[痛そうではなかった。
苦しそうではなかった。
どちらかというと、いま此処にいる
友人たちのほうが――と考えかけて、
周囲の会話に意識を揺り戻される。]
…マシロ…
[内なる均衡を崩す態でチカノへ
言い募る友人の名をつぶやく。
先刻の八つ当たりへ置かれた謝罪には、
まだ応えていないまま。]
[それから、風変わりなチカノを見る。
生首だけであっても、生きていた
―ように見えた―アンがいたのに
凶悪な重量の錘を放り投げたことや、
何やら念入りな凝視をされたことや、
こと此処に至って『悪戯』やら
『趣味』なんてはじめに喩えたことや、]
[常は横紙破りを地で行く彼女が、
こんなときだけ遠回しな物言いで
"追い出す"とやらの行為を
ナオで試そうとしていることに、
ひどく、ひどく 理不尽を憶えて]
…もう、チカノさんたら。
もう、もう。
[肩前へ垂れているチカノのおさげを
左、右とぶって、背中側へ弾いた。]
あー…ごめん。
[名前を呼ばれてから一息。
サヨの、チカノへの暴挙――と呼べるのか解らないがを見て、私は少しだけ冷静さを取り戻し。
誰に問う訳でもない言葉を口にする。]
でもさ、仮にアンがあと時は「生きていた」として。
また同じ犠牲者を…、私たちの中から出さなければならないのかな…。
――結局、追い出すことも意味合いとしては同じだろうけど。
『その「ごめん」は、誰に言った?』
[自問自答を投げかけ、私は淀んだ空気を深く吸い込んだ。
不思議とヒールの足はもう、*傷まなくなっていた*]
[生きていた――サヨの言葉に、聴こえた声を思い出す。
アレは確かに、アンの声だった。]
……悲鳴でも、何でもなかった。
[おしゃべりしながら、誰かが突拍子もないことを言い出したりなんかした時に思わずあげてしまうような日常の1コマ。]
私たちには、 くび、しか見えなかったけど
[だから、異常な状況であり、死を意識したけど。]
アンは、そのままの私たちを見上げていた。
…次は耳だろうか。
跪くつもりも、命乞いをするつもりもないが…
私が追い出されるのは、少し困る。
[まだ少し、肩の後ろで編んだ髪が揺れるのを感じながら、サヨとマシロの視線を受け止め、すこし自嘲めいた苦笑を漏らす。]
マシロ。私の得意分野は悪戯だ。
だからこの悪趣味な悪戯を仕掛けた輩が判る気がするのだが…
追い出されてはそれもかなうまい。
[そう言って、少女はマシロをまじまじと見つめた。
冗談だと弁解はしないのだな。私は興味深げに少女を見る。]
でも……首しかないのに、
そんなことってありえる、のかな。
[手足も何も無い首だけの状態で。
普段と変わらぬ友人達を低い位置から突如として見上げる。]
…――、 扉、しまったあと、どうなったんだろ。
[想像したところで、こわい、という感情は消えない。
そうこう言う間にも、箱は次の階へと近づいている。]
[あやまってばかりの友人には、]
… "どちて坊や"は、
ひとを怒らせても、謝ったりしないのよ?
[疑問ばかり並べる相手に
呆れてみせるときのあだ名を
引き合いに出して答えた。
しらない世代はぐぐるといいんだ。]
[ナオに笑えない冗談を告げるチカノ、それを見たマシロが"追い出す"ことをにおわせたり、サヨが人間らしいとチカノのおさげをぺしぺしとしている姿を見ながら、考える。]
……困る?
サヨちゃんは、違う?
[そんな中で、嫌だ、ではなく、困る、と言ったチカノを見上げてしぱしぱと瞬く。]