情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了
[朝はやく、アネモネのお花が届けられました
白いのと、赤いのと、紫色のがあります
わたしはそれを持って、マフラーを巻いて、部屋の外へ出ました
彼女が贈ってくれたマフラーを。
けれど、困りました
わたしはクルミさんの名前しか知らないのです
どこにいるのかも、わからないのです
お花を持ったまま、わたしはただうろうろしていました]
「お姉さん、どうかしたんですか?」
[すると、男の人の声が聞こえました
振り返ると、見覚えのある人がいました
ぜろくんです
お見舞いに来たのでしょうか
わたしは答えました
人を探しているんです、って
それなら、とぜろくんは笑って口を開きました]
[ぜろくんと別れて、近くにいた看護師さんに訊いてみました
クルミさんのお部屋はどこですか、って
車いすに乗っている女の人なんですけど、って
すると、看護師さんは言いました
彼女は昨日亡くなりましたよ、って
わたしは何度かまばたきをしました
それから、そうですか、わかりました、そう言って看護師さんにお礼を言いました
それから、立ち尽くします
どうしましょう、どうしたらよいのでしょう
腕に抱えたアネモネの、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐりました]
[わたしはアネモネを持ったまま、屋上へ行きました
理由はわかりません
ただ、何となく行きたくなったのです
そこでわたしは、空を見上げます
とても、とても綺麗な青空が広がっていました
なぜだかわかりませんが、その綺麗な空が、クルミさんに似ていると思いました
ふわりと冷たい風がわたしの頬を撫でるけれど、マフラーが暖かくわたしを包んでいてくれました]
[わたしは、アネモネを一輪ずつ風に乗せて飛ばしました
ふわりふわりと風に乗って散って行きます
ぜろくんがさっき教えてくれた話を思い出しました
ゼフュロスと言う風の神様が、花の神様の侍女だったアネモネを愛しているから、アネモネは風に優しく吹かれているのだと]
[その神様が、このアネモネを空の上まで届けてくれたらいいのになぁ、
そう思いながら、わたしは花を風に乗せていきました
クルミさんと、かみさまに、届きますように。
届いたら、クルミさんは喜んでくれるでしょうか
かみさまは、笑ってくれるでしょうか
腕の中の花がすっかりなくなるまで、わたしはずっとそうしていたのでした]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 エピローグ 終了