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―教誨所近くの茂み―
[辺りは暗い。鈴虫が鳴いている。
意識を失った後で茂みに引きずり込まれたらしき
見知らぬサラリーマン風の男――ズイハラ氏の傍、
足のない少年の幽霊が立ち、見下ろして*いる*。]
灯りくらい、欲しいね。
[薄暗く、日に暮れて行く世界。
幾ら赤い色彩に覆われようとも、
闇は辺りを覆いつくすもので。]
――これは、使えるだろうかね?
[教誨内に灯される炎。
それは、文字通り明るさを保つものか、
それとも別のものか。]
いでででで……
[これはあれだ、上司の子供の運動会にかり出されて騎馬戦借り物競走綱引きあれそれあの人またでてるわと奥様連中にささやかれ続けた悪夢の日をようやく追えたと思った次の日にも訪れた悪夢]
ちくしょうなんだってんだ。
[ネクタイをゆるめようとして、それがとうになくなっていることに気づく。あぐらをかいて、乱暴に頭を掻いた]
まあ、最悪何か有った時の為に。
持ち歩いて悪いものでもなかろうに。
[やや物騒ではあるが、
炎を拝借し、持ち出すことにした。
根強い信仰の象徴なら、
この炎を楯に、ひとつ賽を投げる事も可能だろうと。]
あー ひでえ。
[頭がぐらぐらする。
顔をしかめて目をつむると、波の音の様な、静かな耳鳴り。
暗かった視界に明かりがともるように、何かが映る。霧の向こう。誰か、人のような、姿。見上げるような、角度]
誰かの視界にも別の地図があったの。
教誨所と湯治場、二宮尊徳像と火の見櫓。
[日記帳と誰かの巻物、それぞれに描かれていた場所を宙に打つ]
ノギさんも、赤い水にやられてしまうよね?
[『像』の下にあった梯子のような記号のことは口にせずに、道なき斜面を滑り降りる**]
ええ、まったくです。ただの観光客にこのような仕打ちとは。
[徐々に落ち着きを取り戻してきたのか、声音はいつもの無機質な調子を帯び始める]
私はあいにくと、「ないよりはまし」程度のものはなるべく持たない主義でして。
[男性につられるように肩を竦めた。
雑誌に関する追求はなく、次の質問。
顔を上げ、眼鏡の奥から淡々と男性を見据える]
あれは確かに化け物ですが、かつては―― どうしました?
そもそも存在しない村に、
学校なんて有る訳が無いのに。
なぜ、携帯電話の中継塔の話が、
湧き上がったのだろうね?
[ひとの足だけで踏み作られた悪路を進む。
轍に足を取られないように。]
――?
[そして奇妙な動きをする、
屍人と呼ばれるらしき姿を見かけた。]
瞳を、かして?
[呟くと同時に、右の視界が反転する。
草むらに隠そうとするものを覗き込む。]
――日記?
[村の誰かが綴ったのであろう。
古ぼけた表紙を捲ると、記憶が蘇る。]
いいよ。
今度はやり返すし。
[ごめんの声の主をまっすぐに見上げる。
ゆらりとかすむ姿に、今度こそ目をこすった]
……赤くない?
俺は、タケシでいいか。剛速球の、剛。
[女――と思いめぐらせ、こんな感じ、とポニーテールと胸元を手の仕草でしめし。
からり。
回る地球儀。
差し出されたままのそれなら、受け取り、己の指でも回してみる**]
T社、知ってる?
アンテナ建てにきたんだが……どうも、だまされたのかな?
巻物と――?
[盗み見た視界で漸く読み取った文字に首を傾げる。
謎を追い、また謎に逃げられた気分になり、
思考を散らすかのように、頭を振った。
そして借りた儘の視線で視続けた先に見つけた、
少年らしき者が横たわる姿。]
――どうして欲しい?
[問いかけても音は無いが。
村の教えに従えば、炎で弔うのが*最善かと*]
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