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……悪霊、
[聞こえる笑い声は、その言葉は、
生者のものか死者のものか、境界線は曖昧だ]
[血塗れた僧と此方へ歩み寄る処刑人と、
そしてその背後で深海から釣り上げられた魚のように、圧に押し潰されていく若者の体]
は、っ 、……確かに悪霊か。
何故殺す、やはり殺すは愉悦かね?
処刑人。
[重石にかけた手。常は引き摺るだけの金属の柄に、巻きつく鎖がじゃらり解かれる。びっしりと甲殻類の張りついたハンマー。ふるりと震える指先の、昂揚]
ほうほうほう!
[見えるのは、若者の身体から曲芸のように吹き出る海水。その後、ありきたりではない死が彼に訪れた。]
人に人でない死。
これこそ、世界の確変ですな。
[そして、飛び上がり、一回転したのち、また地面に沈むと、残り彼らを見上げる体制。]
貴方の仮説をうかがいたくもあるな、
学者殿…
裏おもては ないほうだ。
[悪霊と呼ばれることに拒否感は示さない。
解き露わにされる重石の全貌に目を細めると
余計な世話を申し出なくてよかったと呟いた]
面白味のないことで、すまんね。
…
迷惑だ、で斟酌もなかろうが…
[ふと額締めに片手かけ、胸元まで引き下ろす。
目開きの覆面姿も束の間に帽子を戻すと
男は細い茶褐色の 薬瓶 を咥えていた。
軽業見せる仮面男と学者を双方見遣り、
海霧巻く勢いで鋭く斧の天地を入替える。]
ひとり、儘に連れゆくことは
できると言っておこうか?
[小瓶を手の中へ落としながら、
軽くなった帽子の房を揺らし*疾駆した*]
…
何故なぜと、
知に長けたやつばらほど、搾りたがる。
[分け与えるは、何もかも惜しまず隔てなく。
海の指先は言葉を得てさえ、気泡に混ぜるのみ]
美しい行為なものかね。
[配られたものは…*]
[海霧を撒いて振りかざされる斧、
さて、その執行人が口に咥えていた薬剤は、何か。
狂人の男は、しばし、それを不思議そうにみやり、疾駆していく男を眺めた。]
―…もしや、人間でありたかった魔物ですかな?
まさか、なれば笑止。
わかりませんが…。
さて……絶望から放たれることを救いと仮定すれば、苦痛伴う生からの開放を示す死は救いに置き換えられるのかね。
しかし、死しても呪いは生きる。
[生きているのか死んでいるのか、
どこぞから聞こえる死を支配することへの、執着。]
……ああ、だが、そうか。
そうか。
[狂人の呟きに、男は吐息を零す。
酷く、熱い。血の滾るような昂揚]
……愉悦もないとは、
ああ、実に勿体ないことだ。
いまだ私が夢想に留める欲を、
存分に満たしているというのに。
[こちらに駆けて、その執行人は斧を振るうか。
狂人は、その斧の行方、妨げることはないが。]
―…ほう、
貴方は、魔物になりたかったのですかな?
[学者のつぶやきには、興味を覚え、
もう少し聞こうとするけれど、さて、彼は無事か。]
[ぎりと柄を握った両の手に、筋の浮く。
奇しくもその凶器は、水底より来るといわれる魔物と同じく水底より引き上げられた物だった。
ずる、と重量のある鈍器を振りあげれば、
男は幾度となく望んだ光景を思い描く。
儀式でもなく、慈悲などなく、
救済も、そう何の意味さえもなく。
ただ、己の悦楽の為に他者の命を奪う。
ひび割れた眼鏡の下、男の表情は知れず]
私は人だよ、人を殺すのは人だろう。
[ただ欲の滲む熱い息を零す口元は、蕩けた笑みの形であった*]
なるほど、
君は人ですか。
そして、彼は、魔物。
実に楽しい。
[ひょろりとした男は、ぐるりと首をまわす。
そして、学者が鈍器を振り上げ、斧が疾駆すてくるにんげんとまものの戦いを。]
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