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なっ………
[櫻木の周囲に、鬼火が、ひとつ……ふたつ……と増えていく。
同時に、村瀬の悲鳴が辺りの静寂を引き裂いた]
また……あの…と…きと…同じ……
鬼 火………
[どんどんと数を増やした鬼火が、櫻木の体を隠していく――
―――ぐらり――――
櫻木の体が崩れ落ちる。
その一瞬の出来事を、まるでスローモーションのように茫然と見ていた――]
さ、櫻木さん…
[声に出ていただろうか?出ていなかっただろうか…]
[号泣する村瀬に向けて伸ばしかけた腕は、すぐに力を失い垂れ下がる。
誰も、誰に対しても、謝ることは出来ない。
こうなることを選んでしまったのは、……選んだのは、自分だ]
──、……っ、………。
[乱れそうになる呼吸を抑えるのも、もう慣れてしまった。
寒さを堪えるように両腕でその身を抱き、唇を噛む]
いつになったら、……おわる、の。
[こんな異常な状態に順応して、人を殺すことを躊躇いなく選んでしまえる自分は、きっと狂ってしまっている。
もし鬼を全員見つけたって、元の世界に帰ったって、恐らくその事実は変わらないし、死んだ人も戻ってこない]
でも、ね。
問題はそこからだった。
それから、病院内で沢山不審な死に方をする人が増えたの。
骨折で入院しているだけだった人が、朝になって外傷もないのに冷たくなっていたり。
当直のお医者様や看護婦さんまで何人か亡くなったりしていたの。
気味が悪いけどわたし達には関係ないって思ってたのに。
でも、見ちゃったの。
真夜中に、あの子が青白い炎を纏わせながら大人の人を襲ってるところ。
だから――
[抱きしめていた手を少し緩め、彼女の顔を真っ直ぐに見つめて]
これは僕の我儘だけど。
村瀬さんには、その笑顔を絶やさないでほしいんだ。
こんな変なとこから早く抜け出して、一緒に元の世界に帰ろう。
約束してくれるかな?
[少しでも、彼女の心が安らぎますようにと、願った*]
怖かった。
多分、あの子と親しくなかったらわたしも死んでいたんじゃないかなって今でも思う。
でも、あの子はわたしを殺さなかった。
代わりに、あの子自身が不審死を起こしていた理由を話してくれたの。
[時折苦しげに咳をするけれど。
それでも、まだ話は終わらない。]
死を回避する代償、だったんだって。
元気な人の魂を狩って、そのおこぼれを貰って寿命を延ばす。
そうしなかったら偽汽車との契約違反で、何処にも行けない魂になっちゃうんだって。
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメローーーー!
[すでになにもない―
ただ、なにもない空間に向け、めちゃくちゃに腕を振り回す。
――そこに、鬼の存在がいるかの如く。]
もう。やめてくれ
もう。たくさんだ
もう。だれも
うしないたくない――
かのじょは まもるちからのもの……
おれを…まもって……くれ…た
――なのに
オレハ……ダレモマモレナイ……ノカ……
[帰ろうと言われ、ようやく顔を上げる。そうして笑顔を向けるといつものように大きな声で言った]
うん!
[ようやく六花は寺崎の癒しを受け入れた**]
[制服のポケットの中で何かが擦れる音がする。
指先を差し込めば、固く薄い感触があって、──手触りから、近藤から貰った飴玉の包み紙だと知れた。
睫毛の先が震えて、視線を動かせば、村瀬から受け取った彼のスケッチブックが見えて]
……………、
[処刑を行った直後は、何時も身体が重い。
萎えそうになる脚を内心で叱咤しつつ、一歩一歩、それを置いてある座席へと近づいた]
……もう少し、……もう少しだけ、………、
き、……っと。 あと少しで、終わるから……。
[たどり着き、裏表紙に掌を添えて、細く小さく呟く]
魂を狩っている間は、成長もするしちゃんと大人にもなれるって彼は言ってた。
もっとも、もうひとつの代償で黄泉還る前の記憶も少しずつなくなっていくとも言ってたけど。
だからなのかな、その夜を境に彼は病院から消えてしまったの。
わたし宛の書置きだけ残して、ね。
[ふう、とため息を吐いて]
すごく長くて退屈な話、よね。
でもこれ、必要な話なのよ。
須藤先生が黄泉還りなら、もしかしたらあの日わたしの前から消えた初恋の人と、同一人物なのかもって思ったから。
…顔もだけど、雰囲気も似てたんだもの。
ふっ
はははははははははははははははははははははっ
[突如笑い出すと、誰に聞かせるでもなく声を出す]
なぁ……
どっちが幸せだと思うー?
このまま、帰れるかもわかんねーまま恐怖を味わい続けるのとー
なにが起こったかわかんねーうちに一瞬で終わんのと。
俺もうわかんねーよ…
わかんねーよ!
でも、結局聞きそびれちゃった。
もしそうなら、ちゃんとわたしの想いも伝えなきゃいけなかった、のに。
[初恋の人と同一人物であってもなくても、須藤先生のことは好きだったけど。]
結局、わたしは好きな人に二度も置いてかれちゃったみたいね。
…ふふっ。
良かった…。
[村瀬の返事を聞いて、安堵する。
もしかしたら、支えてほしかったのは自分だったのかもしれない。
よしよし、と彼女の頭を優しく撫でで、出来るだけ櫻木から離れた位置へと連れて行くだろう**]
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