を掛けたというてるてる坊主を取ると、マシロにさしだした]
ありがとう。
[ゴロウから受け取った物を見て涙ぐんだ。
窓にもう一歩近づいて、腕を伸ばす。
力を抜いた数秒後、草木にぶつかるがさがさという音がてるてる坊主の着陸を知らせた]
犯人はだあれ
返して
[てるてる坊主がひとつ外される]
同じ犯人が書いたのでしょうか
いつ、どうやって
マシロさん?
[受け取ったそれを窓から落下させる様子を訝しげに]