あーあ……ほんと、見られてるなんて思わなかったんだよなあ……
[小さく呟く声は、人には聞こえない音。
幼いころからこの町にいるから、街の住人を襲う気はなくて――だから近くの村を襲っていたのに。
土砂崩れとともに騒ぎ出したドロテアに、深い吐息をこぼすしかない。]
タイミングが、悪いんだよなあ……
これが、もうちょっと後でも先でもよかったのに、なんでよりによって今なんだろ……
[これでも、数日、我慢していた。
一番人が食べたくなる時期。
さっき少女と話していたときも、その手を伸ばさないようにと、止める努力が必要なほどに。]
――でも、俺、未だこの町にいたいから……ドロテアには、悪いけど。
[食べしまおう、とは声にはならず、虚空へと消えた。]
信じられないのも当然だけど……
現実に居るんだからしょうがないよねえ……
[はあ、とため息をつきつつ、普通の声量のラウリをあわれんだ目で見ていた。]
どうにか、ねぇ……
[アイノに語ったのは本心。
それでも閉じ込められる期間が長くなればなるほど危険は増すのだった。]
ドロテアが忘れてくれるのが一番だけど――
無理だろうなあ……
[人狼だった母も子供を置いてでていったけれど、時々戻ってきてそっと肉を置いていったことがある。
父には話していないという母だが、それでも――]
やっぱり人の中で暮らすのは無理があるのかなあ……
[人として育っていても本能に抗うのは難しく、どうしたものかとため息をこぼすばかり。]
まあ……しょうがないよね、生きるためだし……