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[常よりはやい、川の流れ。
薄く濁った水のなか、身を投げたタカハルが見え隠れ。
少年を押し流さず留め、追う高瀬舟を追いつかせるのが
『堰』なる岩だとは知らぬまま――男は船底に膝をつく。]
――沈むな、タカハル !
[ ご ごごう ]
[奔流に揉まれそうになる舟が、『堰』を通り抜ける瞬間。
移民の男の手が…タカハルの脇下へ潜り学生服を掴んだ。]
[意識をなくしたタカハルを、引っ張り上げる。
その間に舟は流れ流れて、目の前に次なる瀬の大岩が迫る。]
…っ !
[濡れた身体は重い。然しためらいは無く。
男は、細い舟の上へ自らも仰向けに転びながら助け上げた。
拍子、舳先が跳ね上がり――ちいさな舟は岩を飛び越える。
誰かの声が。リコーダーの音色が。…きこえた気がした。]
[みじかい浮遊感。天気雨。飛沫に虹。
跳ね起きた移民の男は、長い櫂を掴む。
何分、見習いの身。この流れの中、岸へ寄せるのは至難。
舟が着水すると同時、櫂の先を濁流のなかへ突き立てる。
――がくん。 櫂に絡む「何か」。しろく棚引く長い布。]
?!
ええ え
ンガムラさん… ?!! !
[舟は、直後 流木に乗り上げて――おおきく傾いた。]
[ ざっぱーん ]
[高く、宙へ。
しかし運良く、弾みで岸のほうへ。
投げ出されるタカハル。白が絡む櫂を握る移民の男。
そしてふんどしで一本釣りされるンガムラ――
あおい蜂の群れが、帯になってぶうんと横切ったのは
きっと倫理上、束の間隠すべきものが*あったから*。]
タカハル……!
[届かない叫び。届いてもどうにもならない、叫び]
だ、誰か……ンガムラさん!
[ふんどし姿の男が飛び込み、そして流される様に、またしてもただ叫ぶのみ]
何やっとるんじゃー!
ああ、もう!ヌイだけが頼りじゃ!
[速い流れに漕ぎだしてゆく、見習い船頭の姿へ。何度目とも知れぬ祈りを託す]
[そして、放物線を描く、舟。人。ちいさな虹。真っ白な、長い布]
おおーい!
タカハル!ヌイ!ンガムラさん!
大丈夫かー!おわ!
[駆け寄る足を滑らせる、河原の丸い濡れた石]
い……て……
顔、まともに打ってしもうた……ん?
何で、打つんじゃ?
[左の手をじっとみつめ]
[右の手でそこらの石を掴み上げ]
……透けとらん。
[ンガムラまでもが流されるのには、もうどうしたらいいのか、というような顔をしたが。ヌイが彼らを救出するのを見ると、息を吐いた。それから。ふと、聞こえてきた声に振り向き]
……あ、……
[消えていたはずの姿が見えれば。まず、驚愕し――すぐに、泣きそうな笑みを浮かべた。へたりとその場に座り込み]
……良かった……。
[呟くと、そのままうつ伏せになる。切れた緊張の糸。近付けば、静かな寝息が聞こえる*だろう*]
[ぼんやりたゆたう、闇の奥。
響いてきたのは、誰かの声]
「――沈むな、タカハル !」
[とおいような、ちかいような。
ただ、なんとなく──それから、遠ざかっちゃいけないような。
なんでか、そんな気がして。
ゆらり。
闇の深い方へ堕ちかけていた意識が、少しだけ、光の方へと動く]
(……沈まなかったら……)
[何か変わる?]
(……沈まないなら……)
[何処かにいける?]
(……オレは……)
[どこに いって なにを したい?]
(……わかん、ない……)
[意識はもう少し、彷徨いの内**]
[スクリーンいっぱいに、ぼやけた映像が広がるのを想像していただきたい。
カメラが引くにつれて、乳白色の世界のピントが合っていく。
そこに現れるは誰かの胸の谷間。
カメラはもっと引く。黒いバニーガールの編みタイツ。うさ耳。
そしてバニーの顔――]
ボタンさん!??
[カッ!!と目を開いた。
頭がくらくらする。爆音が聞こえる。
それがロケット花火の音だと気付くのに時間はかからなかった]
ぶえっくしょん!
[セイジを見つめて。意識せず自然にぽつり、ぽつりと紡がれる、歌]
雨、雨、さよならまたあーとーでー
晴れたらあーそーぼー
晴れたらまたあーそーぼー
お空が笑うの待ちきれないから
お山のお社御参りに行こう
社の神さまお願いします
いますぐ天気にしておくれ
雨の涙を虹に変えて晴れ空にっこり笑ったら
みんなで一緒にお外で遊ぼ
晴れたらあーそーぼー
晴れたらまたあーそーぼー
[口ずさみながら、ぼうっと眺めていたが。川に飛び込む音にはっ、として]
…タカハル!
……っと……ええええええ!?ンガムラさんー!?
[タカハルを追ってふんどし一丁で飛び込み流されていくンガムラを見て絶句]
……………。
あ……ヌイさんの船!よ、よかったぁ…。
[しばらく放心したようにぽかんとしていたが
ヌイが二人を救出したのを見て気を取り直し、ほっと一息ついたところで聞こえたギンスイの>>18「透けとらん」の声に振り向き]
え?透けてない…?
ギンスイ、透けてないって、顔打ったってことはまさか!
セイジくん、見える…?
私達のこと見えてるんだ…!
[>>19セイジの視線は明らかに消えたはずの自分達の姿を見とめていて。その泣きそうな笑みを安心させるように、やわらかく微笑み返すと、へたりと座り込んだセイジに駆け寄り手を伸ばす。その腕はもう透けることはなく。セイジの体を*支えて*]
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