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[小屋の中へも、内へも舞い上がる乾いた雪煙。
いつの間にか窓辺に配していた狼たちが寄り添う。
もうもうと立ち込めるそれがやがて晴れる頃には]
…… そんな閉めかたが、あるか…
[埋まった入口。――遣い手は、低く喉奥で唸る。
アルマウェルは、倒れ伏す態で、重い雪と瓦礫と
赤茶色の狼の死骸とに埋まり…僅か、刃握る儘の
片腕と、胸元から上だけが積雪から覗いていた。]
/*
いろんな意味で間を取りました。
且つ、まぞい。<使者状態確定
どうかな。だめかな。
村勝利でなくていいの…?
芽は残しておきたい…
ツケとやらは溜まる一方らしいが…
癒せぬかね?
[遣い手は使者が入口を踏越えた瞬間に襲わせようと
薬草籠の間に隠し伏せていた狼を立ち上がらせる。
ゆるゆると息を吐きながら、求道者を見遣り―――]
探すもせなんだからには、
まじない師が誰だったかなど、とんと判らんが…
あんたが学究の徒に見える、のは今でもだ。
少なくとも、あたしらには未知の病…
[雪煙が室内を撫でた後であれば、灯した火も
消えかけで。しろい呼気を吐いて遣い手は言う]
街から医師を呼べば、その次は役人が来る。
学者が来るぞ。薬屋も来るな。
流行り病となると、しばらくは
遊牧の商いも成り立つまい――
ずるずると、
やってくるのは文明の波となるわけだ。
ウルスラ先生は、望みだったのだがね。
気づいてくれるかもしれなかった、病の件に。
その可能性が、長老さまのまじないに拾われて
…生き残れなかった…。
[なぎ払うごとき刃を振るうアルマウェルへと、鋭い爪を立てる狼が雪と瓦礫の下敷きになっていくのに、咄嗟に踏み出しかけた足を慌てて床から離す。ギヂギヂギギギィ…―――崩れかけの小屋は恨みがましく軋む音を緩めるも、ぱらぱらと天井から砂埃が降った]
…すみません。
[下敷きになる狼へか諸共倒れたアルマウェルへなのか、小言を口にするトゥーリッキへか。誰に対してなのか小さく侘びを零すも、眼差しは雪煙の収まりはじめた入り口から離れない。
キィ…―――入り口へ向かう歩みはなく、車椅子が軋む音を立て寄れば、身を乗り出し雪に埋もれるアルマウェルの腕を掴んだ。力を入れて引けども踏ん張りの利かぬ車椅子の上では、彼の身を引きずり出すには至らない]
言ったじゃないですか。
僕に出来る事は、少ないんです。
ここにある薬で今すぐ僕に出来るのは時間稼ぎだけでしょう。
…でも文明の波が何ですか。
どんなに残酷だろうと時は流れます。
それでも…―――
どういきるか選ぶのは自分です。
[車椅子から身を乗り出し、力を籠めてぐいぐいとアルマウェルの腕を引くも、地に足をつける事はしない。茶の入ったカップはいつしか床に転がり、薄汚れた床を更に黒ずませて、彼の腕を掴んだまま勢いよく振り返りトゥーリッキを顧みた]
…―――、…手伝ってください。
病に冒された人を癒すなら彼の力が必要です。
…ひとにとっては、必ずしも
滅びではないのだろうけれどな。
けものには、違う。
流れ流れて辿り着いたあたしには、違う。
[――窓外に、ちらちらと松明の灯りが過ぎる。]
[松明を持つ村人たちの様子に、凍る湖上の祭壇へ
ドロテアを捧げた折のような躊躇いは窺えない。
おおかみの届かぬ屋根に上った村人たちが、
狼遣いを小屋諸共焼こうと火矢を用意し始める]
…
ああ。
長老さまは…「癒す」おつもりのようだな。
…
あんたが「変わらない」と言ったのは、
レイヨ。
変われないことへの方便だったのだな。
[手伝いを求める求道者へはそう言い落とす。
埋まる者へ歩を寄せると、ぎ…と床が軋む。]
…。では、選んだままに。
せめて、けものの性で。
儘にあじわって―――愉しむ、さ。
…彼女なら何かしてくれたかも知れません。
貴方が狼に村を襲わせる理由が病なら…
望みと評する彼女だけでも全て告げればよかったんだ。
確かに彼女はここにいる彼に殺されました。
でもそれは貴方が…
口を開かなかったからでもあると思います。
その術を僕よりずっと貴方は握っていた。
[窓の外に見える焔の揺らめきは松明だけでないけれど、寒さを凌ぐのにやっと用を足すだけの崩れかけの小屋は、人の力に抗う術を持たない。獣の滅びを想えど眼差しは狼にも白蛇にも移らず、眼前にある群れの頭角を捉えるまま]
飼い馴らされるのと…
獣にはどちらがマシなんでしょう。
[煽動される狼に対してだけでなくぽつり呟いて、零した呼気は隠し切れぬ想いに微か震える。トゥーリッキの言葉に面持ちを違える事はなく、引き出せぬアルマウェルの腕をまた引いた]
…どう受け取られるも受け手次第です。
僕はその前言を訂正はしません。
[トゥーリッキの言葉を前面から否定せずも、容れず答える声は静か。軋む床は抜けず、引く腕に添えられる手はあるだろうか]
………結局は、貴方から奪わせてしまう…
わざわいの先触れたる我らが潰えるなら、
そののちの「望み」…そういう意味だ。
けものの理にひとの理でもって
つきあってくれる必要はないよ、若先生。
[抱いた望みの小ささ故に、遣い手は話を切る。
確かめることが出来るのは重ならぬ性(さが)ばかり]
歩まぬレイヨ、と呼ぶ訳を
言ってしまわねばならんかね?
[車椅子の脇をやわらかく踏んで進み出るのは、
遣い手の傍らへ添っていた一際大柄のおおかみ。
半ば生き埋めとなったアルマウェルの乱れ髪を、
襟元をすこしの間くんくんと嗅いで――――
ぞぶり。
アルマウェルの肩口へと牙を深々うずめた。]
…引け
[本来ならば、告げる必要も無い下知は短い。]
引っ張り出して、生きていたなら
手伝ったことになるのだろうよ。
[瓦礫混じりの雪のなか、使者の全身は果たして
如何なる状態だったか。引出す力は*容赦ない*]
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