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ー回想・公園ー
[塾の生徒たちが来ないというのは意外だったが、こうして寺崎と会った以上は一緒に行かないわけにもいかない。
ーーいや、本当は誰も来なくても行ってみる心算ではあった。良い口実ができた、というのが本音だった]
優しい……、か。俺のは甘い、とも言うぞ。
[会う場所が普段と違うせいか、一人称がくだけていることには自分では気づかない]
[と、そのとき。
闇を切り裂くような警笛の音とともに、目も眩むばかりの光が辺りを包み込む。
何かを考える前に、とっさに寺崎を庇うように駆け寄った。
ーー強烈な光の中、怪しい炎に取り囲まれる女生徒の姿が浮かび上がった。
あれは……二宮?
3日前、塾ではしゃいでいた生徒たちの1人だ。
しかし、何故駅ではなく公園に?
ついさっきまで、いなかったのに。
そう思った瞬間、二宮の身体がぐらりと崩れ落ちる。]
二宮っ!!
[駆け寄ろうとするが、何かに足を掴まれたように動けない。
呆然とその様子を見届けて、光が去った後。
周囲を確かめると、そこはーー電車の中、だった。]
─列車の中─
[突然のことに驚きながらも、近藤はすぐさま理解した。
噂が事実であったこと。
自分たちが、人ならぬモノのテリトリーに入ってしまったこと。
そう、小山内たちのように。
そのとき、耳慣れぬ男の声が耳に入る。興奮したような口ぶりの、その私服の男子は、しかし、近藤にとっては頷ける意見を口にしていた。
彼の口から「ウミ」という名前が出て、近藤は悟る。――彼が自分の同類であること。]
[バクの弁舌が一通り終わった後、鷹揚に拍手をして近藤は立ち上がる。教師らしき人物が二宮に駆け寄っていたが、近藤の興味はもはや二宮にも寺崎にもなかった]
素晴らしい。どうやら君はこのことについて理解しているようだね?
恐らく――ここに居る他の面子よりは、遥かに。
そうだ、これは遊びなんかじゃない。手の混んだ悪戯でもない。
[混乱する車内をよそに、語気を強める]
これは、青玲学園で起きたあの事件と同種のものになるだろう。
つまり、
[そこで言葉を切ると、おもむろに全員の顔を順々に見回す。
小春の姿を認めた時だけ、一瞬躊躇う様な表情を見せたが、続けて]
この声に従う以外、俺たちが生きて帰る道はない。鬼とやらに憑かれた人物を――、処刑する。
[食って掛かる須藤を醒めた目で見据え、しかし慇懃に自己紹介を始める]
あぁ、これは失礼。私は松前塾の講師をしている近藤と申します。ここにも知った顔が数名、居ますね。
[そう言って小春に微笑む。彼女は今の自分を見て怯えているだろうか、それとも。]
私が仕組んだわけではありません。ただ……椎名君、と言いましたか。彼と同様、この事態が起こることを、どこかで望んでは居ましたけどね。
見たところ、貴方は煌星学園の教師ですか?
それならば落ち着いてください。彼らを無事に帰すことが貴方の役目でしょう? それを果たすために最善のことを提案したまでですよ、私は。
[さも当然と言わんばかりに須藤をあしらう。理解してくれるのは今のところ椎名だけでも良かった。そのうち、みんなわかるはずだ。どこかでそう思っている]
[周囲の奇異の目は意に介すこともなく、バクに近寄って手を差し出す。握手を求めているようだ]
椎名君、だったね。俺は君に賛同する。
どうやら、君もあの事件の関係者のようだね。あぁ、詳しいことはいいよ。……辛いだろう。俺もそうだ。
[バクが握手を受け容れようと、受け容れまいと言葉を続ける]
ただ、だからといって特別扱いするつもりはないがね。君が怪しいと思えば、そうーー投票、するさ。
[教えてくれ、と問いかける長澤に向き直り微笑む]
ふむ。この混乱した状況で誰に話を聞くべきかすぐさま見抜ける君は、なかなか頭の回転が速いね。
成績が悪い? そりゃ真面目に勉強してないだけだろう。ここから帰れたら松前塾に来なさい。
[本気とも冗談ともつかない営業トークの後、近藤が知っていることを手短にまとめて話す。
不必要に残酷な描写は避けたが、一定の間隔をあけて生徒が殺されたこと、疑わしい人物を別室に閉じ込めた結果、死んでしまったらしいということは隠さずした。
職業柄、要点をまとめて話すことには長けている。普段の授業なら居眠りをしていそうなタイプの学生たちも、事態が事態だからか神妙に聞き入っていた]
ちなみに、この話のほとんどは生還した生徒から聞いたものだ。彼女はもう、塾も学校も辞めてしまったがな……。
正直言って半信半疑だったが、あれを見てしまった後では信じざるを得ないだろう。
[一気に話し終えると、さすがに疲れたように座席に座り込んだ**]
―回想―
[慎重に見定めるように己を見つめた後で握手を断ったバクに、薄く笑んで]
そうだな。握手程度で特別扱いとは俺は思わんが、君がそう言うなら止めておこう。
[出した手をすっと引くと、スーツの上に羽織っていたコートを脱ぎ始め]
須藤先生、でしたか。二宮をそのままにしておくわけにもいかないでしょう。手を貸していただけますか?
[すっかり血の気が引いてしまったアンの頬をひと撫ですると、その身体を自分のコートで包む。
須藤が手を貸してくれるなら一緒に、そうでなければ一人で何とかアンの身体を車両の隅に横たえに行っただろう]
―回想終了―
[暫く腕組みをして俯いたまま座席に沈み込んでいたが、おもむろに己の鞄を探り、A3サイズのスケッチブックを取り出す。教員室へ質問に来た生徒たちに説明するときに、簡易黒板がわりに使用していたものだ。
取り出した拍子に、公園で拾ったロッカの絵がひらりと舞い落ちる。ロッカがそれに気づくようなら、何か会話を交わしたかもしれない]
そこそこ納得いってる奴も、なんだかちんぷんかんぷんな奴も居るようだが。今、俺が大切だと思っていることを話しておくぞ。
[自分の隣にスケッチブックを置くと、まるで塾の授業をするかのように流暢に語りながら要点をまとめ始める]
ひとつ、鬼は既に活動を始めている。既に二宮がやられているからな。いつになるかは知らんが、俺たちのうちの誰かが次にやられる。これをまず頭に入れて欲しい。
ふたつ、例の声によれば、鬼を見つけ出す能力のある者がいる。この人物に名乗り出てもらうべきか否か、全員の意見を聞きたい。
みっつ、今から誰を――、誰に、隣の車両に移ってもらうかを決めるべきだ。
[「誰を処刑するか」と言いかけて、少し言葉を変えた。結局のところは同じ結果になるのだろうと思いつつ、同意を求めるようにバクに視線をやる]
ばらばらに投票することは得策ではない。鬼の組織票にやられる可能性がある。
[そこまで語り終えたときには、ふだん黒板に書かれているのと何ら変わりないように見える丁寧な板書ができあがっていた。異なるのは、その内容がとても教科科目には思えぬほど物騒なしろものだということだけで。]
[バクに続きロッカにまでも「オジさん」呼ばわりされたことに思わず眉根をあげるが、「先生」でなければそう呼ぶしかなかろうということに思い至り気を鎮める。そんなことに神経を遣っている場合ではない]
そう。いい絵だなと思って拾ったんだ。ロッカちゃんが描いたの?
[彼女の独特の雰囲気を感じとり、できるだけやわらかい口調と表情で話しかけるように努める。
その後、バクの自己紹介と探索の案を聞いて、ちょっと困ったように眉を寄せ]
すまん。俺はちょっと喉が痛くなってきたんでパスさせてもらう、一応さっき名乗りはしたし。それに、ここに残る人間も居たほうがいいだろうしな。
[つっかえながらも滔々と自分の意見を述べ始めたコハルを見て目を丸くしつつ、その動向を見守る]
三枝。やっぱり、しっかりしてるんだな、お前。
[遠慮がちにではあるものの横に座ってきたことに対しても少々驚きを覚えつつ、正直な感想を述べた]
[暫し投票についての意見を聞いていたが、次第に険しい顔つきになっていく]
君は弓槻君、だったかな。俺の言い方が悪かったかもしれないが、投票は揃えるべきだと既に意思表示したつもりだ。
それで、見える者のみ、あるいは見える者と聞こえる者の両方に名乗り出てもらうという意見が主流のようだが、俺は反対だね。
そうするくらいなら、三枝の言ったように本人の意思に任せるほうがまだいい。
見える目を持つ人は、俺たちが鬼に対抗する上で最大の武器だと俺は思う。小鳥遊先生も言っていたように、そんな人を早々に鬼の前にさらしたくない。
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