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[昨日は夜遅くにここに来たというのに、家政婦さん(後で台帳を見たらエビコさんというらしい)は嫌な顔一つ見せずお夜食を作ってくれた。]
寒い日のうどんって美味しぃ。ありがとう。
[わたしは彼女に礼を述べ、食べ終わった食器を片し手渡された鍵と薪を持って借家へと向かった。
じわじわと暖まる部屋に眠気はすぐに訪れて。そのままわたしは夢の中へ落ちていった。]
おはようございます。
[枕が替わるとあまり深く眠れない。まだ何処か眠かったけど、わたしは管理棟に準備された朝食を頂く事にした。]
[席に着くと昨日管理棟に入る前にすれ違った人が居たので、軽い自己紹介をする。取材許可を取りながら。]
ふぅおなかいっぱい。美味しかった。ご馳走様でした。
[綺麗に並べられた朝食はどれも美味しくて。いつもより少し食べ過ぎてしまったかも知れない。そんな事を気にしながら、わたしは席を立ち、その足でお風呂を借りる事にした。]
風に踊るひとひらの音 ちりりん ちりりん鳴り響く
それは鈴の音 いつ聞いた?
それは"わたし"が目覚める前に――
風に踊るひとひらの花 ひらり ひらりと宙を舞う
それはさくら いつ舞うの?
それは"わたし"が目覚めた時に――
[お風呂から上がると、入浴待ちの人が居て。わたしはペコリと頭を下げ短い挨拶を交わす。
どうやらその人はロッカさんというらしく、とても可愛らしい人だった。]
ここには色んな人が居るのね。
[辺りを探索しながらわたしはふぅっと息を吐く。外気に触れたそれは真っ白に染まりやがて消えていく。
寒さに空を見上げれば、ひらひらと雪が。
わたしは身体が冷えないようにと慌てて管理棟へと走った。]
た…ただいまぁ!
ふわぁ!寒いっ!てかここは温かいっ!
エビコさんおなか減ったよ〜!ぺこぺこだよぅ!
[管理棟に入るなり見かけたエビコさんに、わたしは夕飯をねだりながら、その場に居た人たちに気付き]
えーと、あなた達もこの村にやってきた人なんですか?
初めまして!わたしナオって言います。がっこのレポート絡みでここに来ました。よろしくです!
[ぶんっと頭を下げて自己紹介をした。]
[雪が舞う。ひらりひらりと。
さくらが呼ぶ。目を覚ましなさいと。
そして視界は明るくなる――]
目…醒めちゃった。折角気持ちよく寝てたのに…。
さくらが騒ぐから…。目が醒めちゃったの。
[まだ見慣れない風景に、私は一つ伸びをして欠伸をかみ殺す。
ふいに込み上げてくる渇望にくすりと笑みをこぼして。]
[ヌイさんの声が聞こえる。わたしはそちらにも顔を向けて]
ただいまです!雪すごかったですよー!でも気合で何とか走り抜けてきました!
[ほぼ同時に入ってきた男の人に同意を求めるように微笑みかけて。]
そういえばヌイさんは、今日も絵を描いていらっしゃったんですか?
[と、持っているスケッチブックを覗いたけど。そこに描かれていたうどんにはどう反応していいか解らなかった]
[と、思ったけれど。良く見ると普通の人。もしかしてここにくる途中に「オムラァァァァァイス!」と叫んだ人かな?とか。]
初めまして…わたし、ナオって言います。薬屋さん…
[でももしかしたら雪男かも知れないので、様子を伺いつつ一応わたしも自己紹介。]
[ドアが無理矢理こじ開けられる様に、ついにわたしの人生もこれで終わりだとか思って]
うぅ!わたしの人生悔いばかり!
[ぱたりと床に倒れこむが。どうやら入ってきた人もこの場所に来た人らしい。わたしはほっと胸を撫で下ろした反動で、その人に挨拶をするのを忘れて、台所へ食器を片しに*ダッシュ*]
[結局わたしは食器を片付けた後、管理棟で夜を過ごした。
そして朝。なれない姿勢で眠った為か少しだけ痛む身体を引き摺りながら囲炉裏のある場所へと向かう。
そこにはお茶を飲みながら談笑するロッカさんとエビコさんの姿が。]
おはようござま…ぁふぁ…ってすみません、はしたなくて。
[挨拶しようとした最中に欠伸が出てしまい、わたしは慌てて二人に頭を下げた。]
[二人が談笑しているのをちらりと視界に入れながら辺りを見渡すと、入り口付近にある棚に本が並んであるのを見つける。]
あ…これレポートの資料にならないかなぁ?
[背表紙に書かれた文字に誘われるように、わたしは一冊の本を手に取る。]
[その本に吸い込まれるように意識を奪われていた時間はどれ位だろう。わたしはふと視線を上げ、辺りを見渡した。外は吹雪のまま止まない。でもわたしの手元には春が広がっている。]
ここにはこんな綺麗な桜が有るんですねぇ。見てみたいなぁ。さくら――
[と、独り言を口にするけど。わたしは村に伝わる人狼という恐怖の伝承に心奪われていた。風の声が遠吠えに聞こえるだなんて…。恐ろしい事。
急に冷えた背筋に竦むと、丁度外に出て行く薬屋さんの姿が見えた。]
てか、こんな吹雪なら借家に居るよりここに居た方が良いのかな…。
何だか管理人さんも…まだ帰ってきてないみたいだし。
[辺りを見渡し、居る人に挨拶をして。凍り付いていそうな井戸で顔をバシャバシャと洗う薬屋さんは、やっぱり雪男じゃなかろうかと思いながら、わたしは仮住まいにおいてきた荷物を思う。あそこにはレポート用紙など必要な物がおいてある。]
わたしも…取りに行かなきゃ…荷物。
[気に掛けてくれるヌイに、わたしは感謝の言葉を掛け]
ん、大丈夫だと思います。薬屋さんだって吹雪の中、雄叫びを上げながら顔を洗っている位ですし。もうちょっと経ったら取りに行きます。
管理人さんは…隣村に行かれてしまったんでしょうかね?
[本に載っていたさくらを見た途端、ナオは自分の身体が急に熱くなるのを感じた。]
「な…に…?なんだろう?この感覚…。喉が…渇くんだけど…」
[急激に枯渇する口内を潤そうと、ナオは何度も唾液を嚥下する。しかし乾きは一向に止まない。
と、その時自身の内側から知らない女性の声が聞こえた。ナオはその声に怯えながらも、静かに問い掛ける]
「ねぇ、あなたは誰なの?」
[内なる声は告げる。]
私は"あなた"よ?ナオ…。
あなたが私を目覚めさせたの…。このさくらの咲く地に来てしまったから。
だから、あなたにはわたしの渇きを潤す役目があるの?お分かり?
今からあなたはその姿で人の目を欺いて、"私達"に一晩に一人ずつ贄を差し出さなければならないわ。目覚めさせてしまった代償に。村の伝承に従って――
[にたりと口嗤う声に、ナオは抵抗の声すら上げられない。]
「代償って…まさか、あなたはっ…」
[先程目を奪われた本の内容を、ナオは思い出す。風の声が聞こえると、村人の身体が切り刻まれる。それはいつしか獣の名前として人々に言い伝えられたという。
その名は――]
「じん…ろう?」
ふふっ、ご名答。そうよ。私は人狼。人の恐怖を好み喰らう者。そしてあなたに宿りしものよ?あははっ!
あなたも不運よねぇ?学校のレポートなのか知らないけど、こんな場所を選んだ為に――あははっ!
[頭に響く高笑い。ナオは泣きそうになりながら俯く。]
「わたしは…あなたの命に従わなきゃいけないの?」
[縋るように自身に問い掛けた言葉は、あっさりと一蹴される。自身の呪われた身体に、ナオは唇を噛んだ。]
あぁ、そうそう。間違っても自殺とかしようって考えるんじゃないよ?人狼ってのはわたし一人だけじゃないんだから。あんたが死んでも他の奴が狩をする。だからあんたが死んでも解決にはならない。ククッ…
[ナオの思考を見透かしたように、内なる声は指摘する。どうする事もできない自分に歯痒さを感じながら。]
さぁて、あんたとお喋りするのはこれでお終い。
今からあんたの身体は私が乗っ取らせてもらうよ?アハハハハっ!
あんたの意識を残しておいて、折角の獲物を取り逃がしたくはないからね?ふふふっ…
[囁かれる声に、ナオは必死で抵抗するも霞む意識に成す術はなく。ただ最後に呟いたのはもう一人の仲間を問う言葉。]
知ってどうするのか解らないけど、でも答えてあげる。
もう一人の仲間はね、今、あなたの目の前に…
[そう言って近くに居たヌイの姿を指差す。]
いる人よ?
[果してナオの目にその姿は*見えただろうか?*]
[目が醒める。
ちりりん ちりりん 鈴の音が
ちりりん ちりりん わたしを呼ぶ。]
人と向かい合うときのわたしって…嫌い。
だって母さまみたいな醜い口調になるんだもの。
[程無くしてわたしは目を覚ます。乗っ取ったのは少女の身体。制服と呼ばれる着物は風を通し、少し寒い。]
あ。そう言えば男の子が"わたし"を待っていてくれているんだっけ。急がないと心配されちゃって…近付かれたらわたし…きっと渇きを癒さずにはいられない。
[そう呟いて。わたしはすぐさま否定するように首を振る。]
だめ…。彼は今は【まだ】だめ…。
もう少し見定めてからじゃないと…だめ――
[わたしは自分に言い聞かせるように呟いて。近くにあった防寒着を来て外に向かう。
立ち去り際、視線が合った"彼"を一瞬だけ見つめて――]
… … … …――
[口許から零れたのは笑み?それとも新たな*狩の合図*?]
[奥に行って防寒着を借り、そして呼びに来てくれたヨシアキくんとわたしは吹雪の中を歩き、お互いの借家へと急ぐ。]
あ、あったあった。よかったぁ無事で。
[風に煽られながらも何とか中に入って荷物をもつ。
持ってきた荷物は大した物はない。それを小脇に抱えて再びナオユキくんと管理棟を目指す。]
ねぇ…さくらの木って…ううん、なんでもない
[途中吹雪の中、わたしは本の中に出てきたさくらについて彼に尋ねようとしたかも知れない。]
[気が付くと、わたしは管理棟の中に居た。温かい空気と優しい布団の感触にゆっくりと目を開け辺りを見渡す。そして記憶を反芻する。ヨシアキくんとさくらの話をしようとして…強い突風に見舞われて…]
はぐれちゃった…。っ!ヨシアキくんは!!
[わたしは勢いよく布団から起き上がって叫ぶ。傍にいてくれたホズミさんがわたしの声で驚く。]
あ…ごめんなさいホズミさん、びっくりさせちゃったりして…。あのっ…ヨシアキくんは…?
[勢いよく起き上がった所為か、頭がふらふらする。それに何だか熱っぽいような気が。
でもわたしはヨシアキくんの安否が気になり、ホズミさんに問い詰めるように尋ねていた。]
[遠慮がちに頷いていると、ホズミさんが見るに見かねて着替えを手伝ってくれた。
わたしはあっという間にパジャマ姿になり、当のホズミさんは脱いだ服を畳んでくれている]
ありがとう…ホズミさん。
[わたしは礼を言うのが精一杯で。ぽふりと布団に身を沈めた]
[ホズミさんに頭をなでられていると、入り口からヨシアキくんの声が聞こえた。]
あ、はい。大丈夫…です。どうぞ?
[返事をしたけど、気恥ずかしさと申し訳無い気持ちで、わたしは布団をぎゅっと上に上げた。]
[静かに入ってくるヨシアキくんに、わたしは申し訳ない気持ちでいっぱいになり]
ううん、気にしないで?
わたしのほうこそ…ごめん。はぐれちゃったりして。
ヨシアキくんはその…大丈夫だった?熱とか…上がってない?
[何とか起き上がった身体で、彼を心配そうに見つめた。]
[慌てて出て行くヨシアキくんに、ますますわたしは申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら]
うん、ありがとう。ヨシアキくん。
あなたもゆっくり休んで?
[彼の後姿を静かに見送って。横になるホズミさんには]
風邪、引かないようにしてくださいね?
[声を掛けてわたしも眠りに*落ちた*]
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