(たぷん)
(とぷん)
[ふと気が付くと、先ほどまでマシロがいた宿泊施設とは
全く別の――どこか分からない暗闇の中]
……ここはどこだ?
(ぴちゃ)
(ぱちゃ)
[足元で、水面が揺れる]
ああ、そうか。私は―――
死んでたんだっけ。
人間って、結構あっけないもんだよね。
[誰にともなく呟いて、そのときのことを思い出す]
[水面の揺れる音に、ふと我にかえる]
あ、あれ?オレ何やってんだ?
[繋がらない記憶に戸惑って辺りを見回したけれど、不思議と怖くはなかった。あるべき場所に帰ってきたような安堵感を覚えた]
誰かいるのか?
[闇に向かって問い掛ける]
ああ、あれだ。
……あんな自販機も{1}個しかないような村で交通事故っていうのも微妙だよね。
……短かったな。
(たぷり)
(ぱしゃん)
[波紋を作りながら、水の中を進む]
[水の音しか響かなかった空間に聞こえた、人の声。
それに気づいて人影を探す]
……あれ、ギンスイ?
ギンスイも、こっち来てたのか。
[ギンスイといくつかの言葉を交わしたであろう後で]
とりあえず、私らの目的地まではまだ遠いみたいだからな。
もう少し、歩こう。
[再び歩き始める――*自分たちが在るべき場所へ帰るために*]
[闇の中から現れた見知った人影を認めると]
木下か……。
こっちって、どういう意味なんだ?
何かまだオレ……。
[言葉を続けようとした時、不意に、唐突に、記憶が繋がった]
あ?え?
……そうか。
オレ……死んでたんだっけ……。
何で……死んだんだっけ。
木下は?
[「交通事故だよ」と答える彼女の言葉に]
奇遇じゃん。
オレもー……。って、え?
それって、バス乗ってたんじゃねえ?
[新聞の片隅を賑わせたであろう、片田舎でのバスの事故。死傷者は合わせて……]
お前も同じバスに乗ってた気がするんだよな。
あと……あのサングラスのイギリス人も。
それから……。
[他にも見知った顔があったような。そういえばアンも乗っていただろうか?考えようとするが記憶は曖昧だ]
まぁ良いか。
とりあえず、わかってる事は、ここはオレ達が長居して良い場所じゃないって事だよな。
[マシロと言葉を交わしつつ、在るべき場所へと向かいながら。あちら側に残して来た人たちを思った]
[水面の向こう側。誰かが泣いている気がして手を伸ばす]
何?何で泣いてんの?
[思わず伸ばした手が、一体誰を慰めるためのものだったのか自分自身にもわからなかったけれど。懐かしくて柔らかな感触が手の平に甦える]
泣くなよ、な。
[呟くと、その感覚を確かめるように、手を*握りしめた*]
確かに――望まない死ではあったけどね。
だけど……うん、どうなんだろうな。
……例えば、私が死んだら生き返らせるのを繰り返して。
私が「死にたい」って言ったらどうなんだろう。
……死んだって、変わらないさ。
私は、私。
ただ、暫くの間、会えなくなるだけ。
[そういうと、自分がこれから遠い国にでも行くかのように思えてきた]
どうなる、のかねえ……。
穏やか、か。
正直、これは死なないと分からない気持ちなんじゃないかな。
私も死んでなかったら「生きていて欲しい」とかって
言ったと思うんだよ。
[マシロの穏やかな様子に頷きながら]
だよなぁ。
案外、静かな気持ちだよな。
[心を乱されるのは、残してきた人たちの悲しみの気持ちが伝わってくるからで]
引き止められると、このままいくのは辛い。
なぁ?木下。
そうだな……。
普通だったら、今までの私だったら。
もっと、もっと足掻いてただろうね。
クルミの力にも、何の疑問もなく頼ってたんだろうな……。
[小さく呟き、溜息をつく]
今みたいに、引き止められるのは……辛い。
みんなが悲しんでいるのが分かってしまうからな……。
ヌイだってモミジだって、私らに死んでて欲しいわけじゃないだろうし。
「これは私らが選んだ道なんだ」って言えば納得してもらえるのかね?
ここには、悪い奴なんていないさ。
みんないい奴ばかりだ。
ただ、予想外の力を持っていて、ちょっと人より淋しがり屋なだけでな。
[ヨシアキやヌイの言葉には、シンプルに返す]
そういえば。レン……。
[泣いていた悲しい魂を思い出す。多分、あちら側にとても大切なものを残してきてしまったのだろうな……と思って]
あれ?てことは、オレ、相当薄情かも。
ごめんな。父さん母さん。それから……。
[と、向こう側に思いを馳せて。マシロの言葉>>+16に]
うん。そうだな。
オレ達、多分、笑顔でおくってもらった方が幸せだよな。
随分勝手な言い分だけど。
[これが、あちら側とこちら側に別れてしまった存在の違いなのだろうか]