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[公園から少し離れた裏道に『時間屋』はあった]
サテ、コレでオワリだネ。
[ごく若い頃にそこに店を開いたのは、異国から来た時計職人。彼は今、最後の仕事を終えたところ]
― 時間屋 ―
[修理を終えた、古い腕時計の蓋を締め、表面を丁寧に布で磨く。銀色の金属は鈍く深い輝きを取り戻し、僅かに飴色に変色したガラスの中で、秒針が、チキ、チキ、と規則正しく時を刻んでいた]
ゲンキでネ。
[子供をあやすように、時計に語りかけると、職人は布張りの箱の中に、それを収めた。依頼主は、明日、それを取りに来る予定だ]
[仕事道具を一つずつ、丁寧に仕舞い、棚へと収める]
オツカレさま。
[全て片付けてしまうと、指先で、とん、と棚の縁を叩いて、目を細めた]
[やがて、戸口の壁にかけた帽子を手に取って、使い慣れたステッキを傘立てから引き抜くと、職人は店を出る]
イイ風、ダネ。
[それまでの何十年かを、そうして来たように、いつもの公園に散歩に出かけるために]
― →公園へ ―
[人通りの少ない道を、規則正しい歩調で歩く。コツコツとステッキが道路を叩く音は、どこか時計の音に似ていた]
[途中、古い知り合いと出逢えば、軽く帽子に手を触れて挨拶をするのが常だが、ここ10年ばかりのうちに、そんな機会もめっきり減っていた]
― 公園 ―
[いつもの公園には、いつものように、人々が集まっている。コツコツとステッキを鳴らしながら、職人は、いつものベンチに足を向けた]
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