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[何事もなかったかのように、エレベーターは最上階へとたどり着く。
周りの子たちには、気にしない素振りで話しかけていたが、あれだけの衝撃を受けながらも、不具合の一つも見せない機械に、私は一抹の不安を覚えていた。]
――…え、…?
[案内係がワカバからナオへ変わった直後。
私は、今まで身に覚えのない程のひどい眩暈に襲われた。]
…な、に――?
[乾いた唇からこぼれた疑問は、果たして誰の耳も掠めず。
「私」の意識はそこで*途切れた*]
[マシロの意識が途切れた直後、明らかに別の人格と思われる意識が、少女の思考になり替わり動き始める。]
暗い… 寂しい…
だから… 道連れに…
――なんて言えばいいのか? …っくっはハハッ
表向きの理由としては上出来かもな。
[裡で響く失笑と言葉は、声として発せられることはなく。
また姿もマシロと呼称される者と変わらぬまま。
何物かは、少女の体を、精神を乗っ取り、動き始める。]
[個体として姿を持たず、また存在意義すら危うい者に取って、何かに憑り付くことは容易。
スピーカー越しに、まずは手始めのあいさつと、誘い文句を手短に紡ぐ]
ひとり、追い出してください
[恐怖は、簡潔で意図があやふやな方が煽りやすい。]
ま、ざっとこんなものかな?
[マシロの意識に憑りつきし者は、裡で自賛の笑みを浮かべた。]
道連れは多い方が良いに決まっている。
だから。
[くっと押し殺した笑みが引上げた左の口角から漏れる]
入れ替わりを悟られないようにしないとな。
「くびにしますよ」
そう聞いて。彼女達は何を想像するかねぇ?
――実習失格? それとも
[表で繕う傍で、裏ではニタニタと、舐るような視線を撒き散らす。]
あぁ、そうか。
彼女達は想像力に乏しいから、まずはどのようになるのか見本が必要か。
[さも、愉しいことを思いついたかのように、目を大きく見開くような表情を浮かべ、憑りつく者は物色するように裡から一人ひとり眺めだす。
そしてある人物の顔を覗き込み。一瞬だけ息を潜め]
[指をさすように、ある少女を指差し。
憑りつく者はニタリと口嗤う。]
きーぃーめーたぁ…。
[不安に感情を揺らす者たちの声で、涙で潤うかのように。
押し殺してもなお漏れる失笑は次第に大きく爆ぜて。]
何なら、お前も。道連れにしてやろうか?
[憑りつく者の器に宛てられた悪態を吐く少女へ。
下卑た笑みを向けた。]
まずはひとり。
したへご案内いたしまーす。
[まるで恐怖に閉じ込められた少女たちをからかうかのように。
エレベーターガールの口調のそれをなぞり、憑りつく者は片手を宙に翳し、微笑む。]
お客様。この空間は大変危険ですので
わたくしの指示に従って行動くださいませ。
[恭しい態度とはうらはら。口許は醜くゆがんだ表情は――]
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