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[檻に手を掛け体を支えるように中を覗き込む
見開かれたおんなの眼球と 視線が、合う]
殺さねば
確かにいる 魔物を
生きる、ために…――
[こぷ と口の端から垂れる黒い粘液を拭った*]
[破れ網に掛かった死んだ魚の他に、ヌラヌラと光るまだ生きた頭足類を抱えてヘイノは昨夜、村を回ったらしき。
蒔きを配る男を真似て、食糧を分けるように人の気配の有りそうな全ての扉を叩いた。
隠れ家のような場所には辿り着けていない上、無防備に戸を開けぬ者も居ただろうが。
ともあれ、朝が訪れてもまだ男はずぶ濡れのまま。生臭い潮の匂いを纏わせて居る。]
──………
あの贄は、
…………俺に、
[ヘイノの眉は吊り上げたままかたまり、瞳孔が開き瞬き一つしない目は、陸に在っても人が引き摺り込まれたならば生きては戻れぬ深海の色を映す。]
…従士長殿、
[えづく赤毛の男へかける声はかつての呼称。
したたる黒い粘液にみるのは昨夜の予兆――]
魔物 … ――そのようなものに
生贄を捧げるという話では…
なかったはずだが、
[違ったのか。違ったのだ。
魔性露わな徘徊者の存在。
遠い納得を示すように、語尾は続かなかった。]
― 廃教会 ―
[死肉を食らう男の腕をねじり上げ、手荒と言われたことには笑みを返すが、目も口も布や轡に覆われているので彼には見えないかもしれず、
ただ、ひょろながい、のだけれども、鍛えられた体躯。掴む腕、指の力は、その身体をいともたやすく、ボロのスーツの紳士を地べたへ這い蹲らせる。]
ヒヒヒヒ、フフフフ、
ヒャハハハハハハ
[彼の抵抗が人間の急所たる場所に及ばない限り、その大きな手は、司祭の遺体の横で、邪淫の慰みを始めるだろう。彼自身を慰めながら、長い指を容赦なく、もうきっと何日も糞の出ていない場所へつきたたて。]
別に、その肉を屠ったことなど、どうでもいいよ。食いたいなら、食えばいい。
[喘ぐはじめるならば、悪戯にその口に、また死肉を押し込むのも、また遊びの一つ。]
安らかに
[引き上げられた安らかではない眠りの表情の石女にかけた白々しい声
親しき死臭が漂う]
鳥はいませんが、何とか致しましょう。
死の儀を取り仕切り、器は大地に、魂を空に還すは、私の役目。
全ての死は私の手で――
[それは絶望しかないこの地で何かを成そうとする男の執着が表れる矛盾に満ちた思考]
魔物。
[語尾を上げての一言。それは不快の表れ]
訳の分からないモノに、死を支配されてなるものか。
死の儀を取り仕切るのは我
[人の死の主導権を得たい欲求を表情露わにする]
死の主導権を奪うモノは、蜘蛛の糸による粛清で、導きましょうか
[閉塞感が狂気の歯車を回す]
[そしてどのくらい時間がたったか。
何やら外が騒がしいように感じて、
またゆらりと起き上がり、外へと。
目を細めて、檻の方を見た。何人か集まっている。]
…なんだ?
[面倒くさい…。
一瞬そう思ったが、そのまま檻の方へと。]
…女が、死んだのか。
[人越し、柵越しに、生贄の溺死体をみた。]
ふん…。
[檻の前の男たちを睨めつけるように見回した。]
魔物って、なんだよ?
…彼は、
不正で連座処刑を受けた一族の 子弟だな。
[くろぐろと示されたヘイノの名を受け
伝えるのは、いまひとりの同郷の士へ。
一族と交友あった執行人が自害を図ったと、
そのような記録が付随する一件を簡潔に。
妄執の僧へ口を挟むのはためらわれ――
猿轡の道化と無気力な男へ見解を添えた。]
… 殺すもの である*らしいよ*
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