―眠りに落ちる寸前―
[ビセの悲鳴やバクの声が、フユキとゼンジの声をかき消す。
そして、死者の声は波の音に紛れる]
……胎動。
[この村で夜を明かした以降、ずっと耳鳴りのように響いていた音。
それが、とうに忘れ去った音に似ている気がした]
>>1
[フユキの声は聞こえなかった。
ただ、その表情だけが目にはいり、意識は途切れる。
間際に聞こえたのは、*爆ぜるような音*]
猫が煮干しの頭を食べ残すのに似てる。
[フユキに一部喰われ放られた自分の身体を、中空から眺める。
テレビを見ているかのように*他人事*]
―死者の世界―
捧げよ。
[煙突が黒い煙を吐く様子を見ながら、頬にかかる髪の毛を人差し指に絡めて弄ぶ]
お父さんは人狼だったのかな。
[自分の髪と瞳が、遺伝的にありえないと知ったのは高校生のとき。
父方は代々日本人の家系だった]
人狼の遺伝子は弱い?
[仮説を口にした唇は弧を描いた]
満月の夜に、窯神様にお願いしてごらん。
[そんなことを父が言っていたのはいつのことだったか。
願いごとを考える]
来世でも祈ろうか。
叶えてくれるのかな。
[煙の動きを目で追って、空の色の移り変わりを*目に焼き付ける*]
>>39
[うずくまる少年に近づいた。
体温も気配もなくした魂だけが、ふわりと佇む]
少年よ、大志を抱け。
[的外れなことを言いながら、くすくす笑って見下ろしていた]
[波のようなノイズは消えた。
入れ違いに現れたのは、浮遊感]
泳ぎは苦手なんだけどな。
[身体の行方と、独りにしてしまった母のことを考えるが、不思議と悲しくはなかった]
窯神様、窯神様。
[満月はないけれど、願い事を唱える]
――目覚めを下さい。
[窯の先、煙突の先、立ち上り散る行く末に、新しい世界がありますようにと。
暗く細い闇は、産道を思い出させた。記憶になどないはずなのに]
[目を閉じると、何かが爆ぜる音**]