情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了
[通り抜ける感覚が過ぎ去った後、男は傍らのバス停に手を添えてみる]
……やれやれ。
[するりと擦り抜けるのを見て、狭間に落ちたことを実感した]
…兎、まだ、足りないか?
[あれから姿を見せない兎に声を投げる。
他の者達は分からないが、男の『たからもの』はここにある。
ずっと忘れていた大切なもの。
男がこれからも目指し忘れまいと決めた、大切な「夢」**]
[溜めていた心の内を吐き出すかのような叫び。
八つ当たりも多分に含まれていたようだが…兎に同情する余地は無く。
男は黙って事の成り行きを見詰めた]
─────
[やがて、風が緩やかな動きを辿り止み、灰色の空が凍れる涙を止めた]
[その空から白が一つ落ちてくる]
……兎。
[雪のようにふわふわなそれは器用に着地し、最初と同じく軽い調子で声をかけてきた。
ただ見るだけならば愛らしいとも思える動き。
それを何の感慨も抱かずに眺め、兎の手の中に『鍵』と『螺子』が現れるのを見た。
兎の手で『鍵』と『螺子』が動き、時計の鐘が鳴り響く]
──…12
[正しい数の音。
どうやら、兎の言う『時計』が直ったらしい]
[兎が誰かに語る声はただ聞くに留まった。
男に向けた言葉では無いと理解したために。
ただ、その言葉は男の意識にもしっかりと滑り込んできた]
…終いか。
最後まで適当だな。
[多分、と曖昧なことを言う兎に小さく紡ぎ、僅かばかり口端を持ち上げる。
虹色と空色の光に包まれた何かが砕けるおと。
雲間から差し込む柔らかい日差しが男の身にも降り注いだ。
空間の狭間は、もう、無い*]
[冬木が声をかけることで七咲も持ち直したよう。
あちらは任せて問題無いと判断した男は、箔源へと瞳を向けた]
……向き合えそうか?
[問うのはただ一言。
彼が、この世界に何かしらの作用を齎したのは何となく分かったから、心境の変化があったのかを聞いてみたくなったのだ]
[───カラン、と男は店の扉を開けた]
…ああ、少しな。
[外に出てたんですか?と疑問を向けてくる店員に言葉少なに返し、男はスタッフルームへと入っていく。
店員は、いつの間に?と首を捻っていたが、男は何も言わなかった]
………少しずつ。
[進めて行こう、と。
男は「夢」の計画を纏め始める。
今はまだ、この小さな店を維持していくので精一杯だろうけれど、いつかは]
[──やがて]
[「夢」の第一歩として、ペットショップの隣に小動物カフェが併設される。
そこはペットショップで売れ残ってしまった仔達が引き取られる『家』としての機能を併せ持つことになった**]
[あの日からの男の生活は変わったようで然程変わっていない。
店の仔達の世話をして、接客をして、経営に頭を悩ませる。
ただそこに、忘れない目標が加わっただけだ]
[そんなある日のこと]
いらっしゃいませ───
[カラン、と店の扉が来客を告げる音に男は振り返る。
接客用のスマイルというものも上手く出来ないため、いつも通りの無表情で出迎えることになったのだが、その瞳が僅かに見開いた]
……冬木さん。
お久しぶり。
…まぁ、それなりには。
[見開いた瞳が元に戻ると同時、口端に僅かばかり笑みが乗る]
そちらは……順調、かな。
[傍らに居る人へも一度瞳を向けて、確認するように呟いた]
…それで、今日は、小型犬を?
[入ってきた時に口にしていた言葉は届いている。
問いながら、小型犬の仔のブースへと二人を案内した*]
…スマホ? ああ。
[問われて是を返すと、懐かしい名前が耳に届いた。
バンド、と言われて箔源も先へ進んだのだと男は知る]
ライブの動画か……。
[転送されたURLを保存し、時間のある時にゆっくり見ようと。
流石に今は勤務中だ、客の目の前で動画を見るわけにはいかない]
……もし、ここに居ない犬種が欲しいなら、ブリーダーに交渉してみるぞ。
[目的の犬種が居ないならば、と一言添えたが、拘りがあるわけではないらしい。
それならば後は二人で相談するのが良いからと、男は一旦冬木達から離れた。
仔の声が賑やかな店内、少し離れてしまえば彼らの話す内容はほぼ聞こえなくなる。
男はその間に仔猫や仔兎の世話や入れ替えを行っていた]
[それからしばらくして]
……ああ。
[幾度か仔犬についての相談を受けた折、冬木の仕事についてを問われて短く是を返す]
物書き……。
…良いのか?
タイトルさえ教えてくれれば、買うが。
[印税等に関わるだろうに、などと考えてしまうのは経営に携わるが故。
だが相手の気持ちと言うことで、執筆した本は頂くことにした。
タイトルを見て、あの時の光景が甦る]
……楽しみだ。
[冬木がどんなストーリーを紡いだのか。
受けた印象をそのまま口にして、男は楽しげに笑った**]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了