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[森の中、湖の縁、そして雪原の影。己と意を同じくする狼達は、ただ静かに黙し、生贄の娘を運ぶ列を眺めている。
その瞳は確かに輝いてはいたが、何かの色を映すことはない。今の己の瞳と同じように]
嘆く……
嘆きながら、村の娘にその牙を突き立てるのか。
私は――我々は。在るがままが在るのなら、それで良いと思っている。お前のように、感慨など抱いてはいないさ。
だが、結果が同じならば…過程については、好きなように手を出してしまいたい。その欲求だけは、あるのだ。
生贄を、運ぶ列が。
あれは、湖の方だな……
[背後からの問いかけに、短く答える。
足を止めることはなく、しかしゆっくりと]
そう、ドロテアだ。
[眼帯の男に、小さくうなづいて。
足元の雪を音をたてて踏み分けながら、灯へ――行列へとゆっくりと近づいていく]
本当、よくやってくれたよ。
[うっすらと紅い跡が、頬には残っているのだろうか。
悪戯じみた笑みの気配に、返すのは諦観の響きを伴った笑い]
[光がはっきりと見えるようになった処で、足を止めた。
生贄の娘はどこにいるのだろうと考えながら、行列をじっと見つめている]
別に、気にするほどのものでもないさ。
放っておけば治る。治らないときは、私が死ぬ時だ。
[数日では引かないだろうから、そう付け加えて。
沈黙には何も返さない。唯一つ、息を吐くだけ]
欲か。
…ああ、愉しみにしていればいいさ。私自身も、そうなったらどうなるのか見当がつかんからな。
[灯が去れば、また足を動かして。
そっと、行列を追う。
供儀となる少女の貌を――生きている時の貌を、せめて目に焼き付けておきたい。たぶん、そういうことだ。
開けた場所に、行列はたどり着いただろうか。
あくまでも遠巻きにそれを眺めながら、視線が探すのは捧げられた少女のすがた**]
[己が率いる狼たちの気配を感じる。
どこか虚ろなそれ。小さく笑って、――今は伏せておけと、そう、送る。
己に連なる狼達は、ただ影のような視線を、じっと送り続けるだろう。
村に、雪原に、森に、極光に、供儀に、――そして、対となるものと、彼女が率いるおおかみ達に**]
―湖の畔―
[松明の灯が見えなくとも、男は湖の畔まで足を延ばしていた。
取り囲む狼たちの気配が強くなる。あまり長居するわけにもいかぬだろう。
だが、この時期にのみ出来る雪原と、そしてそこに捧げられる娘を最後に一目見ておきたかった]
……感傷か。
[吐いた息は白く、見上げるオーロラは赤い。
どう疑い、どう信じるのか。どうすれば、疑いを晴らせるか。どうすれば――生き延びられるのだろうか]
言葉は、無力だ。
だが、時にその器を超えた能力を有する……
嘘、……。
[肩を抱いて、微かに震えた。きっと、寒さのせいだろう]
―村外れ―
[村の灯が瞳に映る。狼の遠吠えがやんだ。
――瞑目する。
時間稼ぎ。
長老の言葉が、脳裏に蘇る]
いよいよ、か。
…言葉は弱い。疑いは、言葉を簡単に突破する。
だが、ちからのない人間はそれに頼るしかない。
疑いの矛先が、言葉しか持たぬ人間に向かったら――それは、悲惨だろうな。
[疑い合うことで、村が自滅していく。
狼の輪で押し潰すまでもなく。想像することしか出来ないが。
故に、他人事のように淡々と語る]
仕向けているのは、時に人間同士であるのにと、そういう事なのだろうか。
……力のない人間のやることは、どうにも理解できず、予想できん。注意せねば……
[囁きではなく、それは自身に向けた呟きなのかもしれなかった]
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