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―砂塵の街―
…ああ、
[喩えた『檻』にか呼ばれた名にか、
旧友の頬へ触れたままに浅く応える。
彼へ俯く軽業師は、
尖らせた舌先を僅か覗かせて…どろり。
黒く灼けた、コールタールのひと雫を
マティウスの頬へ向けて垂らす―――*]
―砂塵の街―
[粘りつく黒の雫は、
マティウスの頬の上から容易に垂れ落ちず。
拭いもしない彼の様子に、男は憮然として]
お前が生きてる ッてことは うん
あれもまだ… か
[実験体たる彼の首へ二重に残る吊縄の痕に
五指の爪を立て――みちりと喰い込ませた。]
…切るんじゃなかった、
お前の縄を
[軽業師の指下で、マティアスの動脈が蠢く。
爪の間へ血が染むほどに掴めば鼓動が混ざる。
己が指の骨が軋む。彼我の境が曖昧になる。]
いつから、彷徨ってた…?
[抵抗の無さは男の意に介するところでなく。
やがて――其処からみじかく濡れた音がして、
軽業師の五指が、旧友の首の皮膚を破り
第一関節までぐじゅりと深く潜り込む。]
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