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[それは、生まれてこなかった子供の名……名を考えていた事も、妻には告げず、忘れることにした名だけれど、]
キミは、この子ニ、会えたのかナ?
[過去の時間を映した妻の笑顔に問いかけても、答えは返らない。けれど、優しい微笑みを浮かべたまま消えて行く姿に、職人は小さく頷いた]
サテ、ウサギさん。時計を修理しようかねえ?
[入れ替わるように目の前に現れた兎の姿に、動じる事も無く、声をかける職人の手には、くるくる回転していた光の代わりに、金色の螺子がひとつ、光っている*]
……あ
[省吾からのお願いに、ぱちりと瞬く。]
はい、勿論。
あ、だったらこの間紹介したお店、どうですか。青海亭。
わたしこそ、お世話になってるんだから奢らせて下さい。
[とん、とん、と、上ってきた時よりも少し遅めの音を響かせながら、承諾を返した。
戻ることが出来たなら、話すことは幾らでもある。そんな気がした。*]
[呼ばれた兎はこてり、と首傾げ。
その手に懐中時計はなく、代わりに銀色に光る鍵一つ]
『ワスレモノは見つかった?』
[こてり、と首を傾げた兎が笑う。
けれど、答えを求める風ではなく。
金色の螺子に手を伸ばし、それを受け取ったなら、くるり、とその場で回転し]
『……ねぇ、時間屋さん』
『なんで、この『時計』は想い出で動くと思うー?』
[言葉と共に、ふわり、その場に現れるのは黒い柱時計。
投げた言葉は、問いの形を取ってはいるけれど。
けれどやっぱり、兎は答えを求めない。
鍵を使って硝子の戸を開け、かちり、きりきりと音を立てて螺子を巻く]
『想いの力は、ねー』
『誰もが持ってて、何よりも強い、力だから、なんだよ』
『……時間屋さんは、知ってそうだけどねー?』
[螺子を巻き終わった兎は、楽しげにこういうと、硝子の戸を閉め金と銀をどこかにしまう]
『……さぁて、それじゃあ』
『想いの流れ、刻の音』
『風の音に乗せて、響かせよう』
『それで、時間は戻るから──』
[楽しげに、歌うよに、兎は告げて。
柱時計の文字盤を、ぽん、と、叩いた──]
[響き渡る、音。
始まりの時にも響いたそれと同じ──でも、それよりも軽やかな音はきっちり12回、響き渡り、そして]
[──どこからか、柔らかい音色が響いて、消えた]
[響いた音色、それを奏でるものは人それぞれに異なって。
オルゴールだったり、鈴の音だったり。
けれど、奏でる旋律、それだけは同じもの。
その音が消えた後──再び、世界は、ぐるりと、回り]
[響き渡る鐘の音。
廻る、世界。
既に経験していても、この感覚は早々慣れるものではない。急な回転から投げ出され、思わずぎゅっと目を瞑ってしまったけれど、今度はもう――大丈夫だと、分かっている。]
……ただーいま。
[白波が“現在”を刻む砂浜で、
見慣れた白亜の灯台を見上げ、瞳細めた**]
……あ、れ?
[立っていたのは、道の真ん中。
片手に柏餅、もう一方の手には学生鞄を持っていて。
周囲を見回さずとも、髪を撫でる潮風と耳を擽る波音が海辺の道だと教えてくれた。]
いまの、って…
[所謂白昼夢というものか、そう思いかけたけれど。
一方が解けた髪と、思い出した面影が現実だったのだと告げていて。]
…飛鳥さん達に、会わなくちゃ。
それに…和馬にも。
[狭間に飛ばされた人達は戻れたか、飛ばされなかった人達もワスレモノは見つけられたのか。
それを確かめに、心当たりを探しに*向かった。*]
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