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……そうダナ。
こんな街、正直壊れれば良イとも思うガ。
[けれど、この街は俺の手で壊したいから。
そこまでの願いは口にせず、冷えた視線に僅かな間目を閉じた。]
アア、厄介ダナ。
仲間のようニ言葉を交わしていたガ、この町の中で、俺ハ亜人の方ガ一人だけで歩いてイル所に出会っタ。
常ニ行動同じクでも無いトハ思う。
バズーカーは用意できないガ……しかシ、念入りナ準備ニハ賛成ダナ。
[矢筒に矢は50本程用意していたが、一度に抜けるのは四本まで。
右手の矢が尽きるも、異形の腕で防がれ狙った部分には当たっていない]
くっ……力を籠めなければこの程度か。
[浄化の力を籠めれば、威力は上がるが発射までに掛かる時間は延びる。
人間型の腹ならそれでも十分と踏んだが、やはり変化の方が早かった]
――馬鹿だけあって馬鹿力ね!
[1m四方程の床がこちらへ投げ付けられる。
素早く矢筒から矢を一本抜き、ぎりぎりまで力を籠めて放った]
砕け!!
[金色に光る矢は、脆い床の中央をぶち抜いた。
無論、破片の勢いは止まらない。
矢を放つと同時、全力で翼を振るい上方へ飛んでいたが、完全には逃げ切れず破片を腕と脚で受けた]
[投げたレンガは、矢で砕かれる。破片の一部は相手に打撃を与えたようだが、こちらにも破片が飛んでくる。]
んあ、痛い痛い
[つぶてが、顔に当たる。思わず顔を片手で覆い痛みに耐える。もう一つの腕を辺り構わずふりまわす。
顔を覆って腕を振り回しているので、床に穴があれば落ちるかもしれない。]
に、ぜろ、いち、に。
[全てが変わった年の刻印。]
2012年。
[実験体の記憶の中にない単語と匂いに、湧き上がるものの不思議さに、戸惑う。其れに名前をつけるならば、何が相応しいだろうか。]
つっ……
[破片が腕や脚に当たり、白く整った肌に青黒い痣が増える。
だが破片を受けているのは、相手とて同じ事。
顔を庇う腕の間から、痛がる化け物の様子が見えた。
痛みに顔をしかめつつ強引に破片を腕で振り払うと、弓を構え直し]
――落ちろ!!
[床は既に所々穴がある。
その内の一つに化け物が寄っていると見えれば、追い討ちのように足元を狙い矢で穿った]
― 挿話・屋上庭園/崩壊間近の楽園 ―
[憎悪に彩られた瞳で覚悟を口にした翼人は、
空を捨てず自ら軽業師のもとへ歩を寄せた。
煤吐く男が、迎えるに熱い手を差し伸べる。
…彼女がにべもなくそれを無視出来るように]
横になって
うつ伏せ 上体だけでいいから
…そう
[庭園に生える芝は、まだ幾らか青さが残る。
芝刈る庭師もいないからにはふかりと沈む。
奇形に縒れた姿さえ、褥の柔らかさを増し]
…よく
ここまで飛んでこれたもんだ
[漏れる感慨は、風切羽に見える損傷具合を
よく見る鳥の大きさと単純に比較した結果。
彼女の身体の横へ片手をつくと屈みこみ…]
失礼
[短く声をかけぐらつく羽の根元を銜えた。]
[身を固くする翼人から声は上がったろうか。
少し間を置き、熱い手が背をほとほと叩く。]
…ん
[羽根の元を含む口唇から、じわりと沁む熱。
コールタールより濃く、黒い黒い黒い――
ピッチと呼ばれる瀝青(れきせい)に近い物。]
[八年にたったひとしずく滴下する其れとは
いかずとも、限りなく固体に近い"流動体"。
周囲に無事な羽と共に固め支えてしまえば、
痛みは幾らか残れど動作に支障ないはずで]
… ふ ゥ、
[時折の息継ぎは、煤広げるを憚る息遣い。
其の人の背を掠める吐息に苦情が出たなら、
返事の代りにまた銜え――ひと時が過ぎる。]
そう言えばさ
お嬢ちゃん、なまえ
…なんて言うんだっけ
[双方が身を起こした際に、爛れた胸を
押さえる軽業師が空惚けた態で尋ねる。
――全うな応えがあれば、
呼ばず己の名も*告げて*]
― 挿話・屋上庭園/崩壊間近の楽園 了 ―
痛いよう痛いよう
[痛みは消える事なく、むしろ増幅して身体中に広がっていく。
それでも、目の前の鳥に向けて当てずっぼうに腕を振り回し、辺りを歩き回る。]
んあーーー
[床にできた穴。そこに足を踏み込んでしまい、バランスを崩してしまう。
追い討ちをかける様に放たれる矢が足に刺さり、そのまま下層階へ落下した。**]
[…――――月はなく、翳るだけ。
濃い闇の気配、法嫌う者>>2:32の気配。
ぐるり首を廻らせて、ぎゅうと酒瓶を更に抱きしめる。]
[自らの身体の輪郭を内側からなぞり、意識を四方八方へ向ける。チリ…、耳飾りが乾いた音を立てた。]
――デカブツめ。
[腕は無茶苦茶に振り回されていたが、長過ぎるそれが届いていたのだろう、残心の左手に浅く血が滲む。
相手はといえば床の穴で足を踏み外し、矢を受けて下層へ落下していった。
それ以上の追撃はしない。
殺したい相手は別にいるし、己が不利となる建物内部へ自ら入ろうとも思わない]
しかし、あの男――レーメフトと言ったかしら。
腕は確かだったようね……。
[もし翼が満足に動かせなかったなら、投げ飛ばされた床をかわし切れず今以上の重傷を負っていただろう。
感謝の言葉を口に出すことこそなかったが――
彼の去った方を一瞥すると、翼はためかせ崩れゆく庭園を離れる]
―挿話 崩壊前の庭園にて―
[地上人の男に身を委ねる決意。
それを経ても、芝生の上に伏せる姿勢は羞恥を感じさせるもので。
緊張に動作を固くさせつつも、ふかりと沈むそれは天上の寝台を思い出し心地よい]
……――ぁ
[翼の付け根に感じた唇の熱に、震える声が漏れ。
慌てて唇を噛み堪える。
痛みにもそれ以外にも、その部分は敏感であった]
[熱い手が背を叩く。
安堵を得るには高過ぎる温度。
それを意識し、緊張の糸を解かぬよう意識し続ける。
既に最重要器官を相手に差し出している矛盾には、その瞬間には気付いていない]
あ――ちょ……っと……
[ぐらついていた付け根が固まりつつあるのを感じながらも、その合間には違うものが羽根を擽る]
余計な事を……するんじゃないわよ……
[相手の息遣いが煤を広げぬためのそれだと思いもよらず。
身勝手に抗議する声は、羽根を銜える感触に封じられた。
清純なる天人は、その感覚を表す言葉を知らない]
[やがてその一時も終わり、芝生から身を起こした。
黒く固められた片翼。
目にした瞬間は硬直するも、両手を固く握るのみで、相手に感情をぶつけはしない]
あたしは――
あたしの名は、アイノ。
[地上に来てから一度も口にしていないそれを名乗ったは、礼の代わりか。
それに応えるかの如く、相手の名も返り――
少年の足音が聞こえたは、その一瞬後*]
―挿話 了―
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