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地球を七回半。
確か……光が一秒に進む距離、だ。
……そこに書いてあるのが、そういう意味なのかは知らないけれど。
[リウに向けてまた繰り返し、言葉を足してから]
……。
客、なのかな?
迷子になったから、お邪魔させて貰っているんだよ。
[おじさんと呼ばれたのには、ほんのり落ち込んだようだったが。一言ずつ考えるようにしつつ、*ルリに答え*]
おじさんと呼ばれたのは、正直なところなかなかショックだった。普段子供と接する機会などないので、そういった事への耐性が薄いせいもあるかもしれない。
そこはかとなく沈んだ気持ちになりながら、しかし同時に仕方のない事だと納得もする。こんな小さな子供から見れば私など確かにおじさんなのだ。リウと名乗った少女とてそうだ。彼女もまだ十幾つという歳だろう。
三十二。そうだ、私はもう三年も前に三十路を迎えてしまったのだ。いつまでも若者気分ではいられない。とはいえ、特別若さを気取っていたわけではないが――
今見える星が本当にそこにあるのかはわからない。
同じように、今見えている宇宙も……
遠い端ではもう終わり始めているのかもしれない。
[レンの説明に、詩か何かを読むように続け。羊羹を勧められれば、頂くよ、と頷いて]
ああ、私はフユキという。
迷子、なんだろうね。目的地を見失ってしまったから。
[肯定に続けた言葉はどこか曖昧に]
怪しい奴。……
危険人物は来ない事を祈ろう。
光にはまだ遠い、かな?
[七回転半して息を切らすリウに、首を傾げ。その後黒板に何かを書き付ける様を見守る。やがて書き終えられた文字とキリンの絵とを見て]
ああ。何か学校のようだね。
出席簿も必要になるかな。
[日付の部分を幾分注視していたが、ふと目を逸らし。広げられたノートの白い頁を一瞥した]
月。日。
――月、――日。
奇妙な感覚に襲われた。書かれた日付が、どうしても読めない。いや、確かに読めてはいるのだ。何月何日と確認する。その瞬間は間違いなく読み、また理解もできている。
だがそれを思い返そうとするとこれができない。何月と書いてあったか。何日と書いてあったか。把握したはずなのに微塵も思い出せない。
もう一度読む。読める。また、思い出そうとする。するとやはり思い出せない。
私は本当にあれを読めているのだろうか。読んだ気になっているだけではないか。不安に思い、ノートに書き写してみようかと思った。そして黒板を見直す。
読めない。見た瞬間は書かれた文字が何であるか、わかっているのに。読もうとするとどうしてもできない。
これでは書き写すのとて不可能だ。私は仕方なく諦める事にした。目的地を忘れた事といい、私はもしかしたら何か病気なのかもしれないな、とぼんやり思う。
……ん。
誰かが迎えに来てくれたら、嬉しいね。
[ルリの言葉に、何か悟ったように頷き。それから慰めに同意し、口元に小さく笑みを浮かべ]
ルリ、といっただろうか。明るい良い子だ。おじさんと呼ばれるのも慣れれば悪くないような気がする。姪がいたらこんな感じなのだろうか?
姪。そういえば先月も伯母に見合いを勧められたばかりだった。そろそろ家庭を持って落ち着くといい。作家などというやくざな商売は――など――耳にたこができるほど聞いた台詞と共に。
自分はまだ独り身でやりたい事があるから、とこれもいつもの台詞で断ったのだったが。
そう、なら良かったよ。
体育の成績は悪くてね。
[ふう、と息を吐いてみせ。立ち上がるリウに]
あ、私も手伝うよ。
[と言って*後を追い*]
[訝しげなソラには、いや、と言って視線を逸らし。庭に出ると岩を運ぶ手伝いをし出したが、そのうちにまた賑やかな声が玄関の方から聞こえてくると]
……?
[一度手を止めて、窺うようにそちらを見やった。ここからでは様子は、*わからないが*]
[ふいにスーツ姿の男、テンマに話しかけられて、やや驚いたように]
あ……はい、今晩は、初めまして。
私は石田冬樹と申します。
[仮にも好敵手認定をされているなどとは露知らず、反射的にか幾分かしこまった調子で挨拶し返し]
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