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なにモジモジしてんだよ………ラブラブじゃねぇっての。
ラブラブになれるもんならなりたいぞ!
[ちょっとだけ力のこもった台詞だった。]
お前何してんだよこんなとこで。
休みなんだから、遊びにいかねーの?
ゆき………?
[イマリの声に、空を見上げたら。ちらりちらり、小さな白い妖精達の姿。ああ、そうなんだな。]
サヨナラ………ね。
楽しかったぜ、本当に。
[そう呟いて、ふと目を伏せた]
昔、ある奴が言ってたんだよ。
[ロマンチックだと言われたら、ふるふる首を振って]
おう、甘い物好きじゃなきゃケーキなんか食うもんか。
[それだって、あいつがケーキ好きだったから]
うん、ありがと。
[心配してくれた美夏ちゃんに、小さく微笑み。ロングコートを着ていたから、それを脱いで投げ渡し]
風邪ひくとまずいし。着てな?
[そして、爆笑するイマリに向き直る]
やる。やるから、笑うのをやめろ。はずいべ。
物真似してんじゃねぇ!
あぁ、俺のクールなイメージが壊れていく……
[頭をかかえつつ]
昔はな、こんな奴だった。
去年からだ、俺が黙ったのは。
美夏ちゃんといると、昔に戻るような感じだ。
嬉しいのか悲しいのか………
健気じゃねぇっ!ちくしょー……
いつか復讐してやっからなぁ………
[イマリに恨み言を言っていたら、美夏ちゃんにマフラーをまかれた。それは、やっぱり暖かかったから。]
さんきゅ、借りとく。
[そう言って、にこりと笑った]
なんだイマリ!そんなにおかしいか!
[つっこんでいると、ズイハラさんの声がして]
あれ、ズイハラさん………?
[キョロキョロ、あたりを見回して]
[美夏ちゃんが微笑んでくれたから。俺は頭をかいて、笑ったと思う。なんだろう、自分でもよくわからない。不思議な感覚なんだ、この感じが。]
ごめん、いつか言う。
い、いや……なんでもないっす……
俺、疲れてんのかな?あはは………
[言葉にできるわけ、ないじゃないか。お前はもう死んでるんだなんて。言えるわけないじゃないか。]
そうだな。少し、積もるといいな。
[イマリには、遠くを見ながらそう答えて。ひゅぅと吹き抜けた風は、俺の髪を撫でていって。靡く短めの髪が、少しだけくすぐったかった。]
お、じゃぁ飯一緒に行く?
[同意してくれた美夏ちゃんに、そう聞いてみて]
あぁ、勝ったからおごり。
[クスクス、美夏ちゃんに微笑んで。彼女とは、なんだか一緒にいたいんだ。なんだか、楽しいんだ。麻雀以外で楽しいのって、凄く久しぶりなんだ。]
何くいたい?好きなもんとかある?
ズイハラさん、何一人で悶えてんすか?
[葛藤する彼を眺めつつ]
オムライスかー!
黄色いふわふわの………ごほごほ。
[黄色で昨日の事を思い出したらしい]
おう、またなイマリ。
[去っていくイマリに軽く右手をあげて挨拶。]
ズイハラさん?
俺ら今から飯行きますけど、ご一緒にどうっすか?
[一応誘ってみる]
う、うまくやれって………そんなんじゃないっすよ!
[去っていくズイハラさんを見ながら、美夏ちゃんに行こうかと声をかけた。時間も時間だから、人とすれ違わなかったのは気にもしなかったけれど。]
さみぃー。美夏ちゃん大丈夫?
[などと、たまに心配しながら歩いていく]
[店についても、人がいない事など気にせずに席について。メニューも特に見ることなく、厨房に向かって]
オムライス2つよろしくー。
[と声をかける。しばらくは、美夏ちゃんとの会話を楽しんだろうか。しばらくすると、一人の少女がオムライスを運んでやって来た。何故か高校の制服で、俺は不審に思い顔をあげた。]
………アン……ちゃん?
あれ………俺おかしくなったかな。
すんません、知り合いに似てたもんで。
[それにしても似ている。おかしい。ここはおかしい。音がしないんだ。厨房からも、外からも、音がしないんだ。]
[どうしたのかと、美夏ちゃんは聞いたろうか。俺は、なんでもないと答えるだろう。それでも、ここはおかしいと思ったから。オムライスを食べ終わったなら、勘定を少し多目にテーブルに置いて]
すいません、勘定ここに置きます。
美夏ちゃん、出よう。なんか変だ。
[そう言って、彼女を連れ出した。街を見た。車の一台も通らない。コンビニを覗いた。店員すらも見当たらない。おかしい、おかしい、おかしい。]
美夏ちゃん、おかしいよ。人がいないんだ。
一回、家に帰ってみて?親とかいるか、確認してよ。
なんかあったら、すぐメールして。
俺、ぶっ飛んで行くから。
[美夏ちゃんと別れて、俺は走っていた。あり得ないんだ。言い様のない胸騒ぎがするんだ。]
―自宅―
おとん!いるか!?
[ばんっとドアを開けた。しんと静まり返った家の中。どこを探しても、父親の姿はなかった。母親はいない。外に男を作って、俺が中学の頃出ていった。今日はたまたま帰らなかっただけなのか?それとも………]
……………
[俺は、しばらく美夏ちゃんからのメールを待っていた*]
やっぱり、なんかあるんだ………
親父、生きてんのかなぁ………
美夏ちゃん、大丈夫かなぁ………
[頭に響く、不思議な声。それはきっと、あの人の]
………ズイハラさん………
[気がついたら、眠っていたらしい。着信メールを確認していると、俺はおかしなメールを見つけた。]
11/1 MON
差出人 アン
件名 わかるでしょ?
内容
もういないのよ。
誰も、いないのよ。
[意味がわからなくて、俺は外に出た。やはりそこには誰もいなくて。孤独、その為だけにあるような世界。そこに、俺は言い様のない不安と、小さな安心を感じていた。]
「誰もいないのよ。」
[不意に聞こえた声に振り返れば、そこには昨日の少女………アンが立っていて。美しいはずの黒髪は、何故かとても恐ろしくて。見慣れたはずの制服が、何故かとても異様に見えて。]
アン………お前、なんでここに………
[俺の質問には答えず、彼女はこの世界の事を語る。消えた人々、死者の思い、帰る方法。そして、自分はこの世界に長くいられないという事。一方的に俺にそれを伝えると、黒髪の少女はくるりと背を向けた。]
「サヨナラ、ジュンタ」
[何度も聞いたサヨナラは、何故か心に刺さった。]
待て、アン!もう少し話を!
[彼女は表情すら変えず、消え入るように去っていった。]
[日はまだ高い。俺は学校に行っていた。下駄箱に収まった上靴達に温もりはなく。職員室にも人影はない。いつも、休みだと言うのに青春してる野球部の叫びも。体育館からいつも聞こえるはずのバスケ部の声も。テニスコートで和気藹々としていたテニス部の黄色い声援も。そこにはない。]
なんなんだよ………なんなんだよここは!
[久しぶりに着た制服は、誰に見られるわけでもなく。珍しく履いた上靴は、誰もいない廊下に足音を響かせるだけで。]
「まだ信じられないの?」
[何処からか聞こえたその声に、俺は振り返る。すぐ横にあった理科室の中で、たたずむ一人の女生徒がいた。長い黒髪のその人は、何故かとても異様な雰囲気がした。]
「私のいう事、まだ信じられないの?ジュンタ。」
[雪は、ちらちらと降り積もる。冬に広がるその空は、灰色の雲に覆われていた。葉を失った木々が寒そうに、その枝を擦り会わせる音がした。]
アン………なんでお前はここにいる………?
「私はいつも、ここにいる。貴方を見てる。」
嘘だ、お前は俺を見ていなかった!
「いいえ、見ていた。ずっと、見ていたよ?」
なら……ならなんで!どうして!
俺はこんな一年を送らなきゃいけなかったんだ?
俺は、俺は………!
[彼女の瞳は、とても悲しそうに見えて。ふいに、言葉を失ってしまうのだけど。それでも、俺は彼女に。久しぶりに会えた彼女に。伝えたくて、伝えられなかった言葉があり。]
アン……俺は………ずっと…………
[その言葉を紡ごうとした時、ふっと美夏の顔が頭をよぎり。]
「なぁに?ジュンタ」
[不思議そうに俺を見る女生徒に、小さく舌打ちをして。信じられないのは、自分自身だ。知り合ってたった2日。そんな女の顔が、こんな時にまで頭をよぎるなんて。]
なんでも………ない。
[そう、俺はもう失ったんだ。今さら何が取り戻せる?]
「そう………サヨナラ、ジュンタ。」
[泣きたくなる。サヨナラの言葉を聞くたびに、俺の心は縛られていく。凍りついていくんだ。自分自身の足を、一度強く殴ってみて。痛みから我に帰り顔を上げれば、もうそこに彼女の姿はなかったと思う。]
―学校・理科室―
[誰もいない学校で、俺は女を探していた。一人は先ほどいなくなったアン。もう一人は………]
ち、昼過ぎじゃ、もういねぇかなぁ。
[一休み、と理科室の机に寝転んだ。]
[誰もいない理科室。冬の訪れは、全てを凍らせてしまうのだろうか。凍りついたように静かな、平日の学園。外に吹く木枯らしが、がんがんと窓を叩いている。鳥の声すらも聞こえなくて、望まずして訪れた静寂。まさにそうだ、世界は凍っているのだ。]
氷付けの世界………ね。
俺にはお似合いの世界なのかもしれねぇな。
[少し古い歌の着信音が鳴っている。美夏ちゃんからのメールが届いたようだ。内容を確認して、クラス中の人間と美夏ちゃんにメールを一斉送信した。]
11/1 SUN
宛先 美夏ちゃん 和志 イマリ 武志………
件名 緊急連絡
内容
誰がいる?いる奴は連絡してくれ。
会いに行きたい。
[届かない気持ちがある。忘れられない想いがある。新しい心がある。返信があるまで、俺は何も考えず寝転んだまま。]
降り積もる白い雪は心模様………そっと………
滔々と白い雪は………無情なる人の世を………
全て許すように降り続いて行く………
[着信音を口ずさんでいた。]
宛先 美夏ちゃん
件名 多分本当だと思う
内容
俺今学校にいるんだけど、誰もいねぇんだわ。
イマリとズイハラさんは、昨日一緒だったよな?
だからあの二人はいると思うんだー。
他、誰かいないのかな?四人だけの世界?(笑)
[ぱちり、携帯を閉じれば思い出される昨日の事。]
アンが言うには、死者がいるって………
多分、ズイハラさんだよな?
………止まった時………でも、俺には関係ない。
どぉせ俺は氷なんだ。溶けない氷なんだから。
[そう思っているのに。暖かいなにかが、俺を溶かしていく。]
宛先 美夏ちゃん
件名 寝坊助さんへ(笑)
内容
四人だけって事もないだろうけどね。
誰がいるかの見当はつかねぇ。
おぉ、学校にいるよ?
美夏ちゃんいるかなーと思って来てみた(笑)
待ってるから、おいでよー。一人の学校はこぇーよー
[頭をぐいっと押されたら、ぴょこっと起き上がり]
さっきまではいたぜ。アンが。
[と、美夏ちゃんの方を見た。マシロがいたなら]
あれ?マシロもいたんだ?
[などと声をかけるだろう]
あぁ、残念だよ本当に。
これじゃ、単位もらえそうにないしな?
[肩をすくめてみて、アンの事を聞かれたら]
………消えた。
[と、ただそれだけ。]
あんた誰よって言われてもなぁ。
国本隼太、高3。
前回の期末テストの順位、お隣さんだったじゃん。
[まぁ、覚えてなくても構わないけれど。]
ちょっと目離したら、いなくなってた。
聞きたいこととか、あったのに。
[彼女から紡がれたサヨナラが、未だに耳から離れなくて]
ちぇ、優等生は人との話し方を知らないと見える。
人の顔と名前くらい、一目で覚えろよな。
[はぁ、とマシロにはため息をついて。]
そうそう、昨日の店の奴に似てた女の子。
学校には………いるかな?今日二回、会ったけど。
学校と、家の前で。
[ふう、とため息をついて。]
はいはい、サブアドねー。
優等生は携帯依存症なわけ?
[ぶつぶつ言いながら、携帯にアドレスを打ち込む。]
あぁん?人を覚える必要がないって?
お前、悲しい奴だな。
人間、人脈が一番の財産だぜ?
お前、いい女なのに勿体ない。
そんなんだからモテないんだ。
[ばっかじゃないの?と聞こえたから、きっと肩をすくめたに違いない。なんにせよ、マシロと別れた。]
[優等生が去った後、俺は美夏ちゃんと顔を見合わせた。]
これから、どうしよっか?
つか、美夏ちゃん。家に親とかいなかったんだろ?
飯とかどうすんの?
[外食しようにも、きっとレストランにも誰もいないんだ。]
俺料理なんてできねぇからさぁ、ピンチだぜー。
やっぱりかぁ………
誰もいない世界とはいえ、一人は不安だよなぁ。
いつもは誰かいる家に、一人きりって寂しくないか?
[美夏ちゃんを、少し心配してみて]
お、飯作れるんだ?食わせて食わせてー?
[藁にもすがる思い]
俺だって、美夏ちゃんのおかげで助かったよ。
さっきアンに会った時なんか………
いや、これは関係ないの話かな。
[軽くふるふると首を振って]
味の保証?んなもんいらねーよー。
女の子の手料理は、味とか二の次。
作ってくれたって事実が大切なのさ?
[あはは、と笑って]
そうだな………食材調達がてら、外に行ってみる?
それとも、二人きりの学校をもちっと満喫してみる?
そだな、学校デートはまたの機会にしますか。
[ひょいっと机から飛び降りて。]
さぁ、仲間探しの冒険へ出発しますか?お姫様?
[くすり笑って、手を差し出した]
―外―
[降り積もる雪は世界を白銀に変えて。吐く息は白く、風は冷たく。白い雪のキャンバスには、二人の足跡のみが描かれていく。それでも繋いだ手は暖かかったから、俺は微笑んでいられたんだと思うんだ。]
さみぃー……息、白いぜー?
雪合戦かぁー。やる?二人しかいねーけど?
[ひょいっと積もった雪を拾って、片手で玉にする。握られた手に力がこもるのを感じたら、優しく握り返すんだ。]
消えないよ、俺は。消えたりしないさ。
まだまだ、美夏ちゃんと一緒にいたいからな?
[にこり、微笑んで]
そうそう、消えない消えない。
世界は二人の為にある……ってのは言い過ぎだけど。
少なくとも、数人の為だけの世界だってのは確かさ。
[美夏ちゃんが投げた雪玉を見つめて]
おー、万引きし放題だな?
アクセサリーとか服とかただじゃん?
[おどけてみせる]
イマリはいるだろうけど……
マシロとズイハラさんとアン。
いまんとこ、俺達以外にいたのはこれだけ?
二人きりにちけぇよなぁ。こんな広い街にこれだけじゃ。
違う世界………か。三途の川だったりして?
[怖そうに、お化けの真似をしてみて]
可愛いネックレスかぁー。
今度買いに行こうか?
クリスマスにプレゼントしてやるよー?
そそ、行方不明なのは俺達!
[あはは、と笑って]
さぁ、ちゃんとクリスマス来るのかな?
でも、来たら買ってやるよ。
博打で稼いだ金で悪いけどな?
[おどけてみせるが、足跡を見れば]
……行ってみる?
あはは、来なかったら来なかったでいいじゃん。
ずっと遊べそうだぜ、この世界で。
………冗談はいいとして、コンビニに行くかぁ。
誰もいなくても、食材調達はできるだろうし。
[そう言って、歩き出してみる]
あ、ああ………話しておいた方がいいかな………?
アンに会ったろう?
あいつ、もうすぐいなくなるって言ってた。
サヨナラだって言ってた。
俺が、サヨナラって言葉嫌いなの知ってて。
サヨナラって、言いやがったんだ。
[くすり、笑ってみせたつもりなんだけど。悲しそうな顔をしていたのかも知れなくて。]
えへへ………案外、そうかもしれねぇよ?
[冗談のように、誤魔化してみたけれど。]
みんな……忘れていくんだよな………
死んだ人の名前も、顔も、声も。
俺は覚えてる。ずっと覚えてる。
引きずって生きていくって意味じゃない。
出会えて良かったよって、ありがとって。
ずっとずっと、覚えてるんだ。
[わざとらしく、空を見上げて。今顔を見られるのは、はずかしいから。見られるかもしれないけれど。]
美夏ちゃんは……代わりとかじゃねぇから。
それだけは、本当だから。
あはは、許されないのは嫌だからな。
代わりになんてできませーん。
[手をひかれて、コンビニまでやって来て。その間に、涙はおさまったと思うから。二人で中に入ったなら]
あれ、ズイハラさん………と、子供………
まさか、隠し子!?
[物陰に二人で隠れて、しばらく観察していたが]
……美夏ちゃん、行こうか?
親子水入らずを邪魔しちゃ悪いし……
[誤解したままこそこそと、その場を立ち去った。]
あー、腹減ったなぁ。美夏ちゃん、飯ー!
[彼女はどんな表情をしていただろうか。それでも、繋いだ手は離さなかったと思うから。たまに無言になりながらも、俺か美夏ちゃんの家に移動したと思う。]
―家―
[簡単な料理を作ってくれるらしい美夏ちゃんはキッチンへ。俺は出来上がるまでリビングで待機していた。テレビをつけても何もやっていないし、ラジオをつけても雑音が流れるだけ。だから、あったCDを適当にかけてみた。]
お、この曲なつかしー。
こーとーしーさーいしょのーゆーきーのーはーなをー…
[流れてくる曲をそのまま口ずさみ、昇る雪を眺める。思い出されるのは、去年の事。ない勇気を振り絞って誘った、対して見たくもない映画。待ち合わせの時間を過ぎても、彼女は来なかった。昼過ぎに待ち合わせる約束をして、気がついた時には既に夜。駅前のベンチで座っていたら、不意に彼女の声が聞こえた気がしたんだ。その時も確か、雪が降っていた。携帯の着メロがメールの到来を知らせて、俺はそれを見た。あいつからの、最後のメールは一言。『サヨナラ』次の日、事故の事を聞いた。彼女が病院で息を引き取ったのは、メールの着信時間だった。]
[ぶんぶん首を振って、嫌な思い出を払拭する。とんとん、キッチンからは小気味いい音がする。そうだ、俺は今それどころではないのだ。何もなくても緊張するシチュエーションに俺は今いるのだ。現実逃避してちゃダメだ!]
やべぇ、誰もいないってやべぇ………
無駄にあがる………
[着メロが鳴る。ウィンターホールだ。]
まぁっしろなーとぉきぃーにぃー……ってね。
イマリの奴、寝てたのか?
[ぴこっと電話に出てみる。]
よーっす。お前、寝てたのか?
こらこら、馬鹿はねぇべ?
本当は寂しかったんじゃねぇのぉー?
[けらけら、明るく笑ってみて]
変な女って………アンか?長い黒髪の?
そうか、あいつを覚えてるのは俺だけか。
[少し寂しかったけれど、すぐにもちなおした。]
ん、多分間違いない。俺の名前、知ってたし。
[はぁ、と深いため息をついて]
今日、学校にもいた。少し話したけど。
やっぱりあいつはアンだよ。
………お化けなんて、信じたくもねーけど。
あぁ、聞いた。死者の願いがどーのだろ?
死者って誰だよ。アンじゃねぇ誰かか?
どうやって探すんだよ。わけわかんねぇっての。
[気を使わせているのがわかっているから、余計に悲しい。]
お前、今日誰かにあったか?
俺は今日、四人見たぜ。
マシロとズイハラさんと美夏ちゃん。
あと子供が一人。
[軽い言葉を紡いでみるものの、やはり少し寂しいから]
なぁ、もしお前の………いや、なんでもねぇ。
[言いたい言葉が言えない自分。成長してない。]
あぁ、どうしようもない。
………でも、俺はあいつ信じてっけどな。
[それは、俺の未練。失った日々からでしかないが。]
あぁ、四人いる。俺等合わせて六人だな。
[ここにいる人間の話は、それだけにしておくつもりで。]
……もし、だ。
お前の大好きだった男がいきなりいなくなって。
やっと忘れかけた頃に、そいつが帰って来たら。
お前、どうする?
俺の携帯に入ってる奴にはメール一斉送信したけど。
誰も返信くれなかったな。
連絡とれたのは、お前と美夏ちゃんだけ。
明日、また少し探してみるさ。
[と軽く答えてみて]
あはは!お前らしいや!蹴り倒すか!
いい女だねぇお前!あはは!
[爆笑……無理矢理してみた。]
いいなぁ。お前みたいな奴ばっかなら。
世の中もっと楽しいだろうな。
……わりぃ、変な事言ったよな。
[ひとしきり笑った後で、イマリにはそう謝って。]
俺さぁ、アンの事好きだったんだわ。
あいつが死んだ日、初デートだったんだ。
あいつが事故ったの、待ち合わせ場所に来る途中。
笑えるよな?俺が誘わなきゃ死ななかったんだぜあいつ。
好きだって言ってもなかった。
知らなかったから、病院にも行けなかった。
馬鹿だべ俺?忘れたつもりだったのに。
帰って来やがったんだよあいつ。
[自分でも、泣いているのか笑っているのかわからずに]
言ってろ、誰が引く手あまただ。
お前引っ張ったら、逆に引きずられちまうよ。
[軽い冗談を言ってみて]
蹴られる側の人間はビクビクしてんだろうなぁ。
俺も蹴り倒されないように気をつけにゃー。
[クスクス、彼女の笑い声に合わせて]
はいはい、どーせ馬鹿ですよぉー。
俺は、馬鹿な生き方しかできねぇしな。
……なんでだろーな。
もっと早かったら、俺全部捨ててでもアンと一緒にいた。
もっと遅かったら、きっと綺麗に忘れてた。
今、この瞬間だからこそ……俺は動けないんだよ。
誰かが引っ張ってくんなきゃ、もう動けないんだ。
[ぽつり、ぽつりイマリに答えた]
ちぇ、寒くて悪かったねぇー?
[電話越しに肩をすくめた]
ん……近いとこにね……あるといいんだけど。
これは、俺だけが頑張ればなんとかなるわけじゃ………
ねぇんだよなぁ、やっぱり。
[はぁ、と深いため息をついた。ついでに]
お前が尽くすタイプなら、世の女は皆尽くすタイプ。
[真顔で言ってみて]
選択ねぇ……
[いくつか選択肢を思い浮かべてみる。]
選択肢1、アンと地獄まで駆け落ち。
選択肢2、美夏ちゃんたぶらかして大人の階段登る。
選択肢3、お前と今みたいにずっと笑いあってる。
選択肢4、優等生を拉致監禁して改造する。
選択肢5、女はやめてズイハラさんとラブラブ
さて、どれがいいと思う?
クールな俺は、選択肢1を選ぶと現れるぜ?
[本気で、そう言った。]
ズイハラさん、僕を受け入れてくれるかしらん?
不安だわぁ〜〜
[ぎゃはは!と笑って。]
………さんきゅ、イマリ。お前いい女だぜ、まじで。
[心から、礼を言った]
あぁ、食べ損ねたケーキか。
仕方ねぇなぁ、もとに戻ったら連れてってやるよ。
[無事に帰れる保証はないけれど。]
……おう。落ち着いたなら良かったさ。
こんな事で泣いてんじゃねぇよ……元気でいなきゃ。
お前らしく、な?
[比較的真面目に。優しく言葉を紡いだつもりで]
あらら?美夏ちゃんと同じのが食いてぇの?
[なんだかおかしな感じだったが、とりあえず]
まぁ、同じのでもいいけどよ。
[彼女が笑ったから、俺も笑った。]
あはは、そうそう。笑ってろ。
イマリの死に方は笑い死に以外にねぇっ!
………うん、人間笑ってんのが一番いいんだ。
[本気でそう思う。]
おう、わかった。
寂しかったらいつでもいいなさい?
お兄さんがお友達連れて遊びに行ってあげるから。
[くすくす、笑いながら。]
じゃぁ、またな。
[サヨナラとは、絶対に言わない。]
[電話を切れば、俺は一眠りしようかと思った。美夏ちゃんは、どうしたんだっけ?飯食った後家に帰ったんだっけ?今一緒の家にいるんだっけ?美夏ちゃんがいるなら俺は炬燵で、帰っていたならベッドで寝る。]
あぁ、今日もいい日かなぁ………*
[ふと、美夏ちゃんが心配になり目が覚めた。気がつけば一緒に炬燵で寝ているようで。絶対に風邪をひくと思ったから、彼女を抱き抱えて俺の部屋へ運んだ。触っちゃまずいとこに触らないよう気をつけながら、自分のベッドに寝かせて布団をかけた。なんとか理性を保っている自分が、誇らしくもあり情けなくもあり。そっと彼女の髪を撫でて、俺は自室の床で寝た。]
据え膳食わぬはなんとやら。俺、恥さらし*
―夢―
そこは真っ暗だった。音もなく、光もなく、俺は迷っていた。いや、光を失っていたんだと思う。目を閉じていたんだ。耳を塞いでいたんだ。自責と、後悔と、悲しみで。この闇は、永遠に続くような気がした。それでもいいんじゃないかと、諦めていた。動こうともせず、ただ漂っていた俺。そんな俺の閉じた耳に、声が聞こえた気がする。
「ジュンタ」
誰の声だろう?女の子の声のような気がする。だんだんと、瞳が開いていく。あぁ、世界は、こんなに明るかったっけ?
あ、美夏ちゃんおはよ。
ぜーんぜん軽かったって。寝心地悪いベッドでごめんな?
男のベッドって、嫌だよな普通。
[体を起こして、寝ぼけ眼で美夏ちゃんに声をかけた。]
俺は全然平気だから!よく間違えて床で寝たりするし!
[元気だと、頑張ってアピールしてみた]
そう、ぐっすり眠れたなら良かった。
体は平気だけど、肩が凝ったかな?
あと、朝飯食ってないから腹へった。
[あはは、とお腹を擦ってみて]
電話??あぁ、イマリと電話してたんだよ。
あいつ、泣きそうな声で電話してきやがってさ。
………ま、無理もねぇけど。
おー、作ってくれんの?
「僕のために、味噌汁を作ってくれ」
………なんちゃって。
[んー、と伸びをして。]
心配いらねぇよ。美夏ちゃんは一人になんねぇもん。
イマリだって、なんかあったらすぐ連絡するよう言ってる。
誰も一人になんかしねぇさ
[ずきずきと、頭が痛む。目の前が赤く染まる。交差点のビジョンが走る。これは誰の記憶だ?]
アンの記憶……?
それとも、死者の……?
俺はクリームシチューが好きだなぁー。
食べたいなぁー?
[美夏とリビングへ移動して]
あぁ、俺はずっと側にいるよ。
多分、俺を必要としてくれる人がいるなら。
俺は必ず助けに行く。
一人に残したり、しないさ。
[ふと、今日の夢を思い出した]
おー、すげークリームシチューだ!
[出来上がった料理を見て、子供のように喜んでみて。微かに聞こえた美夏の呟きには、小さな呟きで返した。]
俺は優しくないさ。
失うのが怖いだけだ。
臆病なだけだ。
弱い…だけだ……
[ふるふる、首をふって。食器などを並べて]
ん?なーんでもなーい!いただきまぁーっす!
[美夏の言葉には、なんでもないと答えて。喜んでシチューを食べ始めて。懐かしい、そんな味がしたと思う。]
うまい………や………。
あはは………久しぶりにうまい………
[氷が溶けていく。心の氷が溶けていく。なんでもない日常の、暖かい一コマが、俺を溶かしていくんだ。]
ん………そうだな。
少し散歩しようか?他に人がいるかも知れないしさ。
そうだな、消えたから今美夏ちゃんがここにいるんだよな。
女の子なんか連れてきた日には、親父に何言われるか……
あー、いなくて良かったぁー!
[食器を片付ける彼女を、微笑ましくみていて。お待たせ、と走りよって来たなら]
うし、散歩にいこーぜ。
はぐれないようにしなきゃな?
[適当な理由を言って、右手を差し出してみる]
いやー、うちの親父女性不信気味だからさー。
後でグチグチ言いそうで嫌なんだよ。
んー……俺は、別にこのままでもいいけど。
美夏ちゃん、独り占めできるしぃ?
[本音と冗談の入り交じった返事をして]
おーし、いこーいこー。昇る雪の中へー!
[手を繋いでいないと、消えちゃいそうで。誰かを失うのは、もう絶対に嫌だから。同じ思いをさせるのも嫌だから。繋いだ手を離さないように、優しくしっかり握っていて]
―とある交差点―
[ここは、私の終わった場所。そして、終わらぬ今日の始まった場所。私が、最後のメールを送った場所。私の終わりは近い。もう、体を止めてはいられなくなる。私は、もうすぐ帰らなきゃいけなくなる。私の最後の願いは、叶わぬままに。]
………ジュンタ………私はここにいる………
ずっと………貴方を見ていた………
[薄れていく、私の意識。あぁ、私の終わりは近い。最後にもう一度、あの人に会いたい。それはもう叶わぬ想いなのだろうか。私は、彼に伝えたい言葉があったのに。]
そそ、びっくりしちゃうぜぇー?
[手を繋いだまま、肩をすくめて]
んー?本当に思ってるってー!
可愛い女の子を独占してるって、結構幸せだよー?
[あはは、と笑ってみる。]
そうだな、俺達だけだろうなぁ。
こんな状況じゃなきゃ、神秘的なのにさー。
[それでも、携帯のムービーで世界をとっておく。隣のあの人と繋いだ、暖かい手も。明るい声も。全てを記録したいから。]
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