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― 灯台 ―
うん、いい場所だ。
ああいや、大丈夫大丈夫。
[普通に立つには問題ないだけの空間は十分にある。ただ高い場所に慣れていないのと、二人並ぶとなれば距離云々…だった。
後を追って半周廻り、指差された場所に結ばれたものに首を傾げる]
おみくじみたいな結び方だ。
[願掛けだろうかという予想は微妙に外れた。
大層なものじゃない、というのには緩く首を振りつつ。
開かれた進路用紙に何度か瞬く]
感謝したいのは、俺もなんだ。
店に行けばと分かっていても、独りだったらまた逃げていたかもしれない。
見ない振り、知らない振りを続けて……いつか、後悔していたかも。
[力の流れが幾ばくか見えたりもするようになっていたから。他の人が見つけただけで足りるかもしれないと思えば、敢えて見つけようとはしなかったかもしれないと。
その可能性は十分あったと思われた。
ホゥ、と小さく息を吐く。
逸らしていた視線を六花に戻し]
だから、ありがとう…六花君。
[ヒュルリと風が吹きぬけて、カチリと時計が先を刻む。
微笑しながら、スッと右手を差し出した]
[六花の語る夢。叶わなくても輝いている夢。
目の前しか見てこなかった自分には眩しくて、けれど綺麗だと思った。それを語る六花自身も]
そうか。
勇気出して良かったな。
[怪しい人と思われないか、何度も躊躇ってから声を掛けたあの日。それが六花のためになったのなら、自分も嬉しい。
同時に何やら気恥ずかしくて、視線を合わせられなかったが。
もう一度勇気を奮い起こし、真っ直ぐに見て]
……戻ろうか。
[そろりと重ねられ、握られた手>>112を包み込む。
ありがとう、これからもよろしく。無言に託して。
六花の視線が階段に向いているのに気がつくと、ゆっくり放して身体の向きを変えた]
そうだ、嫌じゃなかったら。
向こうに戻った後も付き合ってもらえるかな。
[戻る途中でもう一度]
夕飯でも食べながらもう少し話したい。
奢るからさ。
[母の下から届いた手紙。そこに何が書かれているのかは分からない。向き合う覚悟は決めたけれど、相談に乗ってくれる相手がいたら心強い。
薄灰色の灯台の階段を降りながら、そんなお願いをしていた*]
いいね。俺も行ってみたかったし。
いや、でもそれは。
[付き合わせるのは自分だしとかあれこれ言いながら、ゆっくりと薄灰色の灯台を降りた]
ああ、向こうの人達も無事に会えたみたいだな。
後は……。
[狭間からの声に耳を傾け頷いて。
風の吹いてくる方、今は水平線の向こうに視線を走らせると]
これで還れるかな。
[響く鐘の音は12回。
その間に六花と顔を見合わせられたかどうか。グルリと世界が回り始める]
……おい、ウサ公。
お前も忘れ物してくなよ。
[揺れるような感覚に目を瞑る前、チラリと見えた兎に左手を伸ばす。
飛び出したナニカは銀の光の尾を曳いて、本来の持ち主、兎の元へ。
フゥと息を吐き瞼を閉じた]
[カチカチと左手の腕時計が時を刻む。
秒針も短針も長針も。いつものように動き出す]
……ただいま。
[目を閉じたままでの呟き声は風がヒュルリとどこかへ運ぶ。
見つけた「忘れ物」をしっかり持って「現在(いま)」を歩くために。
瞼を上げて、次の一歩を踏み出した**]
― 青海亭 ―
お邪魔します。
[客なのに、そんな言葉を出してしまったのは、六花が店の人達と親しそうにしていたからか。
家に戻れる限りは自炊の癖があったので、この店に入るのは初めてのことだった]
ああ、お疲れ様。
予想外も多くて大変だったと思うけど。
ファンも増えたようだし、良かったな。
[必然的にギャラリーの客も増えていた。
商談に直接結びつくかどうかは問題でない。そうした縁の広がりの方が大切になる店だ]
じゃ、まずは今日一日に、乾杯。
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