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えぇ、えぇ。覚えてますよ。
脇道なんてひとつもない、細い道ね。
それが、どうしたんでしょう?
[やはり意味がわからずに、聞き返す。電話が繋がらないという言葉には]
そんな……。
電話、故障しているんでしょうか?
困ったわ。ジロウちゃんたちも帰ってきていないようだし。
そういえば、アンちゃんと、ザクロさんの姿が見えないわね。
まだお部屋で眠っているのかしら?
[セイジの視線に気づき、背後を振り返るが、もちろん何も無い。
手を差し伸べられ、少しためらった後、ゆっくりと右手を差し出す。
──するり、と、手がすり抜けた]
あら、残念。手を取ってもらおうかと思ったのに。
もしかして見えてるのかしら? 聞こえる?
外は危険かもしれないわ。気をつけて。
[なるべく明るく聞こえるように微笑んだ]
ダメだ、変に隠していられない。
[苛立たしげに髪をかきあげ、ため息をついた]
アンちゃんとザクロさんが、ええと。
……何かに襲われたみたいで。
[言葉を選びながら、ルリの表情をちらりと覗き見る。
それ以上、説明することは出来なかった]
襲われた!?
[思わず大きな声を出してから、傍らのルリに気付いて口を噤む。しまった……という表情で]
たいしたケガではないのでしょう?
……えぇと、ルリちゃん?
家の中に入っていましょうか。外は危ない様子だわ。
ごめんなさいね。連れて来て。
ええ、部屋で寝ています。
ただね、ジロウ達も戻らないし、どうしたものかと。
[思案すると、またカラスの声が聞こえた]
不吉ですよね。
カラスってどうにも。
[くすぐったそうに、少しだけ笑む。
迷うように一度黙った後、小声で“彼女”に囁いた]
――。
[ほとんど唇の動きだけで伝えるような、かすかな声。
“てがみを”と。手をそのままで]
[台所でおとなしくしてると、ゼンジおにいちゃんがやってきました。
外に出るなと言われ、どうしてだろうと思いながら、おとなしくしていました。
入れ替わりのように、ボタンおばあちゃんもやってきました。
外から車の音がします。ボタンおばあちゃんと一緒に外に出ました。
セイジおにいちゃんもいました。ゼンジおにいちゃんの様子がおかしいです。いきなりセイジおにいちゃんを叩いたり。そして]
アンおねえちゃんとザクロおねえちゃんが、何かに襲われた?
[言葉の意味が飲み込めずに、きょとんとして]
て・が・み。
[セイジと同じ形に唇を動かしてつぶやく。
不思議そうに首をかしげながらも、胸元から小瓶を取り出し、そっとセイジの手のひらの上にのせた]
これでいいかしら?
[ボタンおばあちゃんが、家の中に入ろうと言ってるので]
お外、危ないの?それなら、みんなで戻った方がいいよ。
[どこかでカラスのカーという鳴き声がします]
…何か怖いね。
[ぶるっと身体が震えます。自分の手で肩を抱きしめるように、ぶるぶるしてました]
[幸せ顔で頷いて、差し出した手を大事そうに閉じた。
掌を再び開き、やはりそこには何もない。
でも、届きます、と。
いつか言ったのと同じように、そう呟いた]
[ゼンジの言葉に頷いて]
そう……。良かった。
[と、ふるえるルリの背中をそっと撫でながら]
大丈夫よ。二人とも部屋で寝ているんですって。
ジロウちゃんたちも、もしかしたら思いの外買い物に手間取って、町で泊まったのかもしれないしね。
[我ながら無理のある事を……と思いながらも、ルリに向けては、笑顔を作ってみせる]
[セイジの手のひらに乗った小瓶を見て、目を丸くする。
そして手のひらの上から消えるのを見て、びっくりしたように声を上げる]
すごい。魔法みたいね。
そう──届くのね。
ありがとう。よろしくお願いします。
[にっこりと微笑むと丁寧にお辞儀をした]
[ゼンジおにいちゃんに頭を、ボタンおばあちゃんに背中をそっとなでられました。手があたたかくて、少し気持ちが楽になりました。
ほっと小さく息をついて、ボタンおばあちゃんに話しかけます]
お部屋で寝てるんだ…よかった。
うん。ジロウおにいちゃんたちもまだ街にいるのかもしれないし、パパもまだお仕事忙しいんだと思う。
おばあちゃん、一緒に中に入ろ?
[ボタンおばあちゃんの手を引いて、ペンションの方へ視線を向けました]
ルリちゃんは、ボタンさんと離れちゃダメだよ?
[そう言って去る途中、バックヤードから毛布を2枚取り出した]
嫌でも大人にならなきゃならないときはあるもんだ。
[冗談めかそうとしたが、口調はどうにも重い。
自室の扉を開けると、窓から外に出た]
泥棒みたいだな。
大丈夫ですよ。ルリちゃんは、私がしっかり見ているから。
子守りは慣れてますからねぇ。
あぁ、こんな事言ったら失礼ね。
ルリちゃんはレディよね。
[状況にそぐわないと自覚しながらも、軽口をたたいてみる。『一緒に入ろう』と手を引いてくれるルリに]
そうね。ありがとう。
中に入ったら、何かお菓子でも食べましょうかね。
[にっこり笑った]
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