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ンフフフ
婆ちゃんは長いことここに居るからね
なんでも知ってンのさ――
[面会の終わりを告げられ、腰を浮かす。
抱きかかえたままの人形の、きしきしとした金髪が垂れ下がった。]
もう こんな時間かい
悪かったねェ長居しちまって。
こんな萎びれたババアで良かったら、
また来るよォ
今度ァ、出来りゃあ同じくらいの年の子も
連れてくるよ
[その表情に思わず付け足された言葉。
老婆の黒い眼は弓なりに細められたまま、ゆっくりと言葉を紡いで病室を後にする。]
結城先生。今日は。
来て頂けて嬉しいです。
[病室に入ってきた結城の姿を見ると、まずそう挨拶をした。それから、置いていたカンバスの上の絵を見つめる様を、サングラスの下から見つめて]
女神。
そうですね、それは……
そうなのかもしれません。
[訊ねられれば、少々迷った風に言葉を発した]
昨日、中庭で見た景色をイメージしたんです。
それで、描いていたら……
……なんだか、歌が聞こえた気がしたんです。
あの……オトハさん、の歌が。
だから、その歌の色になったんです。
だから。
女神に見えるのなら、きっと彼女が理由でしょう。
病室
[その場を去った老人の姿は、割り当てられた病室に向かった。
寝台に腰掛け足をさする。下から上、上から下、見様見真似の手つきで繰り返し。
脇に置いた金髪のセルロイド。
横たえようが、その眼を閉じることはない。]
孫……ねえ、あの子ァ
今幾つだろうねェ
大きくなっちまったら、もう、
お人形はいらないだろうねェ
[足のだるさを訴えて、昼飯は病室で食べたいと声をかけた。
その声音は看護士に対するものというよりか、少し甘えたような声音だった。]
中庭
[音楽のない、ただの庭。
少し前までは、空も見え、歌が世界を広げていたけれど]
狭い、なぁ
[ベンチに腰掛け、中庭を取り囲む壁や窓を見渡した。屋上の柵から、地面へ――何か、落ちている。駈けていき、きらりと夕暮れを反射した何かの前にしゃがみこむ]
[それから、老婆は眠った。
長らく歩いたからだろうか、エレベーターを使わない という無駄な努力を、鎌田小春に会った後に試みたせいだろうか。とにかく老人は昼飯を食べた後に昏々と眠り、その際もセルロイド人形を離さなかった。
目をつむり、眼さえも顔に刻まれた皺のような風体をしながら、その胸に抱いた人形は決して目をつむらず、真白の天井をずっと見つめていた。]
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