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― 昨日 ―
はぁー
[先生の説明をわかったようなわからないような気持ちで聞く。
今の貴方はしっかりしている…
やっぱり自分はぼけてもいないのにここに来てしまったのか。いや、でもお医者先生の前ではぼけは出てこないとも言った。
ふむむ…
と悩んでいる間に「立派な淑女」と言われて目を丸くして顔を上げる。
すぐに継がれるレディという言葉に顔が赤くなった]
いやですよう先生、レディなんて
そこの小さいお嬢ちゃんならともかくねぇ
わたしはしわくちゃのおばあちゃんですよう
[照れるやらなにやらで手を顔の前でぶんぶん振り]
ねぇ、小さいお嬢ちゃん
[と照れ隠しするように、先生と自動販売機の前にいた少女に同意を求めた。と、首をかしげた少女がひつじを数えるといいよと教えてくれた]
そうだねぇ、おばあちゃん、もう年をとっちゃったから、ずーっと眠たいみたいだねぇ
うん、数えるさぁ
教えてくれてありがとねぇ
お嬢ちゃんは物知りの子だよ
[にこにこしながら少女の頭を撫でるようにした]
[そのまま会話を始める医師と少女の話を静かに聞く。
少女は、手術を控えているようだ。こんなに小さいのに。
思わず小さなため息をついた。
彼女に比べたら自分は幸せなのだろうか。
老いて疎まれてずっと住んだ土地を出て、ここが最後の場所となる自分の方が。
もう一度自分と比べるように彼女を見た。
病気にかかっていても、なお、少女がきらきらして見えた。
最後に彼女は医師に礼を言うと、ジュースを持って笑いながら去っていった。
しばらく小さく手を振って少女を見送ったあと、隣の医師に呟いた]
先生、わたしは、小さいお嬢ちゃんが手術を控えて大変だって話をしていても、お嬢ちゃんがきらきらして見えたよ
若い小さなお嬢ちゃんを羨んでいるのかねぇ
お嬢ちゃんは、にこにこしてても本当は辛いのがわかっているのにねぇ
浅ましいねぇ…
[こんなに小さくてにこにこしている少女が死ぬ、ということは全く現実感がなく、考えられなかった。
やはりただ、この後、沢山の希望にあふれた未来があると思える子供が羨ましかった。
珈琲は好きですか、という声に小さく頷く。
静かに珈琲を一緒に飲んだ後、一礼し、部屋に戻った。
はぎれを探し出し、早速袋を作り始める。
いつもぞうきんを縫うより、縫い目が細かくなるよう、黙々と縫っていた**]
― 自室 ―
あら…
[朝。日当たりのいいこの部屋に日が差し込まない。
目が覚めると少しいつもより寝過ごしたことに気づき、薄手のカーテンを開けると、雪がちらほらと降っていた]
ここにも、雪が降るんだねぇ
[曇天の薄暗さの中、枯木立の中を雪が舞う様子は、満州であの人と出会った頃を思い出させた]
[部屋の温度はある程度施設で集中管理されている。
それでも少し肌寒い中、いつものように朝食へ向かうための準備をした]
まだまだだねぇ
[出掛けに、部屋の片隅の机の上のつぎはぎを見やった。
丁寧に縫っているため、今日小豆が届いたとしても、お手玉の形が完成するのは明日以降になりそうだ]
まぁ、時間だけは、いくらでもありますよ…
[独り言を呟いて、部屋を出た]
― 渡り廊下 ―
[朝食が終わった後、また病院棟へ向かう。
今日はくるみちゃんはいるだろうか。
ここに住んでいると言った彼女。
彼女にも時間はたくさんある。きっと]
あらあら、降りはじめたねぇ
[渡り廊下から外を見やった。
遠くに見える海は暗い。
その上を、灰色の空間を埋めるように沢山の小さな雪が舞っていた]
― ロビー ―
[くるみちゃんの姿が見えるだろうか?
病院棟にくるとそのままロビーを覗いた。
しかし、すれ違ったのだろうか、それとも今日は来ていないのだろうか、姿は見えない。
天気が悪く、特等席の陽だまりもできていない。
ちょっと違う所へいってみようかね、とのんびり歩いて向かった先は、子供たちが靴を脱いで遊べる場所がある休憩室だった]
― 休憩室 ―
しつれいします
[一声かけて、ひげを生やした見舞い客らしき男性の横の空いている席に座った。
男性は、駆け回る子供たちを、静かに眺めていた。自分も同じほうに視線を向ける]
元気だねぇ…
[昨日出会った少女も、ここにいる子供たちも、みんなどこかが悪いのだ。
でも、自分には、子供にはみんな、希望溢れる未来が待っているように見えていた。
まぶしい。微笑みながら目を細めた**]
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