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[天を仰ぐ]
なあ。
ワシらを、ほんまに匿ってくれとるんなら。
神さま。
こんなときばっかり祈って、勝手じゃけど。
ワシより、みなのこと、護ってくれや……!
[まるで、応えるかのように。トランクから飛び立った紫色の蜂たちが、ギンスイの周りを包む。それから、空へと舞い上がった]
[自分の口から出た声に、戸惑ったような表情をしたが、すぐにはっとして]
……それでも、駄目だよ。
たとえ、どんな理由があるにしても……
人を消すなんて、駄目だ。
人を、悲しませるなんて……
[きり、と鋭く目を開く。強い光の宿った双眸]
“「空」を侵す者を――
主らを、見逃してはおけん。
誤りし者め――”
……なんだよ、それ。
[零れる呟きは、戸惑いまじり]
縛を超える術は、他にない。
[続くのは、戸惑いを打ち消そうとする言葉]
……『堰』の、先……。
そこに、行くには……。
[ぐらり。
不安定な相互侵蝕が、安定を欠く]
川くだりの前に、自分とこの蜂はちゃんと手懐けとけよ。
[蜂を見ないまま軽く指差してヌイへと向ける]
タカハルは、こういうの好きか?
[取り出したのは、てるてる坊主ひとつ]
“ネギヤ 廃屋”って書いてあるんだけど、何これこの村独自の流行?
……なこと、言ったって。
[悲しませる、という言葉。
ぎ、と唇を噛んだ]
オレ、そんなん、わかんねぇもん。
[正確には『忘れたつもり』。
そうしないと──耐えられなかったから。
誰もいない家とか、話もろくにしない父親とか、そういう冷たさに]
『何をして正と、何をして誤と成すか。
我は、我の在り方のままにゆくのみ……!』
……綺麗、じゃのう。
[天に舞う、色とりどりの蜂たちに、地上からしばし見とれる]
ほんまに、神さまが、力貸してくれとるんんじゃろか。
[ひとつ、息をついて。ヌイとセイジの後を追い、河原へ]
タカハル君……
[名前を呼び、悲しそうな、苦しそうな表情をする。その声と表情は...のもので]
“愚かな。
暗夜に落ち、道理も見失ったか。
その錯誤、正してくれようぞ”
[強い声と表情は...に降りる「何か」のもの。入り混じり、混ざり合い、ただ、どちらも終わりを求む]
流行に敏感じゃねーと、この仕事やってけないんだぞ、っと。
[羽織のポケットからペン状のものを取り出して、逆さてるてる坊主に点を二つを描く。右目と左目]
キティーちゃんに口がない理由しってっか?
[一拍置いてから「教えてやんない」と笑い、てるてる坊主を投げた。タカハルへと弧を描く、それ]
トレードしようぜ。もう一回。
……ジャマ、すんな、セイちゃん。
オレは……オレは、ただ。
[低い声で、ぽつりという。
傘を握る左手に、力がこもった]
『望みのままに在るを愚かと言うか。
そは、生命の所以。
我は、ただ、『我ら』が望むままに……!』
[それよりも、更に低い声は少年の心の奥に棲みついたナニかのもの。
歪んだ共生の果て、互いに互いを侵蝕したそれらが望むのは、現状からの解放のみ]
何べんも来たことある河原に、よう知っとるみなの顔。
何で、知らん奴みたいに見えるのがおるんじゃろ。
タカハルの声にも、雑音が入りよる。
さっきのボタン婆ちゃんと、やっぱりおんなじじゃのう。
セイジの、声は、
何でじゃろ。セイジの声とは違うとるのに、よう聞こえる。
ンガムラさんは……
いつもの、ンガムラさんじゃ。
[小さく、笑みを浮かべる]
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