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彼の声は…
[届いたのでしょうかと呟きは尻すぼみに語尾をあげず、続いた言葉にカウコを見て瞬く。脳裏を過ぎるのは長老の言葉―――暴虐を阻む者]
貴方は…―――、………
本当なら貴方こそ生きるべきです。
僕は誰も護れない。
いかすにも誰かの死が前提なんです。
[カウコへの怯えより勝る感情が、普段は荒げぬ声を僅かに大きくさせる。―――血を分けて―――眼鏡の奥で見開いた瞳が、揺れた]
…お礼なんてしません。
言いません。
[ふて腐れたような物言いは珍しく溢れる想いを隠さず、感情のままに犬歯が食い千切る指。パタタ…流れる血は想いと同じく溢れるから、彼の望む量には足りただろう]
貴方なんて…
―――死ねなければいい。
[パタリ―――カウコと珍しく人の名を呼ばわりに差し出す血と共に、恨みがましい呟きが零れ落ちていく。爆ぜる薪の音、気をつけてとも言えず彼を見送ったのは無理に茶を勧め*引き留めた後*]
まぁいいことを教えていただいたから
対価を。もうご存知かもしれませんけど。
ビャルネ様、姉様…トゥーリッキを潔白、といったそうですわよ。
ビャルネ様はビャルネ様で、姉様とウルスラに変なことおっしゃったみたいで。
案外、カウコがそれを知って殺したのかも、知れないわねぇ?
[淡々と話す彼に、春風のような言葉を落とし、その場を辞して*]
…ふむ。
――音と臭い…気配?
何時も…気にするものだが…
[呟いた声は、やはり低い。
問詰められない事、という言葉には、
はて、と、まるで生徒のようにとぼけた声をひとつ 返して]
ビャルネが、トゥーリッキを潔白だと。
……そうか。
[場を去る前に教えられた内容には、瞳に思案の色が過ぎった。歩いていく。雪を踏む音は静寂によく響く]
真は、何れか。
見極めん。偽りに呑まれないために。
[呟きは雪に吸い込まれるように消え]
[遠のく意識。
次に気がついたときには
見えるはずのないものが見えるようになっていた]
……ビャルネかい?
[そこで確認する。
自分が既に*この世のものではないことを*]
[それは何時ごろ行われた惨劇だろうか。
あらたに雪が赤に染まったころ。
その様子を見ていた男はふと、聞こえた声に視線を向ける。]
……ウルスラ、お主もか……
やはり、死してもそう簡単に、この村からは離れられないようじゃなぁ。
[うすらぼんやりとした姿で宙に漂う男は、
獣医の言葉に静かに声を掛けた**]
[歩みを、ふと止めた。コートの前、ボタンとボタンとの間にある隙間に手を入れる。取り出したのは、ベルトに挟まれていた物。普段はコートに覆い隠されている――幾つかの武器の一つ。
刃渡りは二十センチ程だろうナイフ。革製の鞘を取り去ると、銀色に輝く鋭い刃が現れて]
……、
[その光を見つめる瞳は常よりも色濃く憂いを孕む。
時に危険を帯びる任のさなかで。
男は人を傷付けた事がある。そして――殺めた事も]
―――…、………
[カウコが去って後も焔を見つめて、思索に沈み揺らめく色を見ずとも写していた。車椅子に座して考えていたのは経験のない人の殺め方かも知れず、揺らめく焔が面持ちの影を濃くする]
いかす術は…―――
[胸元にしまう丸薬の容器を服の上から摩り、車椅子の背にそっと忍ばせたのは草木を刈る用の使い慣れた小さなナイフ。手に馴染み見慣れたはずのナイフは、別物のように写り眼差しを細める]
…しないでなくのはたくさんだ。
……飽和を。終末を。
そのようなものが、なくとも。否。ないとするならば。
私は。どうすれば、良いのだろうか。
[ナイフを持った腕を降ろし、呟きながら歩く。やがて見えてきた姿に、立ち止まった。ウルスラ。抜き身のナイフを手にした男の姿は、彼女の目にはどう映ったか]
……ウルスラ。
[呟くようにその名を呼び、一歩一歩、近付いていく。それに伴い、彼女は離れていこううとしただろう。その距離を詰めていく間は、悩む間のようでもあった]
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