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[眼鏡を外したぼやけた視界の中、投票を終えて出ていったはずのクレストが戻ってくるのを見る。
異変を感じ取るのは、>>6 クレストが飛び掛かってからのこと。
慌てて眼鏡を掛けてソファーから立ち上がるも、間に合うはずもなく。
クリアになった視界がまず捉えたのは、>>7イェンニの喉元から吹き出す赤色の血だった。
驚きで>>10 ヴァルテリの呟きが耳に入らず、クレストへ寄ろうと数歩歩み出した時には、>>11ヴァルテリはユノラフの背後にいた。
聞こえた声に振り返った時には、もうその喉笛は噛み切られた後。]
………ユノ、ラフ。
[ただ呆然と、赤く汚れた居間の床に倒れていく友の身体を、目を見開いて見た。
そして。]
―――………ヴァルテリ殿。
[ゆっくりと視線を動かした先に、>>12 血を舐める灰色の狼を見る。
その今までと変わらない言葉遣いと、今までとは大きく違う姿とに、ニルスは息を飲む。
しかし、怯えている暇などはない。
僅かに震える手をぎゅっと握り、緩く首を振り、ニルスはじっとヴァルテリを見詰めた。]
……ご老体に鞭打つこともありますまい。
大人しく御隠居なさってはどうですか、ヴァルテリ殿。
[さて、狼に変じた彼に冗談はどれほど通じるか。
勿論、ニルスとて余裕で冗談を口にするわけではない。
出来るならば、争いたくは無い。争ったところで、どれだけやれるか。]
それともやはり、我々も喰い殺さねば気が済みませんか。
[じりじりと後方に下がりながら、クレストの様子を窺うのに後方に視線を遣る。
>>17 クレストが落としたナイフを探すのを見つければ、クレストを狼から庇うように二人の間にニルスは陣取る。
ヴァルテリを真正面に捉えながら、ニルスの視線は時折左右へちらりと動く。
武器になるものを探すかのように。]
我々がここであなたを見逃せば、そのツケは他の村人にいくのでしょう?
だったら、ここで終わらせる他はない。
……しかし、その前にお聞かせ願いたい。
人狼の本能というものは……人を食うという衝動は、それほどまでに抑え難いものですか?
今までの友人知人を捨てねばならないほどのものなのですか?
それとも……人狼として目覚めると同時に、そのような情も失くしてしまったのですか?
[獣が身を屈める。それは、跳躍の準備であるとニルスは知っている。
巡らせた視線の先には椅子と、レイヨの足を傷つけた置き物の破片と、幾つかの無傷の置き物があった。
使えるものといえば、その程度だ。
クレストがナイフを手に取るまで会話で気を逸らそうとしているのは、恐らく明らかだろう。
それでもニルスは問い掛ける。時間を稼ぐ為だけではなく、自らの疑問のままに。]
[単に飛び掛かるのでは、跳ね退けられる可能性は十二分にある。
咄嗟に投げた椅子が狼にぶつかり怯んだ隙を狙って、ナイフを突き出す。
それと同時に、>>32 ヴァルテリの口が開かれて、その牙が目に入った。
人の喉笛を一撃で噛み切るそれを目にしても留まらずにいられたのは、飛び出した勢いのお陰だ。
その牙が自らの鼻先に届くより、一歩早く。
―― 手の中の銀色が、獣の喉を貫いた。
眼前で、狼の姿が見慣れた老人のものへと変じていく。
その光景に追撃も忘れ、ナイフを握ったまま、ニルスはヴァルテリの顔を見る。
喉に刺さったままのナイフが、更にヴァルテリの喉を傷つける感触が、手から伝わる。]
……すまないが、これで終わりのようだ。
[ナイフから手を離せば、ヴァルテリの身体は床へと倒れていく。
その表情に浮かぶ苦笑を見、何かを言おうとするかのように唇が動くのを見遣るも、それが音になることはない。]
………。
[ニルスは言葉もなく血で汚れた片手にナイフを握ったまま、同じく血で汚れた指先で眼鏡のブリッジを押し上げる。
その血は、―― 人と同じ赤い色をしていた。]
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