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――ピーヒャラと音を鳴らしながら、私は手綱を操作している。
私立探偵がなぜ大きな駅の前で猿回しをしているかの経緯は明かすことは出来ないが、指令のためには必要なプロセスであるとは言っておこう。
与えられた猿は非常に賢く、私が芸の指示を細かく与えることなく動いてくれるため、ソロバン4級の私でも路上パフォーマーの猿芸人として遜色なく振る舞えているだろう。
――それなりの密度の拍手がわく。
「阿会喃システム」の芸名が有名になりすぎるのも困り者だが、客が集まってくれなければ群衆に紛れてもらえない。
年老いた母親(役)がお捻りをもらうため、私の愛用するダークグレーのソフトキャップを手に群集に寄っている。
私の寂しがり屋な懐事情から言えば小銭も重要な収入だが、あの帽子に入れられるべきは別のもの。
そう、本部との伝達である。
ここに潜伏しているらしい幹部、それも大物との調整のため、あの帽子の中でエージェントとメモのやりとりをするのだ。{1}
蛇の道は蛇、情報化社会だからこそアナログである。
――数日間の猿回しの後、ホテルに戻り、私はやり取りしたメモを確認し、やるせなく頭を垂れた。
私が得た情報と異なり、ターゲットはこの東京にはいないということだった。
ガセなのか勘付かれたのか、どちらにしてもこの結果には苛立ちを覚えた。
あるいは釣り出されたのか……?
私が陽動に引っ掛かり、どこかで危機が発生している、と。
その根拠は――探偵としての経験と勘である。
何かが起こっている、私の知り得ないどこかで。
私は、正体も知らぬ同僚の安否を気遣いながらベッドに潜り込んだ。
昨夜までの累計は羊が107万3115匹だったはず――
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