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まあ、確かにこれは。
[ブレンド、と言われて珈琲に直結しそうな色合いのかち割りを目の高さでぶらぶらさせながら、くすりと笑う。
馴染みの医者は、まっとうに飲めるものを買いに行った。引き止める理由は全くない。むしろ]
うん。もう一本、俺のも。
あと酒まんじゅう、あったら。
[当然、頼んだ]
[歌姫が名乗ると、ばつの悪そうな顔で深く頷いてからしばし見つめる]
……濃い。
[普段見慣れているはずの舞台化粧が気になるのは、曇天のせいなのかなんなのか]
[すぐ近くで、『酒まんじゅう三つ』という声がする]
えっ!?
[振り向くと、何故かケバブ屋に指三本立ててジェスチャーする医者の姿。
思わずそこらじゅう見渡して、看板を探してしまう*]
忘れちゃったの? 大西杏子よ。
同じクラスにもなった事あるんだけどなぁ。
[ドサ回りとはいえ、数年振りに生まれ故郷の夏祭りに参加となると、やはりどこか心は躍るもの。
知った顔があったのなら思わず声を掛けていたし、相手が言葉に詰まるのもさして気にも留めない。
留めないのだが――]
[ぎりり、と引く]
[引き絞る]
[放った矢が、的を射抜く]
[……ずれた]
……ち。
最後の最後が、的中せず、か。
[は、とぼやいて弓を下ろす。
礼をして、弓道場を片付けて、さて]
……ダッシュすれば、間に合うよな。
[長い袋とナップサックを肩にかけ。
小さく呟き走っていくのは神社の方へ]
ふぅ、はぁ……つい、た!
[そこまで長い石段ではないはずなのに息が切れるのは運動不足である証拠。
日常あまり身体を動かさない影響がここに出た]
の、のど……かわい、た…。
[ぐったりしながら、痛む足で人が居る方へと歩いて行く]
何か、飲み物、ある?
…あっ、炭酸ダメ。
麦茶とか、アイスコーヒーとか、アイスティーとか。
とにかく冷たいのー。
[漠然とした注文に冷酒を出されたりすると瞬時に潰れかねないのだが、そこまで考える余裕が無くなっていた]
あと、どこか、座る場所、貸して?
[そろそろ足が限界]
[家に荷物置いてくる、という意識はない。
濃紺の包みが邪魔になるのは承知しているけれど、その時間も惜しいから]
おー、賑わってんなぁ。
[並ぶ屋台に呑気な事を言いながら、駆けて行くのは冷たい飲み物の屋台]
ラムネ冷えてる? 一本ちょーだい。
[注文するのは、祭りの楽しみ。
硝子の瓶の、炭酸水]
[大西。もしかしたら、合唱コンクールでソロパートを歌っていたのが彼女だったかもしれない。
そんなことを考えているうちに、手には英世が一枚握らされていた]
あ、ああ。
酒まんじゅうね。
[もう一度辺りを見渡して――そして、医者の後ろに並ぶ]
[硝子瓶の口を塞ぐ丸い球を押し込んで、零れる前に、と味わう。
通り過ぎる冷たさも、溢れて手にかかる冷たさも、どちらも心地よい]
……あー、生き返った。
[なんて呟きと一緒に、は、と一息。
かららん、と鳴る硝子玉の音も涼し気で。
喧噪の中、一時感じる涼しさに眼鏡の奥で目を細めた]
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