[1] 絞り込み / 発言欄へ
え、手紙…ですか?
[診療所の看護婦から手紙を受け取り、中を検める。その途端、若い医師の顔が曇った。
不安げに眉をひそめる看護婦に、作り笑顔を向ける]
…ああ、大丈夫。ですがしばらく、僕はここを空ける事になりそうです。
父もいますし、診療所の方は問題ないでしょうが…。
[言葉を濁らせる。この手紙を置いていった者は、恐らくもういないだろう。
小さく首を振り、医者は息をついた**]
――…。
[黒い診察鞄に道具を詰めながら、思い返すのは森で見つかった無残な遺体の事。自警団長の立会いの元、それの検死をした事はまだ記憶に新しい。
死因は喉の裂傷で、即死に近い。絶命後に片腕を千切られ、柔らかな腹部を中心に抉られており、それはまるで巨大な獣に食い荒らされたかのようだった。
しかし周囲は荒らされておらず、単なる獣の仕業でない事が伺える]
ヒトガタの、化物…か。
[ひと月ほど前に噂された、それの名前をひとりごちる。
あの手紙には、自分にその嫌疑がかけられていると記されていた。そこにあったのは、自分の名前だけではない。診療所を訪れる村の人たちの名前も、懇意にしているお茶屋の若旦那の名前も]
まさか。
[何かの間違いだろう。あの人たちに、あんな事が出来るはずがない]
…そろそろ、行かないと。
[戻っては来られないかもしれない、という恐怖は不思議と無かった。手紙の内容が半信半疑と言うのもあるが、仮に真実であったとしても、それは変わらないだろう。
医者としての興味、なのだろうか。人が化物になるのか、化物が人のふりをしているのか――。知識欲は尽きない。
幸か不幸か、齢30にもなろうというのに伴侶となる女性もいない]
では、行ってきます。
[挨拶を残し、診療所を出る。宿に着いたら、ゼンジの淹れた美味しいお茶が飲みたいな、などと呑気に考えながら**]
[1] 絞り込み / 発言欄へ