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[公衆の面前で怒鳴り散らされるよりは良いが、痛いのには変わりない。
殴られた箇所を押さえながら、友幸は訥々と話す父の声を聞いていた。
「仕事道具の管理はしっかりしろと言っただろう」
「仕事を手伝い始めて何年目だ」
「二十歳になったんだからもう少し落ち着け」などなど]
手伝い始めて二年目ですすいません…。
[思わず敬語になりながら答えて、ぐさぐさと突き刺さる言葉を受ける。
帰れと言われないだけマシだが、思いっきり凹みそうだった]
……あ、そういや親父。
藤代さんからの手紙、なんだったんだ?
写真だけじゃないだろ?
[話が一段落した頃、ふと思い出したことを口にする。
問われた父は再び作業を開始しながらその問いに答えてくれた]
…八重藤の花つきが悪い?
それで、診に来てくれって…?
[返答を聞いて友幸の表情が変わる。
あの藤園の片隅にあった珍しい藤。
幼い時の記憶が残る場所]
……あれは、枯らしちゃならない。
親父、診に行く時は俺も連れてってくれ。
[そう頼み込むが、大学があるだろうと突っぱねられた]
じゃあ、連休の時だけでも良いから!
どの道、治療するとなれば長くかかるんだろ?
[恐らく父と他の作業員が長期出張してあたることになるだろう。
ずっと居るのが無理なら休みだけでも良いからと譲歩して、好きにしろと返事を貰う]
さんきゅ。
行く時期決まったら教えてくれ。
[強張っていた表情を緩め、安堵した様子で笑みを浮かべた]
[藤園にある八重藤が自然発生の突然変異のものなのか、他から移植されたものなのかは知らない。
けれどその樹は友幸にとってとても大事なものだった]
───約束したからな。
[咲き誇るあの樹の下で、また会おう、と]
……藤の花、かぁ。
[ここに来る前にいた場所──つまり実家の裏山には、野生の藤が群生している場所があって。
子供の頃は、よくそこで遊んでいた、けれど。
いつからか、そこには行かなくなっていた。
理由や切欠は、記憶のどこにもないけれど]
……なーんで、だっけ。
[ふと、そんなことを考えたのは、先ほど見せられた写真があまりにも見事だったから……かも、しれない]
……ま、今考えるべきは、そこじゃないかぁ。
[ふる、と首を振って泡沫のような物思いを振るい落とす。
今考えるべき事は、多分、きっと]
……今日の夕飯。
[と、もう一つあるのは、またもぽいしておいた]
どーすっか、なぁ。
アッ…
[先ほどは押しすぎたから、今度は手前を狙う。
じっと見て間合いを計っていると、にゃんこ師匠のニンマリ顔が、藤色のすだれの向こうに霞んだ。
ありえない。驚いて予定より早くに離してしまい、小さな声を上げた]
…っと、セーフ。
[狙った場所より手前になったが、初心者設定に助けられたようだ。アームの端がしつこく引っかかってくれて、ゴロリと回転させることが出来た。
そのまま転がった景品は、ゴトンと重たい音を立てて、取り出し口までやってくる]
[軽いファンファーレが鳴る中で、戦利品をしゃがんで掴み出す]
はい。
[そのまま無造作に、少女に向けて差し出した]
[話が途切れ、作業に集中し始めた頃。
木槌で打診を行っている時に、ポケットから着信を告げる音が鳴った]
杏奈?
[軍手を脱いでスマホを操作し、通話状態にする]
どうした?
[問いかけに返るのは困惑の色。
兎やら藤やら捲くし立てられる言葉は文章になっているようでなっていなかった]
待て待て、落ち着け。
ちゃんと順序立てて話せ、な?
[「お兄ちゃんみたいに頭打ってないのに!」
「兎が二足歩行で!」
「なんでか藤みたいなのが!」
まだ落ち着いていない模様]
それ暗に俺が頭おかしいとか言ってないか?
[そんな風に話が若干ズレたりもした]
ふう。
[日陰で ぽつんと やっぱり放置]
今日中には、終わるかなあ...あっ!
[放置仲間の 子役の女の子 目の前で走ってコケて]
ちょっと、大丈夫?
[思わず 立ち上がった 白無垢って歩きにくい]
怪我してない?泣かないのね、さすが女優!偉い偉い。
[子供は好き 女優になれなかったら 保母さんでもいいなって]
[お姉さんて 慕ってくれた 近所の内気な女の子]
キクちゃん、だっけ...
[ハナとキクで お揃いだねって 笑った]
[付き添いの母親のとこに駆けて行く、子役の女の子の後ろ姿]
[あの子もよく転んで涙ぐんでいたっけ、と]
[今日は、なんだか、昔の事ばかり思い出す]
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