情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了
[腹よりもずっと柔らかな感触は、すぐに固い骨のそれに変わる。
全て、踏み潰してしまった今は、もうどうでもいいのだけれど]
ねぇ坊や
[半分が無残に潰れた顔に、呼び掛ける。
上唇の半分が欠けた唇に最後のキスを落とした]
おめでとう、坊や
初めてなのにちゃぁんと出来たわね
[母性溢れる笑みを見る者は、もういない]
[キスを落とすために屈んだ姿勢。
そのまま靴を脱いで、そこらに放り投げた。素足も、もうそれとはわからないほど赤く、黒く。靴に包まれていて爪先だけがぼう、と白く浮かび上がる]
ううん、思ったより
随分とめちゃくちゃになったわねぇ……
[赤に埋もれる欠片。骨の破片をつまみあげて、口に放り込む]
[ぴちゃり。未だ温かい血が爪先を汚した。
頭は半分潰れ、胴体にも幾つも穴が開いた無残な姿。
少々首を振ったくらいで、よくぞ動けずにいたものだ。
横たわる男。何度も撫で付けた髪は血で固まり、いくらか抜けてぼさぼさになっている]
子供みたい
[可愛い、と小さく笑った]
[子供はもう笑わない。
手を取らない。
熱を持たない。
キスもしてくれない。
見つめたまま、たたらを踏んだ足が放り出された眼鏡を踏んだ。いつから割れていたのか。レンズが柔らかい足裏に刺さり、新たな血を流した。
もう、いらない。
動かないモノは、もういらない]
そう、ね
十分楽しんだもの
おやすみ、坊や
……おやすみ
[背を向けてその路地を後にする。
さらに奥、もうひとつ死体があるとは知らず。
血の匂いを上書きして、さらにまた上書きして]
でも、そうね
……今夜の相手が見つからないの
[ひたひたと湿った足音が路地に響いた]
[話し声が聞こえた。
低い声。男の声。
バーで聞いた、二人の声だ。
いつもどおりの顔ぶれだと思っていた。
けれど最初に殺したあの女だって、本当は知らないし、置いてきた坊やも思えば初めてみる顔だった。
ふと、空を仰ぐ。
街灯にとまった羽持つ何かが此方を見ていた]
[見詰め合っていたのはどれくらいか。
詰めていた息を吐き出し、振り返った。
その、先に]
いやだ
[パン、と乾いた音がした]
おにいさんてば
………言葉を、くれないのね
[振り向いたのが功を奏したか、弾は脇腹を貫いていった]
[崩れ落ちそうになる膝になんとか力を込めて目に付いた路地に飛び込んだ。傷つけられたことはあるけれど、撃たれたのは初めてだ]
初めて、だって
……ふふ
[手負いの女だと侮って、すぐに追いかけてこなければいい。
行きたい場所に行ける路地。
あの男が、何を思って銃を手にしたのかはわからないけれど、本心から殺そうと臨むのなら]
もう ……時間、が
[ない。
平坦な地面で躓いて無様に転びながらそう考えた]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了