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熊鍋でしたかな?
食べ過ぎるとあまりよくないという俗説なら聞いたことが。
[確か蛆が沸くとかそんなものだったはずなので、食事中の面々の前で口にするのはやめておいた。]
[鍋が煮えるまで、座って大人しくしている。
ついでに、周りに居る面々の顔を見ていく。
と、その時。唸るような風の音。]
なんだ、今のは。
[窓の外を見て、眉を顰める。]
いや、しかしこれはチャンスか。
………風雪センセも逃げられまい。ふふふ。
ん、どうしましたペケレセンセ…?
[一心不乱にシャッターを切り続ける清水。
彼女の“目”の先を追う。そこには、咲き乱れる花水木。]
不吉だネェ。こりゃ。
[小声でぼそりと呟いた後、素知らぬ顔で熊鍋を食べ始めた。**]
頼むぜ相棒。
バケモンを纏めて炙り出してくれや。
[鞄に視線を落とす。羽根ペンと手帳は返事を返すかのようにかさかさ動いた。]
[熊鍋を食べ終わった後、ようやく利用者帳へ記帳した。]
出来るだけ管理棟に近い家屋を借りたいのですが、構いませんかな?
[管理人と交渉しながら、利用者帳に何度か目を通す。
そういえば、まともに自己紹介した相手の方が少なかったかと苦笑い。]
[その数時間後、管理棟に近い家屋。
年季の入った文机の上、薄暗いランプの側。置かれた古い羽根ペンと手帳。
風など吹きもしないのに、頁がひとりでに捲れていく。
何処かの誰かの名前、その傍らに白木蓮。
塗り潰された誰かの名前、その隣には花水木。
はらり、はらりと頁は進む。
帳面の主は、素知らぬ顔で読書中。**]
[朝。
身支度を整え、家屋の外へ。]
雪はまだ積もっているな。ひゃっほう。
[緊張感の欠片すら見えない駄目大人。
昨日に引き続いて雪遊びをしようと管理棟付近へ向かう。]
おやおや風雪センセぇ。
ナンパですかなぁ?んんん?
[白い布の塊に何やら声を掛けているらしき風雪を見つけた。
こちらには…多分、まだ気付いていない。]
………。
[悪戯心に火が点いた。
その場で雪玉を丸め、風雪目掛けて投げつける!]
何をおっしゃるうさぎさん。
雪合戦は別に野蛮ではありませんぞぅ?
月乃風雪センセ、みーつけたぁ。
[わざとペンネームをフルで呼んでやった。こちらはめっちゃ笑顔。]
[避け切れないので右腕でガード。
果てしなく人の悪い笑顔を浮かべつつ。]
それこそ愚問という奴ですなぁ。
原稿回収ですよ、原稿回収。
そうそう、風雪センセ宛てのチョコ配送という副業もありますがねぇ。
しっかし、なんでしょうなぁこの花水木。
季節外れもいいところでしょうに。そう思いません?
[雪玉を投げる手は一時止め、風雪に同意を求めてみる。]
ここに息子やペケレセンセがいるなんて知りませんでしたぞぅ?いやホント。
ま、チョコレートは後程管理棟にでもお持ちしましょうか。
伝承…ああ、風がどうこうっていうあれですかね?
お医者さんが話を聞かせてくれましたが。
花水木と、関係あるんですかねぇ。
[風雪につられて、見上げる恰好に。]
そういや、風雪センセって甘いもの好きでしたっけ。
いーいお知らせがありますぞぅ。ファンの子からのチョコレート、結構あったりするんですこれが。
[にやにや。]
あぁ、そうですなぁ。
後程会う事があったら、聞いてみますか。
…風雪センセー?何してるんですかな?
[風雪の挙動に首を捻る。]
もしもーし。木は口をきかないと思いますぞ、風雪センセ。
いやまあ、作家のイメージとしてはそれでいいかもしれませんが。
[強い風と、葉擦れの音。]
うう、寒っ。
ふぅ。生き返りますなぁ。
管理人さーん、お茶下さい。玄米茶があればそれを。
なければ熱いお茶ならなんでも。
[大声で管理人を呼び、茶を出すよう頼んだ。]
獏はどーこ行ったんかねぇ。
………あと、獏の連れの男がなんか気にくわんのよなぁ。
アンタあの子の何なのさ、とでも聞いてやろうかこの際。
[囲炉裏の火に向かって、ぶつぶつ呟いている。]
いかにも物分り良いですーって顔の男見るとこう、感覚的にイーってなるんですよなこれが。
しかも初対面でこっちの顔見てひそひそ内緒話までしてましたしな。
編集者になろうとした理由?
文字に関わる仕事が向いていたんでしょうな、多分。
…浪漫に満ち溢れた回答を期待していたようでしたら申し訳ありませんがね。
[そのまま、お茶が来るまでたわいもない話を続ける。**]
[『本業』の勘が鈍らないよう、常に文字と向き合う仕事に就こうと思ったのが編集者という仕事を選んだ最たる理由。
しかし、そんなことまで言う必要はなかろう。]
あぁ、紹介しておりませんでしたか。
彼が月乃風雪センセ、女の子に大人気の作家さんです。
ついさっきようやく捕まりましてな。めでたしめでたしというやつです。はっはっは。
うさぎのお嬢ちゃんはどうも調子が悪そうですなぁ。
お医者さんに見て貰った方がいいやもしれませんぞ。うん。
[出された玄米茶を啜りながら、和やかに会話していたが。
息子の連れだという男の顔を見るなりふいと目を逸らした。]
………あー。それは私に振られても答えようがありませんよ、ペケレセンセ。
ただ、まあ。狂い咲きの花水木なんざ不気味以外のなにものでもないですからなぁ。
記念写真なら他のものにした方が無難ではないですかねぇ?
[男と獏の関係は把握したが、自分から彼に話を振ったりはしない。]
あれが瑞樹の夫、か。
なよっとしてるっつーか女々しいっつーか…。
合わん。
[結局の所、口を利かない理由はそれらしい。]
樹齢千五百年の花水木ですか、それはまた。
…ま、ペケレセンセも言ってましたが一人では行かん方がいいですぞ。
ただでさえ、がけ崩れがあったばかりで危険なんですからなぁ。
[玄米茶を啜る。ずずず。]
[獏が入ってくるなり、なんとも失礼なことを言ってきた。思わず言い返す。]
私の好みはここまで年下の子じゃあないし、作家センセをいぢめる趣味もないっての。
ん、また出かけるのか?気ぃ付けてな。
[そのまま獏を見送る。手ひらひら。]
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