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-酒場-
[酒場の後片付けを終えて、あたりを見回す。
先ほどまで客で賑わっていたのが嘘のように静かだ。
母親は先に休んで貰った。
片付けも掃除も終わり、あとは少し仕込みを終えて寝るだけだ。
いつもと同じ日常。
あの、魔女裁判の前と変わらぬ日常。]
[多少の変化はある。
酒場に来る客たちは魔女裁判の事を聞きたがる者もいれば、あからさまにその話題を避ける者もいた。
買出しに出た…を見、何か言いたげな者もいた。
人殺しと真っ向から叫ぶ人間は、いない。
…は何も言わない。
何も、言えなかった。]
[母も、少し変わった。
帰って来た…を見て、母親は安堵のあまり泣き崩れた。
あれ以来、今まで以上に息子を心配する母となった。
特に、“勘”に関しては。
隠し通していくつもりだが、いつかまた呼び出される可能性は十分にある。
その時処刑される“魔女”が自分ではない、と、…は言い切れない。
可能ならば、母を哀しませなければいいと思うばかりだ。]
…………。
[カウンターの陰からとあるモノを取り出し、近くの椅子を引いて腰掛ける。
取り出したのは、一冊の本。
ユノラフがクレストへと届けた本だ。
頼み込んで譲って貰った一冊。
普段は本を読まない…だ。家族や知り合いに気付かれる場所で読むのが気まずく、こうやって閉店した店で少しずつ読み進める。
本はまだ始まりの部分。
酷くゆっくり、ゆっくり、読み進める。
この本が読み終わる頃、自分は、周囲はどうなっているだろうか、と。
ふと、考えた。]
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