細面というのかしら。
[船頭に微笑む。
川を渡り陸地に辿り着くと、女はアンティークドール屋のショーウインドウ前で男の袖を引く。
海色のシャツを着た、男の袖を**]
[例え、現世で司直の手を逃れたとしても]
[死後の行く末は地獄だろうと思っていた]
[それくらいは、覚悟していたのだけれど]
[深い深い、海の中]
……ねえ、ペケレさん。
[嵐も波も届かない、静かな暗い青の中]
貴女は……いいんじゃないでしょうかね。
[手首を掴んだままの女に、呼びかける]
多分、道義的にはね。
やっぱり、僕の方が悪人なんじゃないかな。
[それは幻かも知れないけれど]
貴女まで一緒に沈むことは……ないんじゃないかな。
[本当の彼女の姿は、とうに離れているのかも知れないけれど]
皆さんと一緒に行った方が、いいと思いますよ。
ちらっと聞こえた感じでは、何だか楽しそうでしたし。
合コンとか、何とか。
[それでも、その手を握り直して]
途中までなら、お送りしますから。
……さあ。
[軽い調子で言って、*微笑んだ*]
[深い海の中。
声など聞こえるはずもないのに、それは確かに届いた。]
向こうへ行くなんて、わたしがわたしを許せない。
合コン興味ないし。
[寒くもなく厚くもなく、静かに海の底へ、光から遠ざかっていく。
後悔はない。あるはずがない。]
絶対に、この手は離さないから。**
[ふと気がつけば、身は軽く。
足元では、熊を抱えた自分が、周囲をあかに染めていた]
……ああ。
あの時の、華と同じだな。
[零れたのは、苦い笑み。
いつか見た華、そのいろを掬って描いた相思華は、今は漆黒]
……さて。
果たして俺は、逝けるのか。
同じ、場所へ。
[問いに答える声はないが。
男は、薄く笑って、何処かへ向けて歩き出す。**]
[死を、手招く声。
見えた先にある人影は誰のものか――]
宇野…?
[霞む視界の向こうに見えたのは。
確かに女を南の島へと呼び寄せた者の姿。]
嗚呼、わたしも死する事で――…
今まで背負ってきた罪を、*贖えるのかしら?*
……頑固な人だ。
[楽しそうに、苦く、笑う]
[風も、波も、もう何も届かない海の底へ]
[どこまでも、その手は、*繋がれたまま*]
罪を贖う者だけが許されるのならば、
生きている者だけが救われる。
[生者に向かって呟いた言葉を、再度呟く。
大きな門の前。
数々の人が描かれた、地獄の門の前]
死んだ者が行くのはね――
[ぎい、と軋む音を響かせて。
背後の門が*開いた*]