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[わたしは頭から布団を被って再びうつらうつだとしていたようで。ひやりと部屋に入り込む外気で再び目が醒めた。]
…ぅん?ロッカ…さん?
[布団から這い出た視線だけで窓際を見る。辺りは結露と吹雪で真っ白だった。代わり映えの無い景色。そう思ったのは一瞬。]
「はなびら…?」
[ロッカさんの声が聞こえてわたしは首を捻る。そんな何処にこの吹雪の中はなびらが…。
と、思った次の瞬間。わたしの予想はロッカさんの言葉によってあっさりと裏切られる。]
「エビコさん…起きて!
桜が…」
[聞こえて来た声は、とても嘘を吐く様には思えなくて。わたしはその声に慌てて飛び起きる。布団の上にかけておいたカーディガンを羽織り窓の近くへ駆け寄る。]
え…そんな…、そんなことって…ある…の?
[濡れた窓越しに見える風景。それは季節を考えれば全く有り得ないもので。
わたしは暫くその光景から目が離せなくて。ただその場に*立ち尽くすだけだった*]
[夢と現の境目で、羽ばたく鳥を見た]
くしゅん。
[うっすら目を開くと、扉からの隙間風に煽られたスケッチブックが、耳障りな音を立てていた。
再び眠りに落ちようかというその時、視界に入ったのは舞い込む花びらだった]
[遠く微か、鈴の音が聞こえた。
甘く、か細く、震える音]
『うれしいの?かなしいの?』
[幼子が尋ねる]
『ねぇ、もっと唄って』
[無邪気な声がする]
[ひとひら手中に収める。
風は、海にも似た音で吹いている]
桜の木の下には――。
[ぼんやり呟いて、ぎゅ、と手を握り締めた。
目を閉じると、すぐさま意識は*遠のく*]
『次は誰にしようかなあ』
[無邪気な声がする。
まるで、今日はどのリボンにしようかと言うような口調だ]
『誰がいなくなったら、みんな怖がるだろうか?』
[笑いながら進められる話し合い]
[男は息を飲んだ]
[ちりりん――
零れ落ちた鈴の音が鳴り響く。辺りはさくら吹雪。
季節はずれの さくら吹雪。
さくらが目を醒ましたの。覚醒させたのはだぁれ?]
――今日は誰にしようか?
[わたしはふと意識を飛ばしてかの人に問い掛ける。]
誰が居なくなったら悲しむかな?
恐怖で怯え泣いてくれる人は誰かな?
おいしい獲物…たべたいなぁ。あのたましい。
[わたしは舌舐めずりをする。]
――回想 台所――
[握り締めた呪符が、淡い光を放つ]
え?
[驚くヨシアキの目の前に、呪符から印が現れる。八卦…幼い頃におばばさまから教え込まれたもの。
ヨシアキは事もなげに読み上げる]
陰・陽・陽……『巽』か。
巽は風を司る。風か…
[頭の中に、昼間読んだ村の伝承がよみがえる]
風…カマイタチ…人狼?!
[絵描きの青年の事を思い描いた時に、浮かんだ狼の証。
おばばさまの呪符が間違うとは思ってない。けれど、青年の笑顔を思い出せば、どことなく信じられない話でもあり。
居間に戻って寝ようとしたけれど、考えると眠れもせず。
隅でひざを抱えるようにして夜を明かしたのだった…
――回想終わり――]
[気がつけば、夜は明けていたようだ。うつらうつらしていると、どこかでロッカの声がする]
「桜が…!」
さくらかぁ…桜?
[寝ぼけていた頭に、ありえない季節の花の名前が飛び込んでくる。まさかと思って、窓の外を見ると、風に舞う桜の花びら]
ほんとに…桜だ…
[ありえない景色に立ち尽くしている]
そして翌朝、井戸の脇で管理人の安藤の遺体が横たわっているのが発見された、まる、っと。
[鉛筆を置きメモ帳を閉じると、窓の外に目をやる]
[目覚めてからずっとそこにいたのだろうか。
外。管理棟からそう離れていない場所。桜の乱れ咲くのがよく見えるところに薬屋が立っていた。
思案げにただ立ち竦んでいる。何かを思い出そうとして、思い出せない人間のように]
――美事だ。少なくとも。
[鈴木緑花の驚きの声が遠くからしても、それに続いて人々がざわめき始めても、夢中で何事か考え続ける]
[夢の中、自分を呼ぶ少女の声が聞こえた気がした。ゆっくりと覚醒していく。夢の内容は忘れてしまった。酷く美しかったような、それとも怖かったような、そんな夢]
あれ?私……あぁ、そうか。
[昨夜はナオ達に雑炊を持っていって、そのままそこで寝てしまっていたのだった]
どうしたのロッカちゃ……。
[問いかけつつ少女の視線の先を追って息をのむ。舞い散っている白いものは、雪ではなく……]
桜!?
[詩を暗誦するように唇を開く]
“その年の桜は、それは見事に咲いたのです”
否、否……。そんなはずも。
[言い聞かせるように独りごちながら、ゆるゆると桜へ向かって歩く。桜の根元。そうも呟いた]
[どれ位見とれていたんだろう。さくらに。
急に寒さを覚えて、わたしは着込んだカーディガンとパジャマ姿で居間へ向かう。]
[怖かった。ただ純粋に怖かった。
思い出される村の伝承。風が吹くと同時に人の命を奪う。人狼の話。全てはイコールで繋がらないと思ったけど…でもわたしは――]
やだ…怖いよ…っ!何で?何でこんな吹雪の中に…さくらが?
[大声を出してしまいナオを起こしてしまう]
あ、ごめんなさ…。
[反射的に謝るが、そんな言葉は届かないまま、窓に駆け寄った彼女はただ立ち尽くす。手元ではエビコがわずかに身じろいで、ゆっくりと起き上がり...の視線を追って、窓の向こうの風景を目撃した]
なんで桜が?
[彼女達が答えを持っているとは思っていなかった。しかし、その異常な、美しい風景にそこはかとない恐怖を感じた。おとといの晩読んだ本のせいかもしれない。あるいは昨日耳にした伝承か。]
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