―――こわい。
[閉じた空間、狭くて息が詰まりそうになる。
はやく扉が開けばいいのに、と僅か数十秒が長く感じるのは、エレベーターガールにはおよそ不向きなある体質のせい。
……実際、実習用は普通のものよりは長いのだけど。]
追い出す……誰でもいいなら追い出されたい。
[自分のオペレーター担当区間は終わった。
とはいえ、重量オーバーにプラス1人乗っている以上、自分1人が降りたところで解決とは言いがたいのだが。]
ブザーも止まって、ナオちゃんが乗って……
今は安全じゃないから誰か降ろせってことなら、
[つぶやき、しばしの沈黙。
何事もなかったかのように最上階にたどり着いたハコ。
続きは、ぽつり、と落とされて。]
……"追い出す"っていうのも、何か物騒。
[チカノをチラ、と見る。一人の責任にする気はないが、今このハコが平常ではないことへの危機感はある。
スピーカーの不調も見られる今は不安は募るばかり。]
[チカノが連打する"非常呼出"ボタン。応答はない。
何も起こらないのは、教員が事態を把握しているから?
それとも、コレも壊れているのだろうか。]
―――あ。
[何か思いついたように呟く。]
次の階で、とりあえずオモリだけでも外に出す?
追い出せ、の意味もわかんないし。
[オモリさえなければ定員オーバーなどしていない人数。]
[――ひとり。
ただでさえ狭い箱の中、不具合が見えれば更に不安。
違和感を冷静に考えられる余裕はあまりない。
チカノの"ひとりしか出てはならない"という言葉に、そんな考え方もあるのか、とぼんやり想う。]
[マシロにそう返し、やはり視線は俯きがちに。]
大丈夫かなぁ……
いきなり、プツンてきれて、
エレベーターごと落ちたりなんて……
[それは物理的な恐怖。]
降りる、なら
立候補したいくらいだけど。
[追い出す――。
そう言われると、拒否したくなる。
追い出された人には、どんな不利益が生じるのか。
思考はいったりきたりを繰り返す*だけ*]
[錘を降ろすことに同意してくれたサヨにこくりと頷くもチカノに私物と言われれば、むぅ、考えこむ。]
ブザーはまぁ、余裕みて設定されてるとは、
想うけどね……
[しかしその状態から一人加わっているのだからエレベーターとしても楽勝ではないだろう。]
[現在自分にとって不安の種である重量の件をどうしたものかと考えてみるも短時間で思いつくこともなく。]
……え、
[再度の指令。
夏向きのアレ、と思い出せば壊れたスピーカーの声もそのように一瞬考えてしまうけれど。]
声、は、わかんないけど。
こんな口調のセンセ、いたっけ。
[マシロの問いに、少し考えてみるけれど。]
[一度疑問に想ってしまうとどうにも気持ち悪い。
背筋にぞくりとしたものを感じて首をぷるぷる振る。]
あくまで、"追い出す"、なんだね。
降りるとの違いは、自分以外の誰かをってことよね。
[これも試験なのだろうか。
拭えない違和感が徐々に首をもたげてくる。]
[降りてください――ではなく、追い出してください、と
不合格にする――ではなく、くびにする、と。]
くびにする、なんて、わたしたちの立場では、
普通、使われないよね。
[ぽつり、と落とす声は小さい。]
[……訪れた少しの浮遊感に身を抱くように俯いて。
視界の明滅に、ひ、と小さく声をあげ照明を見上げる。]
やだ、これも故障……?
[夏向きの……なんてものが頭をよぎり、俯きがちな顔からは色など消えている。
目の前の不安に、誰を追い出すか、なんて考えられぬまま]
――そういえば。
追い出してって、いつまでに、追い出すんだろ。
[この短い時間に2度もアナウンスがあった。
次の階でということなら今にも扉は開くだろう。
当然まだ決めてない。というより*考えられてないのだが*]