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夜
[その夜、院内は慌しさに包まれていた。
末期がんで入院中だった平家の容態が急変したからだ。己はそれとは異なる、担当患者の容態の悪化処置に追われていた。
平家と柏木急逝の一報を耳にしたのは、夜も幾分深まってからの事だった。平家に関しては肺がんの末期ということもあり、誰しもがそう長くはないと思考していたかもしれずに。
けれど柏木の、院内での自殺は大きな波紋を呼んだ事だろう。1度目の負傷が自殺未遂の末であった事を知るものが、幾人いた事か。
己もまた、情報に取り残されていたひとりであった。]
……え?柏木さんですか?
夕方会いましたよ、五階の廊下で――
[五階廊下からの投身自殺、ほぼ即死。恐らくは別病院にて検死が行われている事だろう]
うそ、だ……、
[事実を聞いてもなお、それを受け入れる事は叶わず頬が歪みを帯びた]
うそ、だ……、明日、散歩に行く、って、
空の綺麗な日なら、『大丈夫だ』、って……、
[死が、足音をたてずにしのび寄る。
己の周囲を、取り囲んでいく。
がたがたと肩口を震わせ、両手で頭を抱えて
リノリウムの床に膝を、ついた。]
うそだうそだうそだ嘘だ、うそ、だ……、
いやだ、柏木さんは死んでない、ああああ……っ、
死にたく、ない……!!!
[蒼白した顔を床へと向け、叫び声を上げる。
付近にいた看護師が悲鳴を上げた。
激しくかぶりを振った所為で、診察台の角に額をぶつけ、瞼が薄く裂けた。
視界が赤く染まる。灰色だった景色が鮮やかな、赤に染まる]
うわあああぁぁああああ―――…!!
[発狂寸前だった。他の医師に押さえつけられ、鎮静剤を投与される。
人知れず病室に寝かされ、朝までの刻を一度も目覚める事無く、眠りに*就いた*]
朝:とある病室
[震えた瞼を緩慢に開いて、強制的な眠りから目覚めた。
病室の白い天井。窓からは陽光が差している。
ゆっくりと上肢を起き上がらせて、次に見たのは自分の着衣だった。]
―――…、……ですよね。
[入院着を着せられている。つまり、緊急入院させられたのだろう。
医者の不養生を実践してしまった。皮肉そうに頬を引き攣らせ、起き上がり衣服を着替え、切れた瞼上に貼られた絆創膏を剥がす。
柏木さんを追い詰めたのは、―――…
過ぎる思考を其処へと残し、医局へと向かった。]
[医局に戻ると、昨日現場にいた先輩医師に深く謝罪した。
『良く眠れたか』との問いに二つ返事を返す。
念の為と簡単に診察もと言われたが、それは丁寧に遠慮した。
壊れたものを治せないもの は
壊れるまで 壊れたものに尽くすだけ
職務や使命などという綺麗なものの為ではない、ただ流れるままに――職務へ戻った]
午前:無菌室前
[幾つかの回診を終え、無菌室前へ辿り着く。
殺菌室で殺菌を追え、マスクを着用した。]
鎌田さん、鎌田、小春さん。
入るよ。
[扉前から声を掛け反応を待つ。
医師の背後には鎌田担当の看護師もついていた。]
[か細く伝う反応を耳に、隔離された病室の扉を開く。
看護師と共に室内へ入り、患者の横たわる寝台へと近づいた。]
おはよう。
僕は結城と言います。今日は僕が診させて貰うね。
[恐らく常と同じように微笑んだ筈だけれど、笑みをみせることは無く。
けれど怒っているようにも見えないだろう、無表情のままに彼女の頬へと触れ、口腔から診ていこうと。
鎌田の顔色は余り、良くないように見えた。]
どうかな、身体の調子は。
[喉を確認し、聴診器を取り出し手早く心音を確認。
『良くない』らしき事を仕草で知る。矢張り、余り芳しくは無いようだ。
最後に脈拍を測ってから、傍らの椅子を引き寄せ腰を下ろす]
何処か痛かったりするかな…?
それとも、……そうだな、何か悩み、とか。
[後者の質問は病気の進行、恐らくそれが目下の不安であろうと予測の上であったけれど。話す事で気が紛れるかもしれない、と。
ふと、視界の端に珍しいものを見つけ、其方に気を惹かれる。
寄せ書きのされたバレーボール、飾られているのならそれを、暫し見つめて]
[数値では解らぬ病気の進行もある、寧ろ、鎌田はそれの方が多い年頃だろう。
困惑の表情を横目に、文字いっぱいのバレーボールを暫し、見つめる。
これがここに存在するだけで、詳細を得ずとも鎌田の望む未来が解るような気がして、微か双眸を細め眩しそうに鎌田を見つめる。]
バレーボール、だね。
激しい運動だから、……復帰は難しいかもしれない、けれど。
部活で出来た人との繋がり、大切にした方がいい。
大事だと思っているからこそ、こうしてこれを届けてくれたのだろうし、ね。
[復帰を望んでいるであろう彼女に対し、非情な一言だっただろう。
けれど可能性を完全に立たれた時、絶望するのならそれまでだ、とも思った。
他の楽しみを見つけて欲しい、とも感じ、]
絵を描いたり、とか。どうかな。
バレーボール以外の何かが、見つかるかもしれないよ。
[脳裏に描いたのはあの、色鮮やかな抽象画だった。
それだけを告げ、看護師を残して部屋を後にする。
突然の復帰不可能宣言に対し、看護師がきっと、彼女に親身になってフォローしてくれる、だろう。]
[誰しもが、『何か欠けている』ものが存在する、又は正体が掴めず困惑する中、己はなにひとつ感じていなかった。
死者が最後に願わずとも、笑える、微笑むことの出来ぬ欠けた精神状態だったからかもしれない。
一度センターへ戻り回診の続きへと戻る。途中、5階のあの一角で歩みが停止した。
けれど、今はもう――、爪先は3階へ、一糸の戸惑いなく進んでいく。
対峙したのは303号室の前、予定より少し押してしまったか。太陽が天辺へ昇る頃、その病室を訪れた。]
後藤くん、入るよ。
[昨夜一度、危険な状態にあったと看護師より説明を受けた。脳裏へと置き、その扉を開こうとし]
午後:屋上
[後藤の回診を終えた後、午後は非番となっていた。
自宅での静養を勧められたけれど、部屋でひとりになる方が余計に考え込んでしまいそうだった。
溜まりに溜まった書類整理を言い訳に、病院へ残る事にした。]
―――…、……さて、と、
[ここで良く、平家が煙草を吸っていた事を思い出し今日は一箱、煙草を購入していた。
大学の頃、父に見つからぬよう吸っていた煙草は、この病院に赴任してからきっぱりと止めた。
数年振りに吸ってみようと思ったのは……、止められても尚、止めなかったあの女性の姿を思い出したからだった。]
[一本唇へと食み、先端に火を点ける。
ゆっくりと煙を吸い込み、空へと薄煙を吐き出した。
決して、美味しいものではない。
幸福感を得られる時なんて、ほんの僅かな筈だ。
それでも。
それでも。
止められない者も居る。]
……はは、苦いや。
[ふと視線を落とした先、階下にお茶を楽しむ少女の姿を見つけた。
視線が合えば煙草を挟んだ手を隠し、空き手で手を振った事だろう。
暫しそうして、紫煙を*纏う*]
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