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そう見えなくとも、狂っていたのだよ。
今だってそうだ。
ああ、覚えているとも。苦い薬の味を。白い部屋を。
身動きできない窮屈さを。今だって。
[ルリの問いには、笑みを穏やかな微笑に変じ]
少なくとも、この世にはないものだ。
「This loathsome gargoyle who burns in hell But secretly yearns for heaven」
[半分の否定の後に続けた台詞は、独り言の*ように*]
……泡にだって。できる事はあるさ。
君らが俺を選ばない限りは盾にはならないね。確かにそうだ。
俺の夢を喰えるって?へぇ。
…なら。喰らってみるがいいさ。
肉体はもう、ない。掴まって溶けてしまったから。
けれど。それでも俺はここに"居る"。
君はその楽園とやらに、何を求めるのだろうね…
君の聞こえる「世界の歌」は。どんな歌なのかい?*
"彼女"は言う。
「God give me courage to show you
you are not alone…」
[ほどける唇から零れ落ちる台詞。
墨色に透ける亡霊の声は、語尾のやや掠れる穏やかな声。
THE PHANTOM OF THE OPERAその人の声には遠く及ばないが]
孤独に狂った"怪人"。…
「合図」は、ずっときこえていますよ。
[とろり、眠たげな瞬き。墓碑の合間に茂る公孫樹に凭れ
新たな死者たちへやわらかな目礼を馳せ、全てを*眺め居て*]
それでも君は…「ひとり」なのでしょうかね。
…あぁ。
思い出した。彼は…
[震えだした手を、もう片方できつく握る。]
助けたかった。
助けたかった…
なのに…
たとえ体は救えても、心までは救えない。
怖い夢を見ないように。
悲しい夢を見ないように。
……目覚めるときに孤独でないように。
[メロディーが一巡して、ひつじは餞別の音楽を終えた。
抱きしめたぬいぐるみに、くしゃくしゃの顔を隠し*俯く*]
…――
獏…獏。
…世界の歌は聞こえるですか。
せかいは…このせかいはうつくしいと、
教えてくれたあの獏は…偽だったのでしょうか。
そしてライデンにとってここは、
捨てようとしていた、いろのない――せかい。
ほんとうは、そうなのですか。
でも――
[蒼白な手を胸で組みおいた後、
惜しむように伸べて怪人の袖を、握りしめる――]
[告げる声は初めての揺れを含んでいた]
それでもルリは、
ライデンのこと、思い出したいのですよ。
――カナメ。まだ言うですか?
ペケレは…しっぱいさく。
[一音、一音、噛みしめ]
まるで物に対する言い方です。
聞きたいのです。
どうして皆、目覚めたですか?
ペケレに食べられる為、ですか?
[カナメは、違う、とこたえる]
[博士はそれを望んでいないなどと、さらにつごうとしていたが――]
[ポケットの中のカギを探る。
その温度は全てを受け入れ、自ら変わることはない]
[何を、とは付けず、
おしえて。たすけて。と求めていた*]
ありのままの世界が美しい。
そこまで理解していながら。
君には、ガラスを突き破って世界をその目で見る勇気も、還る勇気もありやしない。
この閉ざされた箱庭世界の歌に囚われて。
ただ、喰らうだけ。
星の命すら、いずれは宇宙(そら)に還る。
その過程が不自然でも。還れば結びつく、自然。
けれど、生きて結びつく自然に戻れるのであれば、それに越したことはない。だから。
だから……時が来て目覚めた時は恐れずに。その目で見、その耳で聞き。その肌で感じ。世界を見るんだよ……。例えそれで自ら滅んでも。それは自然のサイクル。
あの二人も。何か方法が見つかるかもしれない。また、あの時のように過ごせる方法が。
賭けてみよう。未来に――
[″結ぶ者″は、その目を静かに閉じて。かつてその言葉を伝えた者は……*]
…ひとの手は、目の前のものに想いを乗せる。
[ミナツの手に在る、色鉛筆とスケッチブック。
プレーチェが抱える、黒い上着とぬいぐるみ。
ユウキの胸ポケットには、ペンが挿されたまま。
レンはあたたかなマフラーと共に、強い想いを。
―――皆、みにくいはずの人工のもの―――]
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