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―屋上にて―
「そうか、そうかァ…
かみさまは、お嬢ちゃんがそうして
思い出しながら吸ってくれるのを
喜んでるだろうなァ…」
[おじさまのことばに、わたしは笑ってうなずきました]
そうだったら、嬉しいです
[かみさま、かみさま
わたしは、あなたのことをわすれたくありません
あなたの好きなもの、好きだったもの、いまはまだぜんぶ全部言えるけれど、覚えているけれど
いつそれがわからなくなるか、わからないのです
わたしはそれが、いちばん怖いのです]
[>>44]
ですから、どうか
あなたとおなじせんたくをしても
おこらないでくださいね
きらわないでくださいね
わたしは、あなたのことがだいすきなのですから
「危ないよ」
[おじさまの声に、わたしは振り返ります
あぶないでしょうか、そうでしょうか
それは、死ぬことを怖がる人だけの話です
わたしは、そんなものはこわくありません
だって、かみさまはあんなに綺麗にしんでいったのですから
だから、わたしだって怖くないのです
本当はちょっぴり怖いけれど、わすれてしまう事の方が怖いから、やっぱり怖くないのです]
「お嬢ちゃんの彼氏かァ、そりゃあいい
早く退院して、仲良くやんなァ」
[屋上のとびらに向かうとちゅう、背中ごしに聞こえた声に、わたしはまた振り返りました
そうして首をかしげます]
ひろくんは、わたしの彼氏じゃあ、ありません
[わたしにとって、ひろくんはひろくんです
いわゆるコイビトではありませんでした
たぶん、ですが]
[それから、手を振ってくれたおじさまに、にっこり笑って手を振りかえして、わたしはそのまま部屋に戻ったのです*]
そう、お星様に
良い事だね、きっと叶えてくれるさ
良い子にしてたら、きっとね
[潜めようとしたであろう声に、答える。
少しだけ小さな声で、彼女に習って。
もっとも、内緒話にするつもりもない。
きっと、近くにいる者には聞こえるだろうけど。]
そっか、爆弾か
壊れる前に、とっちゃわないとね
[一度下がった顔に、疑問符が浮かんだ。
けれど、再び上がる顔は、笑顔のままで。]
私にとって、かみさまは父親のようであり、兄のようであり、恋人のようでした。
私の世界を彩ってくれた人でした。
私の全ては、かみさまによって作られたのです。
生きる術を教わりました。
読み書きそろばんを教わりました。
他にもたくさん、たくさん、教えてくれたのです。
私は、そんなかみさまが好きで好きで、どうしようもなく好きでたまらなかったのです。
ああ、かみさま、かみさま。
どうして、私も連れていってくれなかったの。
ああ、急がなくていいからね
ゆっくり飲みなさい
無くなったら、またおいで
良い子にしてたら、また買ってあげよう
結城先生は何処ですか、って聞くんだよ
[ありがとう、と言われれば悪い気はしない。
笑顔で見送る事にしよう。
それから、あとでカルテは確認しよう。
忘れないように、しっかりしないと。]
[車椅子の音が完全に消えた頃]
……ふっ
[思い出汁笑いの後、誰にもみられていないだろうかと、廊下を見渡した。
その後、売店に立ち寄った。
長く留まる人もいるからか、簡素なレターセットならば、置いてあった。事務的な無地のものと、少しだけ飾りのついたもの。二種類だけ。
真っ白なほうを手にとって、キャンディ一袋と共にレジで袋にいれてもらった]
うん、るりね、おほしさまだいすきだから。
それじゃあ、せんせい。
またね。
[にこにこ頷いてから小さな手を振って。
缶を持ち直すと、廊下を歩いて病室へと戻っていく。
早く戻ってジュースを冷蔵庫に入れないと]
―926号室―
[部屋にもどると、ひろくんがいました
それからお寺さん、この人の事を、わたしはみつおじさまと呼んでいました
ひろくんは、お土産だと言っておいしそうなケーキを持ってきてくれました
ひとくち食べると、優しい甘さが舌のうえに広がって、とってもしあわせな気分になれます]
なんて言うケーキなんですか。
そう問いかけると、ひろくんもみつおじさまも、ちょっぴり悲しそうな顔をしました
どうしてだろう、わたしにはその理由がわかりません
ただ、ふたりの悲しそうな顔を見るのは、好きではありませんでした]
[フォンダンショコラ。六花がよく作ってたケーキだよ。
ひろくんは首をかしげるわたしを見て困ったように笑い、そう教えてくれました
でも、おかしいのです
わたしには、こんなおいしそうなケーキを作ったおぼえがありません
そう言ったら、みつおじさまがこう言います
アイツに良く作って食わせていたじゃないか、と。]
[みつおじさまの言うアイツ、かみさまのことだと思いました
そんなまさか、わたしは思います
それから、毎日つけてる日記をぱらぱらとみてみました
するとそこには、たしかに書いてあったのです
わたしが、かみさまのためにフォンダンショコラを作った日のことが。]
[わたしは、こんなに大切なことも忘れ始めてしまっているのだと気がつきました
そして悲しくなって、鼻の奥がつんとしてきました
目の端から、しょっぱいしずくがこぼれます
ひろくんとみつおじさまがなにかを言っていたけれど、よくわかりませんでした]
[ただ、ただ、
忘れたくないと、忘れないようにと、だいじにだいじにしまっておいた、かみさまとの思い出を
こんなにかんたんに忘れてしまうなんて
そんなじぶんが情けなくて、悔しくて。
わたしは、ぽろぽろぽろぽろ、泣きました**]
お星様もきっと、ルリちゃんを大好きだよ
うん、またね
[戻っていく少女の後ろ姿を見送る。
老女はどうしたろうか。
若者は今暫くここにいよう。
何故なら、珈琲をまだ飲んでいないから。]
[不思議な雰囲気を纏うお嬢さんの
唯一の否定の言葉に面食らったのは一瞬のこと。
"色々と複雑な年頃なんだろうなァ"と
ぼんやりと馳せた。
若いお嬢さんが居なくなった後の屋上は
なんだか少し、寂しさが増したような気がした。
お嬢さんがそうしていたように、
少しばかり顎先を持ち上げ、白い空を見上げる。
良い頃だって、あったのだ。]
[とある見舞客の手記]
六花は、日に日に記憶を失っている。
それでもあの人の事を必死に忘れまいとしているんだと思う。
例えば、ハイライトを吸ってみたり。それから、ちょっとした仕草を真似てみたり。
それでも、病状は進行しているみたいだ。
今日はフォンダンショコラを持っていったけど、覚えていないようだった。
あの人が飽きるまで、毎日作って、何度も俺は味見をさせられたのに。
昨日はあの人の墓参りの帰りに四人で寄ったけど、俺以外の名前はちゃんと呼ぶ事が出来てなかった。
彼女は恐らく、このままだとあの人と同じ選択をするんじゃないかと思う。
けど俺は、例えどんな状態になったとしても生きていて欲しいと、そう思う。
20××年 ◯月△日 記す
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