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[住宅街へと向かう緩い下り坂。駅前に向かうべく歩を進めていた時、異変を感じて一度足を止めた]
………何で?
[不意に視界を過ぎる、制服を来た女性の姿。視界と言うよりは、脳裏に浮かんだと言った方が正しいか。見覚えの無い女性を目にして、瞳が何度か瞬く]
…えーっと?
[自分でも何が起きたのかが分からず、盛大に首を傾げていた。それから次第に眉根が寄っていき、やや険しい表情を顔に浮かべる]
あんの兎、ぶん殴る。
[それは心からの声だった]
[過ぎったものは一度横において。ここからどうするかを思案する]
家で見たものだけじゃ足りねぇ、ってことなんかな。
あと俺に関わる場所っつーと……あそこかぁ?
[思いつくのは学友が住んでいた風音荘。遊びに何度も通ったことがある場所]
止まって考えててもしょうがねぇし、行ってみっか。
[目的地を定めると、住宅街を早々に抜ける。駅前まで出てくると、そのまま海辺へと向かう道を歩いて行った。考え事をしているためか、周囲への注意力は散漫。声をかけられれば立ち止まって応じるが、それが無ければそのまま風音荘へと向かうことに*なる*]
[海辺への道を進み、その途中で道を逸れて風音荘のある方へ。学生時代に通い慣れた道。10年前は丁度その時期にあたる]
景色変わんねぇー。
っても当たり前か。
[遠目にはもう風音荘が見えて来ている。その入り口付近に人影を見つけると、離れた場所で一度足を止めた]
っと、あれって確か……貘原って言ったっけ。
[まず目に付いたのは、この10年前に飛ばされて最初に会った男子。名前は辛うじて思い出せた。彼がもう1人に話しかけているらしいのを見ると、視線はそちらにも向かう]
…………やっぱ居るよなぁ。
[小さな呟きは不思議そうな雰囲気を含んでいた。僅か首を傾げて後頭部を掻き、離れた場所からしばし見つめて*いた*]
[風音荘の前に居る2人を眺める最中。不意に背後で声が上がった]
「じぃちゃん! 早く!!」
───……え。
[聞き覚えのあるような、無いような、不思議な感覚を覚え、その場で振り返る。そこに居たのは10年前の自分と、急かされながら歩いてくる祖父の姿があった]
…うっわ、俺、あんな声してたのか。
[当時そんなに身体も大きくなく、声変わりも遅れていて。周囲より少し高い声を発していた。自分の声を客観的に聞くと少し違和感を覚えがちだが、声変わり前だと中でも違和感が大きく感じられる]
「早くって! トモの奴がすっげー熱出してんだよ!!」
「分かった分かった。だがじぃちゃんは年寄りだからな。
急ぐと足を縺れさせて、じぃちゃんが患者になっちまうぞぃ」
[大慌ての自分に対し、祖父の対応はのんびりとしたものだった。祖父は当時70歳、畑仕事をしているためその辺の老人よりは体力があっただろうが、自身の身体を良く知り、無理はしないようにしていた節があった。それが今見ているような対応を作り出していたのだろう]
そーいや……学校休んだトモの様子見に来て、熱が上がったの聞いて慌ててじぃちゃん呼びに行ったんだっけ。
[実際は父親を呼びに行ったのだが、先に話を聞いた祖父が行くと言い出したのだったか。ともあれ薬箱を持って風音荘まで2人でやって来たのを思い出した]
んで、じぃちゃんのお陰で熱も治まって、そんでその時───。
[何かを、思ったのではなかったか。思い出せずに考え込んでいると、過去の自分と祖父は横を通り過ぎながら、すぅっと姿を消した]
どう致しまして。
鬼龍院……えーと、菊子ちゃん、だね。
[苗字は長いので名前で呼ぶことにして。差し出したハンカチが菊子の手に渡るのを見ると手を下ろした]
ここに居るってことは、今は風音荘に住んでる、ってことかな?
…流石に10年前から住んでるってわけじゃ無さそうだけど。
[憶測だけでそう言って、菊子を見ながら首を傾げる]
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