[ガタン、と大きく車体が揺れた。
向井はもぞりと肩を動かし、ややあって丸めた背中をゆっくり伸ばして身を起こした]
ね、み
[すぐ横にある、ボックス席の背もたれ、の反対。
頬を預けるにちょうどいい場所は、車内の冷房によりひんやりしている。
鞄は空いた隣に滑らせる。
勢いあまってコン、と頭が音を立てる]
[ああ今日も朝起きられなかった。
朝ごはんを食べられなかった。
電車に乗り遅れた。
学校に間に合わなかった。
授業に出られなかった。
全部、夢。
そんな不真面目な自分は、全部夢]
[横に置いた鞄に添えられた指は、右の人差し指にタコがあった。親指も少し、赤くなっていて。そして左手の人差し指がうっすら黒くなっている。
夏。
机に向かい続ける学生。
夢の中でも、数字に追われているのだろうか。
それとも、顔の見えない家族か、教師か]
とま と
[寝言からは、そんなことちっとも、窺い知れないのだけれど**]