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裁判官に連れられて来たのは、村のはずれにある石造りの建物。高い壁に囲われた、裁判所。
重い門をくぐり、雑草の生えた中庭を通り抜け、石造りの建物に入る。ぐるりと取り囲むように廊下と牢屋があり、壁を隔てて中心の空洞が、法廷だ。
「部屋は用意しました。
水と食料は、毎日届けます」
そう言って女が手渡してくるのは、牢屋の鍵。
「あなたが魔女でないと言うのなら。
早く魔女を見つけて我々に教えてください。
そうすれば――]
助けてあげますよ。
赤い唇が、確かにそう動いた。
ついてねえ……
[無情に閉じる扉を見て、男はもそりと呟いた。
よりによって魔女狩りにあうなんて思ってもいなかった。隣村まで配達で出かけることはあって、そこでは魔女狩りの噂も聞いてはいたけれど。
まさかこんな村まで裁判官がやってくるとは、思ってもいなかった]
そりゃあかわい子ちゃんには声かけたけどよ。
[村では配達業よりもそちらで有名になりつつあるが、それは女性に対する礼儀だと、男は思っている。
その一環で声をかけてしまったのが先ほどの裁判官で――まさかそのせいで魔女疑惑をかけられたわけではないだろうと思うが――現状、苦笑いしか出ない]
どうするか、なあ。
[手の中に残った鍵を放り投げ、空中で掴む。
とりあえず、ドーナツ状の建物の中を見て回ることに*した*]
魔女。
[音なく動く薄い唇。
女の紅と対照的に色のないそれ。
そして表情もまた、分かり易く対照的なもの。]
俺が。魔女ね。
[く、と。
やがて洩れた薄い嘲笑は、開口一番の女の問いに答えを返すものではなかった。]
私が、魔女……?
[どうしてそんな疑いをかけられたのかは
分からないし、身に覚えがない]
[どこかで他人ごとのように思っていたが
まさか自分が、だなんて]
…お袋、大丈夫かな。
[魔女裁判の名を聞き、開店準備を共に行っていた母親は泣き崩れた。
父が死んだ際も泣かなかったあの母が、だ。
どうせ、店にツケのある奴らか、暴れたのでつまみだした奴らの誰かが、こんなろくでもない事を裁判官に吹き込んだに違いない、と顔を顰める。
早く帰ってやらないと。
そう、小さく呟いた。]
― 法廷 ―
[円形の部屋の中心にある台に尻を乗せる。被告人席だか証言台だかしらないが]
ろくでもねえ。
[鉄格子がはまった牢屋を部屋と呼ぶ神経も。思ったよりも深刻そうな、この状況も。
苦々しく口を曲げることしかできない]
[法廷の出入り口を見る。
部屋の中は静まりかえっているが、外には幾人か、人の気配がした]
まったく。
[ぼりぼりと頭を掻く。
ついてねえよな。
ぼそり、と。
言葉を口の中で*転がした*]